S・O・A・P!!


「何で姉ちゃんがいんの?」

あったらしい~朝が来た~!希望の朝~だ!
どこぞの国営放送のラジオがそんな音楽を流しているであろう時刻。希望も何もない朝を迎える羽目になった私は、苛々しながら朝ご飯をかき込んでいた。

「住んでるアパートの修復工事が始まるから、暫らくは実家から職場に通うんだってさ」
「へえ~。姉ちゃんも大変だな~」

絶対、こいつ、そんな事欠片も思っちゃいねーよ。
我が母君と弟君の心底どうでも良さそうな声を聞き流しながら、そんな事を考える。まったく、少しはいたわりの心を持ってほしいもんである。逆の立場なら自分も同じ事を言ってると思うけどね。やっぱり、この人達は私の家族だわ。

私の実家は、実は職場から十分通勤圏内にある。両親との確執。姉弟間のカインコンプレックス―……なんてもんは当然だがうちにはない。ただ単に一人暮らしがしたいという理由で、私は職場の近くに一つ部屋を借りていた。
それにあっちにいれば朝ギリギリまで寝ていられるし―……これは朝が苦手な私にとって大きな利点だ。

「……っうか、アパートの修復っていつまでかかるんだ?」
「知らん。あっ、お母さん、私も番茶飲みたい!」

弟の質問にはこう答えたが、勿論、アパートの修復云々は真っ赤な嘘だ。何故、こんな嘘を吐いているかと言われると―……あのカラフルやくざ達のせいである。あいつらのせいでこれから早起き決定だよッ!あーッ!やっぱり苛々する!

「まっ、母さんはお姉ちゃんが一人増えたところで別にかまわないけどね。一人分増えるだけだし。あっ、そうだ。あんた、これ職場に持っていってくれない?昨日、義姉さんから筍もらって混ぜご飯作ったのはいいけど量が多くって」

母親のその声に番茶を啜る手を止めてテーブルへと目を向ければ、そこにあったのは白い大皿に乗せられた大量の筍ご飯のおにぎり。確かにやけに筍が多いと思ったけど―……現に味噌汁すら具が筍だったわけだし。だけど、カーチャン……これは流石に作りすぎだわ。母親の言う通りお裾分けでもしないかぎり、このおにぎりの山は減りはしないだろう。

「……わかった。持ってくわ」

++++++++++++++++++++

「……って、あんたら何やってんのォオオオ!?」

駅近、スーパー近、築5年の2DK。家賃それなり。中々の好条件のアパートの一室に私の悲鳴に似た叫び声がこだまする。

「……何を?温めようとしていただけだが?第一、貴様自身、昨日言っただろうが。これは物を加熱する調理器具だとな」

カラフルやくざの一人―……青髪のいけすかないロン毛が私をバカにしたように見下しながら冷笑をする。……ガッ!
バカはお前らの方だよ!!
私は内心頭を抱えたい気持ちでいっぱいだった。いや、むしろ、現在進行形で抱えている。だって―……

「どっっこの世界に卵をレンジで温めようとするバカがいるのよ!?」
「その方がお湯を沸かすより簡単に湯で上がるだろう?」
「湯で上がんねーよッ!!その前に爆発するわッ!」

今日び卵をレンジに入れるようなバカが存在するなんて―……こいつらの国にはレンジも何もなかったの!?
こいつらに対するツッコミは尽きる事がない。出来ることなら尽きてほしいが尽きてくれない。

「はあ……卵のついでに言っておくけど、そこの銀紙―……アルミホイルって言うんだけどそれもレンジに入れないでね」

仕方がない。何も知らないものだと思って話を進めた方が後々のためだ。この人達に現代日本の常識は通じないと考えよう。うん。だったら、今のうちにある程度の常識をたたき込んでおかなきゃ。自分が不在の間、火事でも起こされた日には、私の人生はその時点で詰みである。

「ああ……だからか―……」

……待て。今、この赤髪なんって言った?

「……ふむ。だから、昨日、私達が使ったとき火花が散ったわけか。お前が言ったように早めに取り出して正解だったな、クラトス」

HAHAHAじゃねーよ!こっちはぜんっぜん笑えねーよ!何、外国のホームドラマみたいな雰囲気醸し出してんだよ!
……はあ……私の可愛い胃ちゃん…大丈夫かしら。胃がキリキリするのはたぶん気のせいじゃない。

S……その方がお湯を沸かすより簡単に湯で上がるだろう。
O……卵レンチン阻止。
A……一般常識の欠如。
P……早急な教育。
3/11ページ
スキ