S・O・A・P!!

朝ギリギリに起きて、通勤渋滞に少しイライラしながら職場に出勤。
午前中は外来業務に追われて、午後は病棟業務に追われ、そして、帰宅。
そんなお決まりのルーチンワークが私を待っている―……はずだった。

《S・O・A・P!》

「姉様!姉様!!しっかりして」

さて、これをどうしたらいいのだろうか?
昼下がりの休み時間。ここのところ寒暖差が激しかったけれど、今日はポカポカの快晴で―……そんな陽気に釣られて休み時間に外に出たのが間違いだった。
普段なら救急搬送時以外静かな救外入り口付近に響き渡る数人の話し声―……というか悲鳴。時間外なら救外前にいるはずの守衛さんも病院が開いてるこの時間は館内の見回りで―……つまり、不幸にも私が第一発見者か。
悲鳴を上げているのは現代日本にあるまじき髪色をしたカラフルな四人組だった。よく見ると一人は倒れこみ息も絶え絶えという有様で―……何があったんだ本当に……って、そんな場合じゃないよ。

「何があったんですか?」
「ッ……貴様ら人間はどこまで欲深なのだッ!」

私の言葉にカラフル人種の一人が声を荒げる。そして、他の二人―……現在進行形で倒れている女の人以外の人間がまるで同意するかのように盛大に私を睨んだ。
うるせえ、知らねえよ。大体、人間人間って今地球上にいる人類は皆ホモサピだよ。お前らもホモサピだろうが。
……ダメだ話にならない。私は持っている病棟用のPHSのボタンを手早く押しコールを掛ける。このコールを使う日が来るなんて―……内心ため息を吐きたい気持ちでいっぱいだ。

「コードブルー要請。救外入り口前にて人が倒れています。念のためAEDを用意してください。……ほら、どいて」

……分かっちゃいたがカラフル人種達は一向にどこうとしない。何がしたいんだこいつら。
もういいわ。ほら、どけどけ。
彼女が倒れてからどれだけ時間が経ってるかは知らないが、脳に酸素が十分にいってないとするなら事態は一刻を争う。
私は奴らを無理矢理払いのけて女性の脈を取った。……ほぼない。呼吸は……辛うじてといったところか―……心臓マッサージ開始。

「AED持ってき―……って、ちょっとあなた達!?何をしてるの!」

不意に聞こえてきた足音と聞き慣れた声に私は一人胸を撫で下ろす。流石、コードブルー。思っていたよりも早く応援が駆け付けてくれたようだ。そして、看護師さんナイスです。まとわりつかれてやりにくい事この上なかったっす。

「……あなた薬局の人ね?心マと人工呼吸は私が代わるからアドレナリン持ってきて!」
「はい。よろしくお願いします」
「止めろ!姉様に触るな!」
「うるさい!邪魔だから退きなさい!殺したいの!?」

流石、白衣の悪魔……じゃなくて天使。カラフル人種を一喝で黙らせたよ。百戦錬磨のこの人達にかかれば誰でもそうなる。私もそうなる。
さて、救急処置なら私よりも看護師さんの方がずっと手慣れているし、先生ももうすぐここに駆け付けてくれるだろう。私は昇圧剤取りにいかなきゃ。
阿鼻叫喚とも言える悲鳴と怒号を背に私は薬局へと走り出した。

S……貴様ら人間はどこまで欲深なのだッ!
O……コードブルー要請。心臓マッサージ施行。
A……脈なし、呼吸なし。
P……早急な救命処置の必要性。AEDによる除細動。アドレナリンi.v。
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