トレジャーハント!
「先生さようならー!」
「えぇ、さようなら。気をつけて帰ってね」
「はーい!」
「午前中で終わりなんて嬉しいね!ねぇ、何して遊ぶ?」
「みんなで冒険に行こうぜ!」
今日は午前中で授業が終わった。子供達は嬉しさに跳びはねるようにしながら、学校をあとにする。
まず小さな、6~10歳くらいの子供達が一目散に駆けていく。
少し年齢が上の子供は、話しながらゆっくりと歩き出て行った。
リフィルはそれを見守っていたが、最後尾の方に自分の弟とその親友がいることに気付いて、声をかけた。
「ジーニアス、今日は夕ごはんまでごちそうになってくるのね?」
「うん!夕ごはんは姉さんも来るんだよね?」
「そうね。仕事が一段落したら行くわ。ロイド、一日よろしくね」
「わかった。夜は鍋パーティーだから先生も来てくれよ」
「行く予定よ。ロイドの宿題も持って行かなくてはなりませんからね」
「うぐっ…!」
「ロイド、またさぼってたの?宿題。あたし、やり方を丁寧に教えたはずだよ?」
「いや、あ、あのな?実は…」
「言い訳無用!」
真っ赤な服を着た少年――ロイドを、明るい茶髪を伸ばした少女が追いかける。
少女――リズナは、本当に怒っているわけではなさそうだが、にっこりと笑った笑顔は大分怖かった。
それを見ていた金髪の少女、コレットは、みんな仲がいいんだね~と、どこか違ったコメントをしている。
いつものんびりとした時間が流れる。
一通り走り終えたロイドとリズナは、軽く息を切らしながらリフィルの近くに戻ってきた。
ジーニアスが行くことを促すと、三人が頷く。
そして、四人は外へと出て行った。
リフィルはそれを見て笑みを深めながら、仕事へと戻って行った。
「ロイド、夕方までどうするの?」
「秘密基地の続きしようぜ。コレットがもう少しで完成だろ?」
「そうだね。あたしもあのまま放置しとくのは嫌だし」
「私もやりたーい!」
「じゃあ秘密基地に行こうぜ!」
「クォーン!」
「ノイシュも行くって」
「そうだな。なぁ、後何が必要なんだっけ?」
「屋根と、座るときに敷く布みたいなものかなぁ」
「布?屋根はロイドに任せるとして、布…。家にあったっけ?」
「使ってない秘密基地くらいの大きさの、無かったか?親父が細工のお礼にもらったあれ」
「あれは結構いい生地だから、おじさんに聞かないとまずいと思う」
「親父は使わないって。なんかいらないシートを持ってきてその上にそれをのせればいいだろ」
「そうだね。じゃああたし、一旦戻って布を持ってくるよ」
「工具も持って行かなくちゃいけないな」
「じゃあロイドの家に、一旦寄ってから行こうよ」
「そうだな。じゃあ、行くか」
「ただいまー、おじさん!ねぇ、この前もらった布ってどこにある?」
「それなら倉庫においてある。何かに使うんか?」
「うん。あたしがもらっても平気?」
「好きなようにしろ。俺は使わねぇからな」
「はーい」
「リズナ、使えるって?」
「うん、使わないからいいって。そうだ、ジーニアス。あたし、少し用事があるから先に行っててくれる?」
「用事?少しくらいならボクたち待つよ」
「いや、結構時間かかるから先に行ってた方がいいから」
「わかった。じゃあ先に行くよ」
「ごめん、ありがとう」
リズナが窓から外を見ると、ジーニアスが事情を説明しているのが見えた。
ロイドとコレットは軽く頷いて、ノイシュを連れて森の奥の方へと行った。
リズナはそれを見届けると、一息ついて髪の毛をポニーテールにまとめた。
それは彼女が料理をするときの格好であり実際、並べていく食材はお菓子を作ることを連想させるようなものばかりだ。
鼻歌を歌いながらつくっているもの正体は、彼女が持って行くときにわかるだろう。
一方、ロイドたちは屋根作りの最終段階に取り掛かっていた。
ロイドが屋根の土台を作り、手分けして藁やいろいろなものを乗せていく。
リズナと別れて2時間、屋根は完成した。
あとはリズナが持ってくる布を敷いて終わりなのだが、彼女が来ない。
しびれをきらして呼びにいこうとしたその時、走ってきた。
「はぁっ、ごめんごめん。予想以上に時間がかかった。その分出来はいいから、許して」
「なんか作ってたのか?」
「昼食のサンドイッチと、紅茶と、クッキー。お腹すいてると思ったから」
「わあっ!ありがとう!」
「布を敷いて、その上で食べようぜ!」
「リズナ、布貸して」
「あ、よろしく」
「うん!」
ばさりと新しく作った屋根の下に布が広げられた。
金持ちからもらったためか見た目的に質感は良さそうで、いち早く座ったジーニアスが歓声をあげた。
藁や枯れ葉の上に乗せられていることも手伝って、干した布団のようにふわふわな感触だった。
「広いしここで暮らせそうだな!」
「そうだね。四人寝れるくらいには広いし、後でここで泊まろうか」
「やりたい!ボクたちだけの秘密基地で、四人で過ごそうよ」
「私もやりたいな。四人でいっぱいおしゃべりしたい」
「いつかきっと、やろうな。けど今はそれより腹減った。朝ごはんも少ししか食ってねぇからさ、お腹すいた」
「ロイドが寝坊して食べてないのが悪い。あたしはきちんと起こしたよ」
「嘘つくなっ!リズナ、適当に俺を呼んで終わりじゃねぇか!」
「それで起きないロイドが悪い!あたしは別にロイドを起こす義理なんて無かった。今日はロイドが当番の日だったんだから」
「う…」
「宿題だって昨日あたしが教えてあげたんだよ?あたしは悪くない。観念したら、負けを認めてお昼食べよう」
「…なんか納得いかねぇんだよな。よし、リズナ!食べ終わったら、帰って勝負だ」
「いいけど、あたしに負けないでね」
「負けたほうがドワーフ鍋の準備ってことでどうだ?」
「いいね。受けて立つよ」
燃えるリズナとロイドをよそに、ジーニアスとコレットはのんきにサンドイッチを食べていた。
今に始まったことではないので、今更止めようとも思わない。
鳥の歌声を聞きながら、のんびりと過ごしていた。
お腹いっぱいお昼を食べて昼寝から覚めた時には、もう日が西に傾きつつあった。
雨は降らないので布はそのままにして秘密基地を後にする。
帰ってくると、ロイドはすぐさま両手に剣を構えた。
対するリズナは、長剣を鞘から抜く。
武器を持つと、剣士の二人の雰囲気が変わった。
風邪がふき、距離をとって構える二人の間を駆け抜ける。
ギィンッ!!
刃が煌めき、交差したロイドの両剣とリズナの長剣が噛み合わさる。
ギリギリと音を立てていた刃が、一際高い音を立てて離れた。
先に離したのはリズナだ。
力ではいつか負けてしまうことを知っている彼女は、スピードで勝負をするために一旦距離を置く。
ロイドは一瞬の隙も逃さずリズナにかかっていく。振り下ろされた剣を素早く交わし、脇腹に叩き込もうとした剣は、止められた。
素早い剣劇に、ジーニアスとコレットは目を奪われていた。
決して見慣れていないわけでは無いけれど、いつ見ても素晴らしいものだ。
「…すごいね、二人とも」
「うん。やっぱり、剣士なんだね。ボクには真似できないや」
「この調子だと、もう少しで勝負が着くかな」
「もう少しかかりそうだけど、今回も引き分けかも」
鉄特有の音が響き合う真剣な戦いは、唐突に終わりを告げる。
バタン!!とドアが荒々しく開き、中から出てきたのは子供の身長くらいの筋骨隆々の男性だ。
すうっと息を吸い、
「何やってんだお前らぁっ!!」
「ひっ!?」
「お、おじさん…」
「何真剣取り出して試合してんでぇ…。真剣は、魔物と戦う時だけだと言ってるじゃねぇか!!」
「いや、これには深い訳が…」
「ドワーフ鍋を作る人を決めてたんだ」
「…それだけか?それだけのことに真剣を、持ち出すなっ!」
ガンッ!ガンッ!
二連続でいい音が響く。ドワーフ――ダイクがロイドとリズナの頭をげんこつした音だった。ドワーフは細工好きであり鍛冶も得意だ。
採掘も自分で行うため、筋肉は発達している。
そんな腕でげんこつを落とされてはたまったものではないだろう。
ロイドもリズナも目に涙がたまっていた。
「ジーニアス、嬢ちゃん、すまねぇな。日も傾いてきた。中に入れ。お前ら!罰として二人で作れ!ったく、まだ練習で真剣を使うのは早いんだよ」
「ごめんなさい…」
「ジーニアス、この結果は予想してた?」
「こんなの予想できるわけないよ。おじさん、強いなぁ」
「そだね。ダイクさんは強いねっ!」
「うん。じゃあ中に入ろっか」
家に入ると優しい木の香りが入ってくる。
自分の家のような居心地の良さを与える、あたたかみのある家だ。
本格的に日は傾きはじめ、頭にたんこぶを作ったロイドとリズナが、何やら言い合いをしながら下ごしらえを始めた。
鍋に入れる具のことで議論をしているらしい。
「おめぇら!そんなつまんねぇことで喧嘩してねぇでさっさと作っちまえ!」
「…はーい」
「リズナのせいで怒られたじゃねぇか」
「あたしだけじゃない。ロイドだって悪い。ロイドがそこで折れてくれればおじさんに怒られることだっって無かった」
「リズナが妥協すれば良かっただろ?俺の案の方が絶対においしくできる」
「あたしの案の方がロイドよりいい。絶対においしい」
「俺の方がおいしい!」
「あたしだ!」
「俺だ!」
「ライトニング」
「ジ、ジーニアス」
「いい加減にしてよね二人とも…?さっきから何回おじさんに怒られてるの?ボクの魔術で死にたい?」
「「スイマセンデシタ」」
「わかればよし」
「ジーニアス、二人を仲直りさせるなんてすごいねー」
「…この場で一番最強なのはコレットだと思う」
「奇遇だな。俺もそう思った」
「こんばんは」
「あ、姉さん!」
少し張り詰めた空気を緩ませるかのような絶妙なタイミングで、リフィルがやってきた。
ジーニアスの呼びかけにいつものような大人の笑みで応えると、料理ができつつある食卓を見た。
「いつもすまないわね。材料はあって?お礼に最近考えた料理を作るわ」
「姉さん!?みんなを殺す気!?」
「いったいそれはどういう意味かしら、ジーニアス?」
「せ、先生はお客様だから今日は楽しんでください。お礼はまた後で受け取ります」
「…そう?じゃあお言葉に甘えようかしら」
「リズナ、ナイス!」
「あたしたち、明日にはアンナさんと並ぶの嫌だし」
「母さんが救われねぇからな」
「そういえば先生、いつもより大人しく引き下がった。いつもなら結構食い下がるのに」
「そういえばそうだな。でも今は気にするほどのことでもねぇだろ。下ごしらえももう少しで終わるし、準備しちゃおうぜ」
「そうだね。全員揃ったからこれ以上待たせる訳にも行かないしね」
先程までとは全く違う息の合った動きで、ロイドとリズナは用意を終えた。
「みんな、準備はできたかー?」
「できたー!早く始めよう」
「じゃあ電気消してっ!」
全体を照らしていた明かりが消される。
そして、ダイクの声とともにドワーフびっくり鍋パーティーが始まった。
暗がりの中、たくさん具を入れる音がする。
時折ぶつかってしまい、笑ってしまうこともあった。
そこまで、という声とともに明かりがついた。
元から入っている肉や野菜に、ところ狭しと入れられている具(?)があった。
「あ、見て!鉄鉱石が入ってる!ダイクさんの細工道具もだ」
「長靴が入ってるのは前回通りだな」
「あの木彫り、ロイド、あれはまずいんじゃない?」
「あーっ!!それはダメだー!」
「細工道具もまずいな。しまい忘れたやつか」
「…これ、ノイシュの餌じゃない?」
「あ、…今日のノイシュの餌無いじゃん」
「え、それはまずいよ!」
「この鍋ノイシュに持ってく?」
「逃げるよ、ノイシュ」
「けどかわいそうだよ。さすがに」
「ごめん、ノイシュ」
「僕には…無理だ…」
「そうやって他のところのネタを持ってきてはダメよ、ジーニアス」
「親父、どうする?」
「あいつはあいつでどうにかするだろ」
「ひどいな、何気に」
「とにかく食べようか。お腹空いた」
「そうだな。じゃあ、」
「いただきまーす!」
テーブルいっぱいに広がる鍋に、鉱石やら靴やらがプカプカ浮いている。
さて、そんなものを食べてどうなるのか。
実際どうにもならないとは思うが。
Fin