トレジャーハント!

何かを踏んだ音がした。

バキッと、木の枝を折ったような音。足元を見てみると、まだ生えたばかりだというサイズの木が本当に折れていた。下を見て歩いていなかった俺にも非はあるが、何でまた、こんな誰かが踏むような場所に植えて……


「ジン……思いっきり足が入ってるよ?」
「うおっ」

隣を歩いていたフィアの言葉を聞いて、自分が今何処に居るのかということに気付いた。周りには紛いながらも柵が立てられていて、俺は見事にその中心に居たのだった。

「……まだ寝惚けてんのかな」
「お昼だもんね、ジンは朝に弱いから」
「んなこと言ったって覚めねぇもんは覚めねぇってんだ。……これ、どうすっかな」

頭を掻きながら、とりあえず足を上げて小さな木……苗から離れる。森林活動か何かをしているんだろうか、よく見るとあちこちに柵があって、その中心にはどれも苗が植えられていた。

「やっぱり、謝った方が良いんじゃないかな」
「誰が管理してるかも分からないのに、か?」
「で、でも私達が悪いんだし……」
「何でお前も入ってんだか」

踏んでいないフィアまでもがそう言うもんだから、余計に面倒ななってきた。居ない奴にどうやって謝るってんだ……
フィアが何とか苗を立たそうと試みるが、既に折れてしまったそれが直る訳もなく。途方に暮れていると、後ろから陽気な鼻歌が聞こえてき始めた。


「……」

そして、俺達を前にしたその瞬間……音楽は終了した。
だいたいの予想がついてしまうんだが……苗を見てわなわなと震えている、どうやらこれらを育てている本人のようだ。緑色の長い髪に、テセアラでも見掛けない不思議な民族衣装をまとっている女性で、フィアよりも少し歳上くらいだろうか。清純なイメージ見を与えるような姿とは裏腹に、怒っている。かなり怒っている。

「……何をやったのか、聞かせてくれないかな」
「ボーッとしていて、踏んだ」
「ボーッとって……何言ってんの、この子達がここまで育つのにどれほどの時間が掛かったと思ってんの?」

ドスのきいた黒い笑顔で俺を見る女性に対し、慌てて「ごめんなさいっ!」と謝るフィア。最もな言葉だ、俺も一旦小さく頭を下げた。

「悪気があって踏んだ訳じゃねぇのは間違いないんでな。あと柵が小さすぎだ、これじゃ他の人も踏みかねない」
「仕方ないでしょ、苗を買ったら柵まで買うお金がなくなったんだから……」
「……要するに金欠ってか」
「わざわざ言わないでよ!とにかく、折ったからには弁償してもらうんだから!」

厄介なことになってきたな、と思っていると、フィアが既になけなしの財布からお金を取り出そうとして「いくら必要ですか?」と問い掛けていた。

「おい、本当に弁償する気かよ……?」
「何、まさかあなた……弁償しない気でいたの?」
「す、すみません……私の注意が足りなかったから、ジンが……」
「だから、何でお前は俺の責任を持とうとするんだか。フィアが踏んだ訳じゃねぇだろ」
「でも、私がちゃんと足元に注意して歩いていたら」
「……これは俺の不注意だ。だいたい、金払ったら俺達も金がなくなるぞ」
「もうっ、そういうのは駄目なんだよ?ちゃんと謝って、やっちゃった分は責任を取らなきゃ」
「……あのー、誰もそんなイチャラブ求めていないから」

フィアともめていると、女性が眉間にシワを寄せてこっちを見ていた。……イチャラブって何だ、イチャラブって。


「……こっちも貧乏人でな。生憎、明日までの食費しか持ち合わせちゃいねぇんだ」
「大丈夫だよ、ジン。私がご飯を抜いたら一本の木が生えるんだよ?それって凄く素敵なことだよ」
「馬鹿か。抜くんだったら俺が抜くっつの。……あー、言い出したら聞かねぇし逆らえる権利もねぇし……もう払うわ、払えば良いんだろ」
「……どっちが苦労してるのかよく分からないよ、あなた達」

溜め息を吐くと、女性に「幸せが逃げるよ?」と笑われた。んなこと言ってもだな……まぁ良い、ここまで来たら言葉を返すのも面倒だ。
言われた値段の苗一つ分の金を払うと、フトコロが寂しくなった気がした。実際に寂しい訳だが、踏んでしまった以上……文句も言えない、か。

「これで良いだろ」
「ねぇ、ついでに柵代も頂戴?」
「俺達を殺す気か」
「冗談だって、そんなに睨まないでって。あと、時間があるなら一緒に買いに行かない?」
「生憎、こちらと忙しい身で」
「わぁ、良いんですか!」

……なぁ。この神子様は今、何と仰った?

「おい、まさか一緒に行くなんて言うんじゃ」
「ここで出会ったのも何かの縁だよ。それに、私達の責任もあるし……ね?」
「ったく……今日中に目的地へ行けなかったらどうすんだ」
「大丈夫だよ、その分歩けば」

や、頼むから寝るべき時間には寝かせてくれ……もうありとあらゆるものを諦めた俺は「好きにしろ」と吐き捨てた。







女性……マナという名前らしい……に付いて行き苗を買い、再び俺が苗を踏んだ場所へと帰ってきた。一本って……こんなにも高いんだな。
多少の金が余ったかと思うと、フィアが「他の方が踏まないように看板を立てよう」と言い始めて、ツリはそれのせいでなくなった。……ありゃ、然り気なく楽しんでるな。

「うん、これでひとまず完成だね……ありがと、フィア!」
「いえ、私の方こそ……本当にごめんなさい」
「なーに言ってんの!出会いはお金じゃ買えないんだから、気にしない気にしない!」

俺は完全に省かれているんだが、どうもあのノリは好きになれない……むしろ助かってるくらいだ。しかしまだ自分が悪いように言ってるのか、あいつは。
すっかり上機嫌になったマナは、俺を見るなり「あなたも、悪気があった訳じゃないんだよね?」と問い掛けてくる。まぁ、踏んでしまったのは注意力のなさであって、そういうものはないので小さく頷いておく。

「ま、多少納得のいかないところはあるけど……」
「ジンは朝が駄目だから、歩きながら寝たりしちゃうんです」
「……何余計なこと言ってんだ」
「あ、でも料理は凄く上手で、それに優しいんです」
「へぇ、可愛らしいところもあるんだねぇ?フィアにしか見せていない顔、かなっ?」
「……あーもう、好きに言っとけ」

俺のことをどんどん暴露していくフィアを止める気にもならず、耳を鬱いだ。というより、俺がフィアと他人に同じ扱いをしていないような言い方はやめろ。

「じゃあ今日のご飯はジンのカレーだねっ」
「うぉい、今の流れからどうしてそうなった」
「ジンの作るカレーが美味しいんだよって話をしたらマナさんが食べたいって」
「うんうん、材料くらいなら買ってあげるよ?」
「……お前、金欠じゃなかったのか?」
「木には正直ですから!食べ物は正々堂々と盗……値切るよ」

何か聞こえた。言い直した言葉も言葉だが、何か聞こえた。否、聞こえていないということにする。

「ふふふ……あたしの値切り技術を見てビックリしないでよね!その分、カレーに期待してるから!」
「……あー、はいはい」

料理してる身としては食ってもらえるというのは嬉しいんだが、材料くらいなら辛うじて払える。しかし値切りどころか無料を狙っているらしいマナに、俺は何とも言えなくて再び街へと足を動かした。




事故から始まる

《あとがき》
あとがきという名の反省


すみませんでした(土下座
最初から親友、という設定も考えたんですが…出会い!出会いが欲しい!そう思った結果の出会い方がこ れ だ よ !本当にすみませんんんんん!
シンフォニアとも現パロとも取れてしまうような何とも言えない世界観…へっぽこ様のご想像にお任せします(待て

マナちゃん、本当に可愛いです。へっぽこ様の小説を読んでて彼女の大胆な行動にニヤニヤしたり、言葉の1つ1つに共感したり…強いのもまた魅力的で(*´ω`*)そんな素敵な子と絡めただけでもう幸せです!
良ければまたジンとフィアと仲良くしてやってください←

それでは、リクエストありがとうございました!返品、書き直しは常時受付中ですので!
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