トレジャーハント!
今、俺はある人物を抱いて飛んでいる。
その人物とはコノハナサクヤ、異世界から来た盲目の少女だ。
盲目、といっても、隣で平行して飛んでいる白い鳥のビンガの力を借りて、世界を見ることはできるらしいが。
猛スピードで飛ぶ中、サクヤをちらりと見る。彼女は嬉しそうに頬を緩ませている。飛んでいることへの恐怖心はないらしい。
それにしても、こうして抱きつかれていると、彼女の体温が伝わってくる。
俺は人に触れられるのは余り好きじゃないが、サクヤなら、…まあ、いいだろう。
そんなことを考えていると、前方に万魔殿が見えた。
「さあ、着いたぞ。万魔殿だ」
俺はゆっくりと着陸し、サクヤを体から離そうとする。
しかし、サクヤは俺から離れようとしない。…無理やり引っぺがすわけには、いかないよな。
「どうしたんだ?」
「もうちょっとこうしてたいの!」
サクヤはそう言って抱きしめる力を強くする。これは困ったな…。
「…もういいか?」
「しょうがないなあ!ベルゼお兄ちゃん、困ってるみたいだから今回はここまでね!」
そう言って彼女は俺から離れ、地に降り立つ。
「…次回もあるのか…」
俺の方はというと、抱きつかれて困っている自分を想像して、思わず苦笑してそう漏らした。
「あいかわらずおっきいおうちだねー」
サクヤは万魔殿を見上げている。
さっきの俺の呟きは聞こえなかったらしい。少しホッとする。
「さあ、中へ入ろう。早くサタンに会いたいだろ?」
「うん!会いたい!いこいこー!」
そう言ってサクヤは俺の手を握り、引っ張って歩いて行く。
「…って、サタンの部屋わからんだろ、お前」
「あっ、そっか!案内して、ベルゼお兄ちゃん!」
俺は頭を抱えそうになったが、さっき彼女に心配されたことを思い出し、なんとかこらえる。
そしてサクヤを誘導し、サタンの部屋の前についた。
扉を開けるとだだっ広い空間にこたつと無駄にでかいTV、奥には大量のDVDやらビデオやらがある。
「わー、なんかすごいお部屋だねー」
そう呟いたサクヤの声が聞こえたようで、こたつに潜っていたらしい部屋の主が顔を出す。
「あっ!サクヤちゃんだー!」
「サタンお兄ちゃーん!!」
サタンを一目見たサクヤは彼の元へ駆け寄る。
サクヤが側まで来ると、サタンは布団から這い出てきた。
そして起き上がり、サクヤの頭にぽんと手を置く。
「よく来たね、サクヤちゃん!また会えて嬉しいぞ!」
そう言ってサタンはサクヤの頭に乗っている手を左右に動かし、彼女を撫でた。
撫でられたサクヤは笑顔で応える。
「えへへっ!サクヤもお兄ちゃんたちに会えて嬉しいよ!」
彼女は言うなり、サタンに飛びついた。
サタンは驚きもせずに、そんな彼女の前髪を上げて額にキスをする。
それを見た俺は
「サクヤ、誰にでも飛びつくのはよくないぞ。私とサタンだけにしておけよ」
と優しく注意した。
しかしサクヤは注意の内容よりも俺のことが気になったようで。
「あれ…?さっきまで“俺”だった気がしたのに…?」
と言って俺の顔を不思議そうに見つめる。
「俺の前にいる時は“私”にしといて、って言ってあるんだ」
サタンがサクヤの顔を覗きながら言った。
するとサクヤもサタンの方を向いて
「そうなんだー、変わってるねー」
もう興味を失ったらしい。子供って本当に移り気だよな…。
…さっきはいきなり飛びつかれたのに驚いて、ついつい素に戻ってしまったとは、恥ずかしくて言えない…。
「な!サクヤを歓迎するパーティーしようぜ!」
サタンが突然そんなことを言い出した。
「お前…パーティだって準備がい…「おーい!アガリアレプトー!サタナキアー!」
俺が喋ってる途中なのにこいつ…大声で遮りやがって…。
「お呼びでしょうか?」
「俺を呼んだかい?」
白い髪を後ろで束ねたアガリアレプトと二色の短い髪をツンツンと立てているサタナキア。
アガリアレプトは右目に、サタナキアは左目に、同じ片眼鏡をかけている。
「このお兄ちゃんたちは誰?」
「俺の部下のアガリアレプトとサタナキア!」
サクヤが質問すると、サタンはふたりをそれぞれ指差して答えた。
「アガリアレプトは他の大罪の呼び出し、サタナキアはニスロクを呼んで一緒に料理の準備をしてくれ!
会場はベルゼのとこの大広間な!」
サタンが命令するとふたりは「はっ」と言って、部屋を出て行く。って!
「いやいや、待て!何故、私の大広間を使うことになってるんだ!」
「え?いいじゃん!あそこならパーティーに最適だろ!」
サタンが悪びれもなく笑顔で言った。
俺の大広間は食事会には向いてるかもしれんが、パーティーには向いてないだろ…!
…と言いたいところだったが、ものすごいニコニコ顔のサタンとサクヤを見てツッコむ気が失せる。
…まあ、いいか…。サクヤとサタンが楽しめるんならそれで。
しばらく三人で談笑しながら待っていると
サタナキアが「料理の準備出来たぜー」と扉から顔を出す。
騒がしいふたりを連れ、俺は会場へと向かう。
そしてでかくて重々しい扉の、下の方にある小さな入口を開けると会場に入った。
するとサクヤが「わぁ…!すごいキレイ…!」と感嘆の声を上げる。
それを受けて俺は「当たり前だ」と笑う。
紫と黒を基調としたシックな部屋に、金の房付きの赤いビロードが敷かれた長テーブル。
そしてテーブルの上には、前菜であろう水々しい野菜のサラダと青く透けるグラスに入った飲み物が置かれている。
これを美しいと感じないものがいようか、いや、いない。
「でもなんだか寂しいねー。あっ!お花出してあげる!」
この空間が物足りなかったらしいサクヤは、手から数本の白い薔薇を出す。
するとサタンはすぐさま、お得意の氷魔法で花瓶を作り上げる。
そして白い薔薇をそこに挿し、テーブルの中央に置いた。
…ふむ、これも悪くない。
そんなことを考えていると、後方で扉を開ける音がした。
「サクヤちゃーん!久しぶりー!」
「やあ、君」
「あっ!アスモお兄ちゃんにマモンお兄ちゃん!」
サクヤがアスモデウスに駆け寄ると、やつは少し照れながらサクヤと握手した。
マモンの方はというと、さっさと自分の席に座っている。
「レヴィアタン様とベルフェゴール様は欠席だそうです。サマエル様はどこを探してもいらっしゃいませんでした」
アスモデウス達より後に入ってきたアガリアレプトが報告する。
「え?レヴィお兄ちゃんたちは来ないの?忙しいのかな?…ちょっと淋しいな」
くっ!こんな小さな子を悲しませるなんて…!やつらには仕置きが必要だな…。
「しかたないさ、あいつらにもいろいろ事情があるんだから!」
サタンはそう言ってサクヤを励ますが…。
どうせやつらのことだ、「女が嫌いだから」や「だるいから」という理由だろう。
サマエルは仕事で人間界にいるに違いない。一番会いたがってるだろうにいい気味だな。
「さあ、パーティーを始めよう!いないやつらの分まで楽しもうぜ!」
サタンがそう言った瞬間、パーティーが始まった。
それからは楽しい時間があっという間に過ぎていった。
食事ではサクヤがなんでも笑顔で「おいしい!」と言って食べるので、
ニスロクははりきってデザートを作り、彼女を満腹にさせた。
そしてそのあとはアスモデウスが持ってきた色鉛筆と画用紙を使い、全員で絵を描いた。
サタンとアスモデウスとサクヤは楽しそうにいろいろと落描きし、
マモンは最初こそ嫌がっていたが、スイッチが入ったようでひとりもくもくとカラスを描いていた。
俺はそんな様子をのぞき見ながら、サクヤのことを描いた。
完成した絵を彼女に見せるととても喜び、「宝物にする!」と言う。
そこで俺は上等な筒に入れて彼女にその絵をプレゼントした。
お絵かき大会が終わったら、今度はカラオケ大会になった。
サタンは人間界で放送中の戦隊モノの主題歌を歌う。
アスモデウスは流行りの恋歌、マモンは何故かデスメタルを歌っていた。
俺はオペラやミュージカルの曲を歌い、サクヤはそれぞれと一緒に同じ歌を歌っていた。
それが終わった頃には、サクヤは疲れてしまったらしい。眠そうにあくびをひとつ。
「そろそろ寝たらどうだ?」と俺が言うと
サクヤが「お兄ちゃんたちと一緒に寝たい!」と言い出したので、全員で広い客室へ向かった。
その部屋のソファーやテーブルを奥へ押しやり、床に布団を敷く。
サクヤの布団の側には鳥籠を置き、そこがビンガの居場所となった。
サクヤは布団に入ると急に淋しくなったのか、「おばば…」と呟いたのが聞こえた。
サタンもそれが聞こえたらしく、サクヤの頭をそっと撫でる。
するとサクヤは安心したように寝息を立て始めた。
そしてその瞬間…
「えっ!?」
忽然と姿を消してしまった。鳥籠の中にいたはずのビンガもいなくなっている。
「わわわ!サクヤちゃんは大丈夫なのか!?」
混乱したアスモデウスはサクヤが寝ていた布団を触りまくる。
マモンも少なからず驚いている様子だ。
だが俺は少しも驚いていなかった。…むしろ、こうなることを予想していた。
なにせあの時サクヤは言った。
【お家で寝てて、でも起きたらここで】
ということは、その逆だって起こりえるはずなのだから。
「…帰ったんだな」
サタンが落ち着いた様子で言う。何も知らないはずなのに。…さすがは悪魔の長だな。
「へっ?帰っ…?」
「なるほど」
アスモデウスはいまだ混乱していたが、マモンの方は納得したようだ。
話が一段落したところで、俺達はそれぞれの部屋に帰ることになった。
それぞれの部屋でそれぞれの好きなように過ごす。
…サクヤもきっと、目覚めたらそのようにするんだろう。
俺はおばばとやらに楽しそうに今日のことを話すサクヤの様子を想像して、静かに微笑んだ。
霧の向こうで
《あとがき》
はい!というわけでね、へっぽこさんとこのサクヤちゃんとうちの大罪のうちよそ小説でした!
サクヤちゃん、だいぶキャラ間違ってるような気がしますが!…すみません!
そして管理が面倒という理由で一部のキャラ不在ですが←
でもとーっても楽しく書けました!
その人物とはコノハナサクヤ、異世界から来た盲目の少女だ。
盲目、といっても、隣で平行して飛んでいる白い鳥のビンガの力を借りて、世界を見ることはできるらしいが。
猛スピードで飛ぶ中、サクヤをちらりと見る。彼女は嬉しそうに頬を緩ませている。飛んでいることへの恐怖心はないらしい。
それにしても、こうして抱きつかれていると、彼女の体温が伝わってくる。
俺は人に触れられるのは余り好きじゃないが、サクヤなら、…まあ、いいだろう。
そんなことを考えていると、前方に万魔殿が見えた。
「さあ、着いたぞ。万魔殿だ」
俺はゆっくりと着陸し、サクヤを体から離そうとする。
しかし、サクヤは俺から離れようとしない。…無理やり引っぺがすわけには、いかないよな。
「どうしたんだ?」
「もうちょっとこうしてたいの!」
サクヤはそう言って抱きしめる力を強くする。これは困ったな…。
「…もういいか?」
「しょうがないなあ!ベルゼお兄ちゃん、困ってるみたいだから今回はここまでね!」
そう言って彼女は俺から離れ、地に降り立つ。
「…次回もあるのか…」
俺の方はというと、抱きつかれて困っている自分を想像して、思わず苦笑してそう漏らした。
「あいかわらずおっきいおうちだねー」
サクヤは万魔殿を見上げている。
さっきの俺の呟きは聞こえなかったらしい。少しホッとする。
「さあ、中へ入ろう。早くサタンに会いたいだろ?」
「うん!会いたい!いこいこー!」
そう言ってサクヤは俺の手を握り、引っ張って歩いて行く。
「…って、サタンの部屋わからんだろ、お前」
「あっ、そっか!案内して、ベルゼお兄ちゃん!」
俺は頭を抱えそうになったが、さっき彼女に心配されたことを思い出し、なんとかこらえる。
そしてサクヤを誘導し、サタンの部屋の前についた。
扉を開けるとだだっ広い空間にこたつと無駄にでかいTV、奥には大量のDVDやらビデオやらがある。
「わー、なんかすごいお部屋だねー」
そう呟いたサクヤの声が聞こえたようで、こたつに潜っていたらしい部屋の主が顔を出す。
「あっ!サクヤちゃんだー!」
「サタンお兄ちゃーん!!」
サタンを一目見たサクヤは彼の元へ駆け寄る。
サクヤが側まで来ると、サタンは布団から這い出てきた。
そして起き上がり、サクヤの頭にぽんと手を置く。
「よく来たね、サクヤちゃん!また会えて嬉しいぞ!」
そう言ってサタンはサクヤの頭に乗っている手を左右に動かし、彼女を撫でた。
撫でられたサクヤは笑顔で応える。
「えへへっ!サクヤもお兄ちゃんたちに会えて嬉しいよ!」
彼女は言うなり、サタンに飛びついた。
サタンは驚きもせずに、そんな彼女の前髪を上げて額にキスをする。
それを見た俺は
「サクヤ、誰にでも飛びつくのはよくないぞ。私とサタンだけにしておけよ」
と優しく注意した。
しかしサクヤは注意の内容よりも俺のことが気になったようで。
「あれ…?さっきまで“俺”だった気がしたのに…?」
と言って俺の顔を不思議そうに見つめる。
「俺の前にいる時は“私”にしといて、って言ってあるんだ」
サタンがサクヤの顔を覗きながら言った。
するとサクヤもサタンの方を向いて
「そうなんだー、変わってるねー」
もう興味を失ったらしい。子供って本当に移り気だよな…。
…さっきはいきなり飛びつかれたのに驚いて、ついつい素に戻ってしまったとは、恥ずかしくて言えない…。
「な!サクヤを歓迎するパーティーしようぜ!」
サタンが突然そんなことを言い出した。
「お前…パーティだって準備がい…「おーい!アガリアレプトー!サタナキアー!」
俺が喋ってる途中なのにこいつ…大声で遮りやがって…。
「お呼びでしょうか?」
「俺を呼んだかい?」
白い髪を後ろで束ねたアガリアレプトと二色の短い髪をツンツンと立てているサタナキア。
アガリアレプトは右目に、サタナキアは左目に、同じ片眼鏡をかけている。
「このお兄ちゃんたちは誰?」
「俺の部下のアガリアレプトとサタナキア!」
サクヤが質問すると、サタンはふたりをそれぞれ指差して答えた。
「アガリアレプトは他の大罪の呼び出し、サタナキアはニスロクを呼んで一緒に料理の準備をしてくれ!
会場はベルゼのとこの大広間な!」
サタンが命令するとふたりは「はっ」と言って、部屋を出て行く。って!
「いやいや、待て!何故、私の大広間を使うことになってるんだ!」
「え?いいじゃん!あそこならパーティーに最適だろ!」
サタンが悪びれもなく笑顔で言った。
俺の大広間は食事会には向いてるかもしれんが、パーティーには向いてないだろ…!
…と言いたいところだったが、ものすごいニコニコ顔のサタンとサクヤを見てツッコむ気が失せる。
…まあ、いいか…。サクヤとサタンが楽しめるんならそれで。
しばらく三人で談笑しながら待っていると
サタナキアが「料理の準備出来たぜー」と扉から顔を出す。
騒がしいふたりを連れ、俺は会場へと向かう。
そしてでかくて重々しい扉の、下の方にある小さな入口を開けると会場に入った。
するとサクヤが「わぁ…!すごいキレイ…!」と感嘆の声を上げる。
それを受けて俺は「当たり前だ」と笑う。
紫と黒を基調としたシックな部屋に、金の房付きの赤いビロードが敷かれた長テーブル。
そしてテーブルの上には、前菜であろう水々しい野菜のサラダと青く透けるグラスに入った飲み物が置かれている。
これを美しいと感じないものがいようか、いや、いない。
「でもなんだか寂しいねー。あっ!お花出してあげる!」
この空間が物足りなかったらしいサクヤは、手から数本の白い薔薇を出す。
するとサタンはすぐさま、お得意の氷魔法で花瓶を作り上げる。
そして白い薔薇をそこに挿し、テーブルの中央に置いた。
…ふむ、これも悪くない。
そんなことを考えていると、後方で扉を開ける音がした。
「サクヤちゃーん!久しぶりー!」
「やあ、君」
「あっ!アスモお兄ちゃんにマモンお兄ちゃん!」
サクヤがアスモデウスに駆け寄ると、やつは少し照れながらサクヤと握手した。
マモンの方はというと、さっさと自分の席に座っている。
「レヴィアタン様とベルフェゴール様は欠席だそうです。サマエル様はどこを探してもいらっしゃいませんでした」
アスモデウス達より後に入ってきたアガリアレプトが報告する。
「え?レヴィお兄ちゃんたちは来ないの?忙しいのかな?…ちょっと淋しいな」
くっ!こんな小さな子を悲しませるなんて…!やつらには仕置きが必要だな…。
「しかたないさ、あいつらにもいろいろ事情があるんだから!」
サタンはそう言ってサクヤを励ますが…。
どうせやつらのことだ、「女が嫌いだから」や「だるいから」という理由だろう。
サマエルは仕事で人間界にいるに違いない。一番会いたがってるだろうにいい気味だな。
「さあ、パーティーを始めよう!いないやつらの分まで楽しもうぜ!」
サタンがそう言った瞬間、パーティーが始まった。
それからは楽しい時間があっという間に過ぎていった。
食事ではサクヤがなんでも笑顔で「おいしい!」と言って食べるので、
ニスロクははりきってデザートを作り、彼女を満腹にさせた。
そしてそのあとはアスモデウスが持ってきた色鉛筆と画用紙を使い、全員で絵を描いた。
サタンとアスモデウスとサクヤは楽しそうにいろいろと落描きし、
マモンは最初こそ嫌がっていたが、スイッチが入ったようでひとりもくもくとカラスを描いていた。
俺はそんな様子をのぞき見ながら、サクヤのことを描いた。
完成した絵を彼女に見せるととても喜び、「宝物にする!」と言う。
そこで俺は上等な筒に入れて彼女にその絵をプレゼントした。
お絵かき大会が終わったら、今度はカラオケ大会になった。
サタンは人間界で放送中の戦隊モノの主題歌を歌う。
アスモデウスは流行りの恋歌、マモンは何故かデスメタルを歌っていた。
俺はオペラやミュージカルの曲を歌い、サクヤはそれぞれと一緒に同じ歌を歌っていた。
それが終わった頃には、サクヤは疲れてしまったらしい。眠そうにあくびをひとつ。
「そろそろ寝たらどうだ?」と俺が言うと
サクヤが「お兄ちゃんたちと一緒に寝たい!」と言い出したので、全員で広い客室へ向かった。
その部屋のソファーやテーブルを奥へ押しやり、床に布団を敷く。
サクヤの布団の側には鳥籠を置き、そこがビンガの居場所となった。
サクヤは布団に入ると急に淋しくなったのか、「おばば…」と呟いたのが聞こえた。
サタンもそれが聞こえたらしく、サクヤの頭をそっと撫でる。
するとサクヤは安心したように寝息を立て始めた。
そしてその瞬間…
「えっ!?」
忽然と姿を消してしまった。鳥籠の中にいたはずのビンガもいなくなっている。
「わわわ!サクヤちゃんは大丈夫なのか!?」
混乱したアスモデウスはサクヤが寝ていた布団を触りまくる。
マモンも少なからず驚いている様子だ。
だが俺は少しも驚いていなかった。…むしろ、こうなることを予想していた。
なにせあの時サクヤは言った。
【お家で寝てて、でも起きたらここで】
ということは、その逆だって起こりえるはずなのだから。
「…帰ったんだな」
サタンが落ち着いた様子で言う。何も知らないはずなのに。…さすがは悪魔の長だな。
「へっ?帰っ…?」
「なるほど」
アスモデウスはいまだ混乱していたが、マモンの方は納得したようだ。
話が一段落したところで、俺達はそれぞれの部屋に帰ることになった。
それぞれの部屋でそれぞれの好きなように過ごす。
…サクヤもきっと、目覚めたらそのようにするんだろう。
俺はおばばとやらに楽しそうに今日のことを話すサクヤの様子を想像して、静かに微笑んだ。
霧の向こうで
《あとがき》
はい!というわけでね、へっぽこさんとこのサクヤちゃんとうちの大罪のうちよそ小説でした!
サクヤちゃん、だいぶキャラ間違ってるような気がしますが!…すみません!
そして管理が面倒という理由で一部のキャラ不在ですが←
でもとーっても楽しく書けました!
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