トレジャーハント!

あの逃亡と戦いの日々が終わり、何ヵ月かが過ぎた。
今は主君を失くしたファシナトゥール…針の城を生き残った妖魔達がまとめ直そうとしている。そして、その今は亡き主君の血を身体に半分持った半妖……アセルスが新たな主君となっていて……


「あのさ、イルドゥン」

呼ばれて彼は振り向く。

「やっぱり思うんだけど、あなたが上に立った方がいいんじゃないかな?私は…半妖だし、中には私のことを良く思ってない妖魔達もまだたくさん居るし、それにあの人の血を身体に持っているからって理由で無理矢理……」

アセルスがそこまで言うとイルドゥンは息を吐き、

「文句を言うな。オルロワージュ様の血を継いでいるんだ。お前が城の主になるしかない」

「そんなの勝手だよ」

とアセルスは頬を膨らませる。

「では、今から人間の世界にでも戻るか?」

「ううっ…」

アセルスはあの時自分で選んだのだ。半妖として生きる道を。自分らしくあるために…そして、白薔薇を待つために…そして…

「…じゃあさ、イルドゥンは、ずっと私と一緒にいてくれる?」

尋ねれば、

「お前が主君で在り続ける限りな」

その返答にアセルスは目を細めて、

「…私がその座を放棄したら、一緒にいてくれる?」

そう聞き直す。

「……」

「何でそこで考えるのよ!」

黙り込んでしまった彼に軽く怒鳴り、

「主君主君主君主君って、イルドゥンそればっかり!私は私、アセルスなのに!」

「何を怒って…」

怒り出してしまった彼女を見てイルドゥンは眉を潜める。

「…イルドゥンはずっと私について来てくれたじゃない。仲間になってくれたあの時も、白薔薇を失って自身を見失った情けない私にも、最後の戦いの時も」

一気にそう言って、

「それって私がオルロワージュの血を身体に持っているからなの?」

「…それは…」

イルドゥンはまた考えるように呟いて、

「俺は最初はラスタバンに頼まれて、お前に興味などなかっ……」

「…イルドゥンの馬鹿!」

最後まで話を聞かず、アセルスはイルドゥンに背を向けて走り去ってしまった。

「おい…!人の話を…!」

「あーあ、イルドゥンが悪いよ今のは」

すると背後から声がして…

「言い方が回りくどいんだよ、さっさと重要なことを言わないからアセルスが苛々しちゃうんだよ?」

「ゾズマ…貴様、聞いていたのか」

背後に居る彼…ゾズマを睨み付けて溜め息を吐く。

「イルドゥンさ、気付いてるんだろ?アセルスの気持ちに」

ゾズマが見透かすように笑って言うも、イルドゥンは顔色一つ変えない。

「イルドゥンは、最初は頼まれて仕方なくだったのかもしれないけど、一緒に居る内にアセルスと言う一人の女の子に惹かれたんでしょ?」

それにイルドゥンはピクリと眉を動かした。

「だからー、二人は両想い!パンパカパーン、おめでとう。でもでも、二人とも気持ちを伝え合わないし何の進展もない。ここは男である君が頑張らなくちゃ!」

ぽんぽんと、イルドゥンの背をゾズマは軽く叩き、

「それに、白薔薇姫が居ない今だからこそチャンスなんだよ。彼女が戻って来て君たちがまだ優柔不断な関係のままだったら、アセルス、白薔薇姫に乗り替えちゃうかも!」

「……お前はうるさい」

イルドゥンは呆れるようにそう言ってスタスタと歩き、ゾズマの元から去った。それを見て、

(そういえば、イルドゥン最近妖術で転移しないなー。歩いてばっかり。歩くの不便なのに)

ゾズマは思う。
それから、半妖であるアセルスが転移の術をどれだけ教わっても使うことが出来ず、結局もう使えなくてもいいやと彼女が言っていたことを思い出した。

(なるほどー、アセルスに気を遣ってるんだなぁ。うーん、焦れったい!)


……
………


その頃、アセルスは自室に戻ってベッドに座っていた。

「…主君…か。私は別に、妖魔たちの王になろうとは思わないのに」

自分の中にあるオルロワージュの血を今まで何度も憎んで来た。けれど半妖になれたそのお陰で、彼らに出会えた…
人間の世界、人間の時間で生きて行くことは出来なくなってしまったけれども…

オルロワージュに感謝すべきかどうかはわからない。手に入れたかわりに失ったものだってあるのだから…
パタリ、とアセルスはベッドに体を倒す。

(皆みんな…私じゃなく、オルロワージュの血を持った私としか認識してくれてないんだ)

そう思うと、とてつもなく孤独感が押し寄せてきて…


シュンッ――――


と、音がしてアセルスは慌てて起き上がる。

「ゾズマ!!」

すると部屋の中には彼が居た。恐らく転移して来たのであろう。

「やぁアセルス」

「人の部屋に勝手に入らないでって何度も言ってるでしょ!」

アセルスが怒鳴ると、

「イルドゥンが外に居るよ」

ゾズマは言う。

「は?」

「君の部屋の外に居るよ。ノックするかどうかずっと悩んでる。とっととノックして開けてもらったらいいのにねー。もしくは僕みたいに転移して入ったらいいのに」

「いっ…イルドゥンはあなたみたいに礼儀の無いことはしないよ!」

アセルスはそう怒鳴って慌ててドアへと走り出すので、

「やれやれ」

とゾズマは笑い、アセルスの部屋を去った。


ガチャッ―――!


アセルスが慌ててドアを開けると、

「…あ」

本当にイルドゥンが居て、彼は少々驚いた顔をした後に居心地悪そうにして目を逸らした。

「なっ、何か用かな」

アセルスが聞くも、

「いや…」

イルドゥンは目を逸らしたままである。

「えっと、部屋に入る?」

「ここでいい」

イルドゥンはそう言うも、なかなか話を切り出そうとしない。アセルスもイルドゥンが何をしに来たのかわからない為、どうしたらいいか、何を言ったらいいかわからず困ったように頭を掻く。

「あっ、あの、やっぱり何か用があるんだよね?」

だがイルドゥンはやはり何も言わないので、

「ごめんね、さっき馬鹿なんて言っちゃって…もしかして…怒って…る?」

「怒ってない」

元から無愛想な彼であるが、ますます無愛想に見えてしまい怒っているようにしか見えないのだが…

「……用がないなら部屋に戻るけど…」

アセルスが少し声を低くして言えば、

「…俺は…お前に興味などなかったが、お前やジーナを見て来て、人間と言うものを知って、それで…」

イルドゥンはようやく口を開いた。

「だから、お前が主君の座を放棄すると言うのなら、お前は人間らしく生きたらいいのではないかと思った。俺は完全な妖魔だから共に行くことは…出来ない」

それを聞いてアセルスは大きく目を開ける。

「だから別に、オルロワージュ様の血がどうこうは関係無い。最初はそう言う見方をしていたが、今は違う。だから、主君を続けるも、辞めるも、お前の自由だ」

「イルドゥン…」

アセルスは薄く笑い、

「イルドゥンはやっぱり馬鹿だ」

「なっ」

「ううん、違う。私も馬鹿なんだ…私、オルロワージュの血に囚われていた。イルドゥンも皆も、私個人を見てくれてないってずっと思ってて、でも、あなたは違った。私のことを考えてくれてるんだね」

不器用に、――お前の自由だ――と言った彼の言葉にアセルスは微笑んで、

「私、あなたと居たいの」

すっ…と両腕を伸ばして彼の頬を包む。

「だから、主君を続けることであなたが隣に居てくれるなら、私、頑張れる」

イルドゥンは目を見開かせて彼女の目を見返す、そして触れられたその手を包み返して、

「すまないな…こんな形でしか、共に居れなくて…お前に、重い責務を押し付けて…」

「いいよ、私が選んだ道だもんね、私が頑張らなきゃ。イルドゥンも居てくれるし」

「…ああ、これからもお前が主として相応しくなる為にみっちり指導してやろう。隣で、ずっと」

「何、それ」

アセルスは笑う。



ロマンチックには程遠い




アセルスが主君で在る限り、イルドゥンは隣に居る。
イルドゥンが隣に居る限り、アセルスは主君で在り続ける。

妖魔と半妖、それ以外の生き方では共に居れはしないけれど、それでも。

隣にあなたが居てくれるなら――…



・end・




…焦れったい甘めとのことで、ただのイルドゥンがヘタレ的になってしまいました(笑)!すまないイルドゥン…!内容は半妖end後で、オルロワージュの血を持ったアセルスがファシナトゥールを統治していくのかななどと思いつつ。
イルアセ大好きすぎます★
ゾズマはフォロー役だと思う(笑)
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