トレジャーハント!
その日、メルトキオは穏やかに晴れ渡っていた。そのなかの一角にある貴族街では、きらびやかな衣装を身にまとった女性たちが行き来している。
豪邸が並び立つ貴族街でも、さらに大きなワイルダー邸。
その玄関の前に、女性が2人、立っていた。
『レイミア、ほんとにすごい剣幕だったね』
「まあ…。だって昨日あれだけ強行突破だったのに今日も朝から移動とか、さすがに無理だよ」
『それは確かに。ロイド、小さくなってたよ』
「それはいいの。なんか最近突っ走り気味だったから、お灸すえただけ」
レイミアと呼ばれた女性がからりと笑う。もうひとりの女性―――マナは、苦笑いするしかなかった。
事の始まりは、野宿が続いたところから、無理やりメルトキオに寄ったところから始まった。
本当はその日も野宿の予定だったのだが、仲間全員の意見の一致でメルトキオに夜遅く飛び込んだのだ。
柔らかいベッドでゆっくり眠ったその次の日。
いつもより少しだけ遅い朝食の席で、ロイドが今日はどういうルートで行くかと発言した。
それにレイミアが、今日は一日休憩にするべきだと言い張ったのだ。
そこからは、ロイドが頷くまでの彼女の言葉攻撃が続いた。
最後の方は、ロイドの顔は青くなっていた。そしてレイミアの笑顔にとどめをさされたのだった。
今頃はコレットとジーニアスが慰めているだろう。
とはいえ、全員が休息を欲しがっていたのは事実で。
久々の一日の休息に、喜んでいた。
『で、レイミア。あたしを連れ出した理由は何?』
「一緒にメルトキオ探検しようよ」
『…はっ?』
「最初は寝てようと思ったんだけど、せっかくだからいろんなところ見て回りたいし」
『…なるほど。それであたしを引っ張り出したわけか…』
いい素材あったから武器に使いたかったのに…、とつぶやくマナは仲間の中でも特に貧乏性だが、素材を活用することがうまい。
レイミアは、渋るマナの手を引く。
「行く、でしょ?」
『…わかったよ』
「そうこなくっちゃ! さすがマナ!」
『あれ? でもお金はどうするの?』
「先生からもらってきた。その辺は心配しなくて大丈夫だよ」
『随分と用意がいいようで…』
「呆れつつもつきあってくれるのがマナの良さだよね!」
『あはは…。ありがと』
いえいえ、とにっこり笑ったレイミアは、マナが断れないと知っていてそんなことを言った。
大胆不敵で、どんな時も堂々としている彼女はレイミアの憧れだから。
そして、彼女が優しいことも知っているレイミアは、ぐいっと彼女の腕を引く。
『今日はどこ行くの?』
「たまには女の子らしくしてみない?」
『…あたしも、レイミアもそんな性格からは程遠いよね?』
「えー? たまにはいいじゃん。女子会しようよ」
『女子会って…』
「気にしない! こんなことできるの、今日くらいだよ」
そう言い切ったレイミアに、マナは大きくため息をつきながら頷いた。
確かに何も考えずにメルトキオを歩き回ることができるのも、今日くらいしかないだろう。
そう考えたマナは、気を取り直してレイミアと共に歩き出した。
まず二人が来たのは貴族街の一角にある、おしゃれなカフェやお店が軒を連ねる場所だった。
「すごいねー…」
『うん。きらびやかっていうか…』
「ここはまた違った風景だね。ゼロスの屋敷があるところは住宅街みたいな感じだったのかな」
『たぶんね。…でも、あたしはこの空気合わないな…』
「うん、あたしも」
レイミアが今までいた場所は、イセリアで。その場所は何もなかったけれどとても暖かい場所だった。
マナは異世界から来たというが、彼女の世界はどうだったのだろうか。
その表情を見ると、少しだけ眉を寄せていて、やはりあまりこういう場所は好きではないのだろう。
レイミアとマナは適当にお店を眺めながら、道を歩いていく。
道行く人は皆きらびやかなドレスや衣装を身にまとい、笑いながら歩いていた。
「…あ、あれゼロスとコレット?」
『え? あ、ほんとだ…』
「珍しい…」
レイミアの目がすっと細まった。ゼロスがコレットに何かをしていないか気になったのだろう。
視線が一気に鋭くなり、二人を見つめている。
『レイミア…』
「…あ、ごめん」
『相変わらずだね』
親友に対する思いは、マナにたしなめられてもゼロスを見つめ続けるくらいには強いらしい。
苦笑しつつマナたちは、ゼロスたちの元に歩いて行った。
『二人とも、何してるの?』
「あれ? マナとレイミアだー!」
「珍しいね。二人が一緒にいるなんて」
「そうか? 俺さま的にはコレットちゃんと一緒も大歓迎だけど、マナちゃんとレイミアがいてくれても…」
「はいはい。ゼロス…コレットに何かしたら…わかってるよね?」
「はい」
レイミアの無言の圧力にゼロスが屈する。それに気を良くしたのか、レイミアはにっこりと笑うとマナの手を引いた。
動揺するマナなどお構いなしに、コレットに声をかけると、その場を後にする。
ある程度の場所まで来ると、レイミアはマナの手を離した。
『レイミア、よかったの? コレットあのままで』
「うん。言うほど警戒はしてないし、今日はマナと一緒にいたい気分なの!」
『それは嬉しいけど…』
「ね、マナ! あそこにクレープの屋台出てる! 行こう!」
『あ、ちょっと!』
駆け出したレイミアに、マナが慌ててついていく。それは普段は見られない、珍しい光景だった。
レイミアは好きな味を適当に選ぶと、マナの分も買ってしまう。
しかしそれは、共に旅をしているからか、彼女の好みをきちんと合っていた。
隣で幸せそうにクレープをほおばるレイミアを見つめ――ふと、マナは自分たちが視線を集めていることに気づいた。
「あれ…、どこの服装かしら…」
「貴族街の子供じゃないわね。あんなみすぼらしい格好…」
「平民街の子よ。どうしてこんなところにいるのかしら」
ひそひそと本人は話しているつもりなのだろうが、こちらには丸聞こえである。
しかし、それを気にするような性格のマナではないため、気にしなかったのだが…。
「貴族街の人間ってさ、自分より身分の低い人を蔑んで笑うことでしか、自分の自尊心を満たせないんだね」
『ちょっ、レイミア…!』
レイミアの声は決して小さくはなかった。その場にいた人々が一斉に、二人を振り返る。
視線が突き刺さるなか、先程までこちらの悪口を言っていた女性が真っ赤な顔で歩いてくるのが見えた。
マナはとっさにレイミアの手を取り、駆け出したのだった。
『はあっ、はあ…。疲れた…』
「あはは! あの人たち顔真っ赤だった!」
『レイミアが楽しいのはいいけど…あたしの身がもたないっての…』
「ごめんごめん。…あたしだけなら良かったんだけど、マナのこと言われてるのが嫌で。気づいたらあんなこと言っちゃってたんだ」
ごめんね? と少々眉を下げて謝るレイミアに、マナはそれ以上何も言えなくなる。
仕方ない、と言うふうに腰に当てていた手を下ろす。
『うん、あたしのこと考えてくれてありがとう。けど、もうあんなことしなくていいから』
「さすがに、もうしないよ」
『そうしてください』
「はーい! で、次はどこ行く?」
『そうだな…』
マナはしばし考えていたが、やがて、にやりと笑った。
『あたし、まわってみたいとこたくさんあるんだけど、付き合ってくれるよね?』
「…さっきあんなことしたし、断りきれない…。うん、いいよ」
その後、レイミアは自分が安請け合いしたことをひどく悔やむのだった……。
◇ ◆ ◇
―――夕方。
ワイルダー邸の前には、にこにこと笑うマナと、ぐったりと肩を下げているレイミアの姿があった。
『んー! 久々にいい買い物した気がする!』
「…マナって、貧乏性じゃなかったけ?」
『たまには新しい素材も必要だし。これだけ高級なら、すみからすみまで使えるよ!』
「ああ、そういうことか」
『最初はレイミア、何言い出すんだろうと思ったけど…。うん、楽しかった』
「最初はあたしが誘ったのに、最終的にノリノリだったのマナだったもんね…」
そう言ったレイミアはマナから視線を外し、夕焼けを見つめた。辺りは橙色に輝き、マナの髪を普段とは違った綺麗な色に染め上げている。
「ねえ、マナの世界の夕焼けも同じ?」
『えっ…』
「ごめん、何でもない」
夕焼けを背に笑う彼女はどこか寂しそうに見えた。ただ夕焼けという人を寂しくさせるものが、そう見せているだけかもしれないが…。
「マナがもし元の世界に帰ったとしてもさ、あたしたちのこと忘れたら承知しないよ?」
『…忘れないよ』
これだけ強烈な体験、忘れることなど一生できるものか。そう、マナは強く思う。
『あたしが…忘れるわけない。そんな薄情に見える?』
「薄情だったら今日のあたしに付き合ってくれてないね」
『そういうこと。今日はありがとう。楽しかったよ』
「あたしも楽しかった。ありがとう!」
彼女はいつ帰ってしまうかわからないから、思い出が欲しかった。みんなともだけど、あたしだけの。
マナはあたしの中で憧れだから。でも、マナがあたしたちのこと忘れるはずがないんだ。
だから、この先何があったとしても…マナが元の世界に帰ったとしても大丈夫。
「よしマナ! 今日のお風呂一緒に遊ぼ!」
『遊ぶの!?』
あたしも、絶対に忘れないよ。
マナのこと。
~おまけ~
*朝食の席にて*
「はあ!? ロイド、いい加減にして! 何で今日も旅するの!?」
「いや、だって…」
「昨日あんなに強行ルートだったのに!」
「でも、」
「でもじゃない。みんなのことも考えてよ!」
「…………」
「ロイドが小さくなっていく…」
「あれは後で治療が必要だねえ…」
『あれ、ほっといていいの?』
「適当に誰かが慰めるから大丈夫よ」
『んな適当な…』
*ゼロスとコレット*
「すごーい! ゼロス、何でも買えちゃうんだね!」
「そうそう、俺さまのこの美貌にかかればどんな女性もイチコロ、ってな!」
「でもレイミア、歩くわいせつ物は女性の敵って言ってたよ?」
「ぐはっ!? レイミア、ほんとに容赦ない…」
「あとね、ゼロスはヒワイなんでしょ? レイミアがそう言ってた!」
「コレットちゃん…、これ以上俺さまにダメージを与えないで…」
「???」
*吹っ切れたマナ*
『レイミア!! あそこで素材の安売りしてる! 行くよ!』
「ちょっ! 待ってマナ!」
『あれさえあれば、武器がまた作成できるの!』
「それができるのマナくらいだよ…」
『ん!? あそこにアーティファクトの気配!? ちょっと行くよ!』
「え!? 待ってよ!」
『あそこでは違う素材も売ってるし…! メルトキオ、さすがだね!』
「…はあ…、ま、いっか…」
Fin
予想よりページが少なくなってしまったので作ってみたおまけ。
笑って流してやってください…。
豪邸が並び立つ貴族街でも、さらに大きなワイルダー邸。
その玄関の前に、女性が2人、立っていた。
『レイミア、ほんとにすごい剣幕だったね』
「まあ…。だって昨日あれだけ強行突破だったのに今日も朝から移動とか、さすがに無理だよ」
『それは確かに。ロイド、小さくなってたよ』
「それはいいの。なんか最近突っ走り気味だったから、お灸すえただけ」
レイミアと呼ばれた女性がからりと笑う。もうひとりの女性―――マナは、苦笑いするしかなかった。
事の始まりは、野宿が続いたところから、無理やりメルトキオに寄ったところから始まった。
本当はその日も野宿の予定だったのだが、仲間全員の意見の一致でメルトキオに夜遅く飛び込んだのだ。
柔らかいベッドでゆっくり眠ったその次の日。
いつもより少しだけ遅い朝食の席で、ロイドが今日はどういうルートで行くかと発言した。
それにレイミアが、今日は一日休憩にするべきだと言い張ったのだ。
そこからは、ロイドが頷くまでの彼女の言葉攻撃が続いた。
最後の方は、ロイドの顔は青くなっていた。そしてレイミアの笑顔にとどめをさされたのだった。
今頃はコレットとジーニアスが慰めているだろう。
とはいえ、全員が休息を欲しがっていたのは事実で。
久々の一日の休息に、喜んでいた。
『で、レイミア。あたしを連れ出した理由は何?』
「一緒にメルトキオ探検しようよ」
『…はっ?』
「最初は寝てようと思ったんだけど、せっかくだからいろんなところ見て回りたいし」
『…なるほど。それであたしを引っ張り出したわけか…』
いい素材あったから武器に使いたかったのに…、とつぶやくマナは仲間の中でも特に貧乏性だが、素材を活用することがうまい。
レイミアは、渋るマナの手を引く。
「行く、でしょ?」
『…わかったよ』
「そうこなくっちゃ! さすがマナ!」
『あれ? でもお金はどうするの?』
「先生からもらってきた。その辺は心配しなくて大丈夫だよ」
『随分と用意がいいようで…』
「呆れつつもつきあってくれるのがマナの良さだよね!」
『あはは…。ありがと』
いえいえ、とにっこり笑ったレイミアは、マナが断れないと知っていてそんなことを言った。
大胆不敵で、どんな時も堂々としている彼女はレイミアの憧れだから。
そして、彼女が優しいことも知っているレイミアは、ぐいっと彼女の腕を引く。
『今日はどこ行くの?』
「たまには女の子らしくしてみない?」
『…あたしも、レイミアもそんな性格からは程遠いよね?』
「えー? たまにはいいじゃん。女子会しようよ」
『女子会って…』
「気にしない! こんなことできるの、今日くらいだよ」
そう言い切ったレイミアに、マナは大きくため息をつきながら頷いた。
確かに何も考えずにメルトキオを歩き回ることができるのも、今日くらいしかないだろう。
そう考えたマナは、気を取り直してレイミアと共に歩き出した。
まず二人が来たのは貴族街の一角にある、おしゃれなカフェやお店が軒を連ねる場所だった。
「すごいねー…」
『うん。きらびやかっていうか…』
「ここはまた違った風景だね。ゼロスの屋敷があるところは住宅街みたいな感じだったのかな」
『たぶんね。…でも、あたしはこの空気合わないな…』
「うん、あたしも」
レイミアが今までいた場所は、イセリアで。その場所は何もなかったけれどとても暖かい場所だった。
マナは異世界から来たというが、彼女の世界はどうだったのだろうか。
その表情を見ると、少しだけ眉を寄せていて、やはりあまりこういう場所は好きではないのだろう。
レイミアとマナは適当にお店を眺めながら、道を歩いていく。
道行く人は皆きらびやかなドレスや衣装を身にまとい、笑いながら歩いていた。
「…あ、あれゼロスとコレット?」
『え? あ、ほんとだ…』
「珍しい…」
レイミアの目がすっと細まった。ゼロスがコレットに何かをしていないか気になったのだろう。
視線が一気に鋭くなり、二人を見つめている。
『レイミア…』
「…あ、ごめん」
『相変わらずだね』
親友に対する思いは、マナにたしなめられてもゼロスを見つめ続けるくらいには強いらしい。
苦笑しつつマナたちは、ゼロスたちの元に歩いて行った。
『二人とも、何してるの?』
「あれ? マナとレイミアだー!」
「珍しいね。二人が一緒にいるなんて」
「そうか? 俺さま的にはコレットちゃんと一緒も大歓迎だけど、マナちゃんとレイミアがいてくれても…」
「はいはい。ゼロス…コレットに何かしたら…わかってるよね?」
「はい」
レイミアの無言の圧力にゼロスが屈する。それに気を良くしたのか、レイミアはにっこりと笑うとマナの手を引いた。
動揺するマナなどお構いなしに、コレットに声をかけると、その場を後にする。
ある程度の場所まで来ると、レイミアはマナの手を離した。
『レイミア、よかったの? コレットあのままで』
「うん。言うほど警戒はしてないし、今日はマナと一緒にいたい気分なの!」
『それは嬉しいけど…』
「ね、マナ! あそこにクレープの屋台出てる! 行こう!」
『あ、ちょっと!』
駆け出したレイミアに、マナが慌ててついていく。それは普段は見られない、珍しい光景だった。
レイミアは好きな味を適当に選ぶと、マナの分も買ってしまう。
しかしそれは、共に旅をしているからか、彼女の好みをきちんと合っていた。
隣で幸せそうにクレープをほおばるレイミアを見つめ――ふと、マナは自分たちが視線を集めていることに気づいた。
「あれ…、どこの服装かしら…」
「貴族街の子供じゃないわね。あんなみすぼらしい格好…」
「平民街の子よ。どうしてこんなところにいるのかしら」
ひそひそと本人は話しているつもりなのだろうが、こちらには丸聞こえである。
しかし、それを気にするような性格のマナではないため、気にしなかったのだが…。
「貴族街の人間ってさ、自分より身分の低い人を蔑んで笑うことでしか、自分の自尊心を満たせないんだね」
『ちょっ、レイミア…!』
レイミアの声は決して小さくはなかった。その場にいた人々が一斉に、二人を振り返る。
視線が突き刺さるなか、先程までこちらの悪口を言っていた女性が真っ赤な顔で歩いてくるのが見えた。
マナはとっさにレイミアの手を取り、駆け出したのだった。
『はあっ、はあ…。疲れた…』
「あはは! あの人たち顔真っ赤だった!」
『レイミアが楽しいのはいいけど…あたしの身がもたないっての…』
「ごめんごめん。…あたしだけなら良かったんだけど、マナのこと言われてるのが嫌で。気づいたらあんなこと言っちゃってたんだ」
ごめんね? と少々眉を下げて謝るレイミアに、マナはそれ以上何も言えなくなる。
仕方ない、と言うふうに腰に当てていた手を下ろす。
『うん、あたしのこと考えてくれてありがとう。けど、もうあんなことしなくていいから』
「さすがに、もうしないよ」
『そうしてください』
「はーい! で、次はどこ行く?」
『そうだな…』
マナはしばし考えていたが、やがて、にやりと笑った。
『あたし、まわってみたいとこたくさんあるんだけど、付き合ってくれるよね?』
「…さっきあんなことしたし、断りきれない…。うん、いいよ」
その後、レイミアは自分が安請け合いしたことをひどく悔やむのだった……。
◇ ◆ ◇
―――夕方。
ワイルダー邸の前には、にこにこと笑うマナと、ぐったりと肩を下げているレイミアの姿があった。
『んー! 久々にいい買い物した気がする!』
「…マナって、貧乏性じゃなかったけ?」
『たまには新しい素材も必要だし。これだけ高級なら、すみからすみまで使えるよ!』
「ああ、そういうことか」
『最初はレイミア、何言い出すんだろうと思ったけど…。うん、楽しかった』
「最初はあたしが誘ったのに、最終的にノリノリだったのマナだったもんね…」
そう言ったレイミアはマナから視線を外し、夕焼けを見つめた。辺りは橙色に輝き、マナの髪を普段とは違った綺麗な色に染め上げている。
「ねえ、マナの世界の夕焼けも同じ?」
『えっ…』
「ごめん、何でもない」
夕焼けを背に笑う彼女はどこか寂しそうに見えた。ただ夕焼けという人を寂しくさせるものが、そう見せているだけかもしれないが…。
「マナがもし元の世界に帰ったとしてもさ、あたしたちのこと忘れたら承知しないよ?」
『…忘れないよ』
これだけ強烈な体験、忘れることなど一生できるものか。そう、マナは強く思う。
『あたしが…忘れるわけない。そんな薄情に見える?』
「薄情だったら今日のあたしに付き合ってくれてないね」
『そういうこと。今日はありがとう。楽しかったよ』
「あたしも楽しかった。ありがとう!」
彼女はいつ帰ってしまうかわからないから、思い出が欲しかった。みんなともだけど、あたしだけの。
マナはあたしの中で憧れだから。でも、マナがあたしたちのこと忘れるはずがないんだ。
だから、この先何があったとしても…マナが元の世界に帰ったとしても大丈夫。
「よしマナ! 今日のお風呂一緒に遊ぼ!」
『遊ぶの!?』
あたしも、絶対に忘れないよ。
マナのこと。
~おまけ~
*朝食の席にて*
「はあ!? ロイド、いい加減にして! 何で今日も旅するの!?」
「いや、だって…」
「昨日あんなに強行ルートだったのに!」
「でも、」
「でもじゃない。みんなのことも考えてよ!」
「…………」
「ロイドが小さくなっていく…」
「あれは後で治療が必要だねえ…」
『あれ、ほっといていいの?』
「適当に誰かが慰めるから大丈夫よ」
『んな適当な…』
*ゼロスとコレット*
「すごーい! ゼロス、何でも買えちゃうんだね!」
「そうそう、俺さまのこの美貌にかかればどんな女性もイチコロ、ってな!」
「でもレイミア、歩くわいせつ物は女性の敵って言ってたよ?」
「ぐはっ!? レイミア、ほんとに容赦ない…」
「あとね、ゼロスはヒワイなんでしょ? レイミアがそう言ってた!」
「コレットちゃん…、これ以上俺さまにダメージを与えないで…」
「???」
*吹っ切れたマナ*
『レイミア!! あそこで素材の安売りしてる! 行くよ!』
「ちょっ! 待ってマナ!」
『あれさえあれば、武器がまた作成できるの!』
「それができるのマナくらいだよ…」
『ん!? あそこにアーティファクトの気配!? ちょっと行くよ!』
「え!? 待ってよ!」
『あそこでは違う素材も売ってるし…! メルトキオ、さすがだね!』
「…はあ…、ま、いっか…」
Fin
予想よりページが少なくなってしまったので作ってみたおまけ。
笑って流してやってください…。