夢主コラボ童話(リレー小説)
『……えっと、ハオリさん?』
「そんな他人行儀にならなくてもいいのに。私達、もう武器を突き付け合った仲じゃない。」
コロコロと鈴を鳴らすように赤い頭巾の少女は笑った。
森の中で出会った人は、やっぱり変り者でした。
木々の隙間を縫って小鳥の囀りが聞こえてくる。
もしや―……と、その声が聞こえてくる方向に目を向けるけど、やっぱり今回も外れのようだ。
「……鳥?どうしたの?二人とも急にそっちを見るなんて。」
「そりゃあ、鳥の声が聞こえたからだよ。なっ、マナ?」
恐らくロイドもあたしと同じ事を考えたのだろう。
ハオリの疑問はもっともだ。
自分以外の人間が揃って同じ方向を見ていれば、そりゃあ、不審に見えるでしょうね。
少なくともあたしがハオリの立場ならそう思う―……
「……そうだったの。もし鳥の姿がなかったら、私、あなた達の首筋にナイフを突き付けていたところよ。」
ヤバい。想像以上にこの子物騒だ。
唖然と見つめるあたし達に対して、ハオリは冗談と笑っているが―……
あの質感、光沢、ハオリが握り締めているのは紛れもなく本物の刃物である。
「でも、どうして鳥なの?」
たぶん、悪い子じゃないとは思うんだけど―……
こっちは丸腰だし、変な事を言ってこの子に怪しまれないほうがいいのかもしれない。
だって、いきなり現れた老人に―……
“弟の病気を治したいので青い小鳥を探してきてください”
……と、言われてノコノコ旅してます~って聞いた人間がどう思うと思う?
電波である。確実にいっちゃってる人の仲間入りである。
「実は、俺達の家に変な婆ちゃんが来てさ。弟の病気を治すのに青い小鳥を探してるって言うんだよ。
だから、こうして妹のマナと旅をしてるってわけだ。」
『おい、待て馬鹿兄貴。』
思わず口から心の声がそのままだだ漏れた。
確かに、ロイドの人を疑わない正直さは長所だ。
だが、人は裸では生きていけない。
つまり、この正直さはある意味短所でもあるのだ。
そのせいで面倒ごとに今まで何度巻き込まれたことか……ッ!
今回も、ほら、ハオリの目だって、あたし達を疑う―……
「なんだ、そういうコトだったのね。」
マズい。この子の事本格的に分からなくなってきた。
和やかに談笑を始めたハオリとロイド。そして、ついていけないあたし。
昼下がりの爽やかな空気の中。そんな爽やかな空間の一区間だけ、何とも言えない微妙な空気が支配していたのは言うまでもない。
「じゃあ、次はハオリの番な!ハオリはこんなところで一人で何してたんだ?」
「私?私は妹が心配で―……あっ。」
『……どうしたの?』
ロイドの質問に何かを思い出したのだろうか?
虹彩の異なる双眸を大きく見開いたハオリの口から声が漏れた。
「私、もう行かなきゃいけないの。ゴメンなさい!」
『ちょっと待って。流石に危ないわ。』
あたしは慌てて立ち去ろうとするハオリの手を取る。
この森、道があるにはあるけれど石畳でしっかり舗装されたような道じゃない。
それこそ獣道に毛が生えたレベルのものだ。
そんな森の中―……いつ野生動物が牙を剥いてくるか分かったもんじゃない。いや、何も襲ってくるのが動物だけとは限らない。
「―……つまり、丸腰のまま取り残されるのが嫌だっていうんだろ?マナは。」
「そっちの心配してたの!?」
『あったり前じゃん。』
兄の諦めたような声。
ハオリの呆れた声。
あたしの自信に満ちた声が森にこだまする。
誰だって自分の身は可愛い。
そして、あたしもその例に漏れず自分の身と、一応、肉親の身も可愛いのである。
「……お前、今、滅茶苦茶失礼な事考えてただろう?」
『安心して。一応、悪い事じゃないから。一応。
それにハオリにはまだ聞きたい事、あるし、ね。』
片目を瞑ってハオリへと振り向けば、彼女は肩を揺らして楽しげに笑っていた。
「そうね。この辺りは“狼”が出るって話だし、私と一緒の方がいいかもね。
じゃあ、改めてよろしくね。ロイド、マナ。」
差し出された白い手をあたし達は順番に握った。
森の奥で生まれた風がハオリの柔らかな長い黒髪を踊らせる。
心強い同行者も出来た事だし、今度こそ見つかるといいんだけどなー鳥。