トレジャーハント!


「そろそろ来てもいいはず…」


リズナはそわそわしながらある人をまっていた。あの人がいなければ今からやることは成り立たないからだ。
やがて声が聞こえて、人影が手を振りながら走ってきた。


『リズナ!』

「遅いよー!」

『ごめん。ちょっと手間取った」


ほんの少し息を荒くさせ、リズナに向かってふわりと笑った少女は、ふんわりとした金髪に茶色の瞳、可憐な顔立ちをしてした。
少女――マナは走って乱れた服を軽く直し、笑顔を浮かべる。

それはにっこりというよりはにやり、というものだったが。

今回二人は壮大なる悪戯を考えていた。成功するかどうか微妙なところだったが、二人はやる気満々だった。

果たしてそれが悪戯かどうかは疑問だが、それをつっこめばどうなるかわからないのであえては触れないが。

時間だといって去っていく二人の顔には、満面の笑みが浮かんでいた…。










「…ここだよな?リズナとマナに呼ばれたのって。っていうか、こんな所に森なんてあったか?」

「そうだね。…それは気にしちゃいけないと思うけどね。呼ばれたのは、あたしとロイドとクラトス、ゼロス、…ユアンかい?」

「何でユアンがいるんだよ?」

「私とて分かるか。リズナに呼ばれたから来ただけだ」

「…相変わらずリズナに甘いな」

「ふん、おまえに言われたくないな、クラトス」

「まーまー、一応呼ばれた者同士仲良くしようぜ~?」

「…神子に諭されるなど、私は落ちぶれてしまった…」

「クラトス、その意見だけは激しく同意だ」

「どーいう意味だ!」

「うるさいよ!」

「いってぇー…」

「痴話喧嘩はそれぐらいにしてね」

「リズナ!どこに行ってたんだい?」

「ちょっとね。まずは集まってくれてありがとー。ふふふ…楽しんでねっ!」

「リズナ?それは一体どういう意味なのだ?」

「ユアン、それはここに入れば分かるよ。じゃ、みんなでここから入って出口目指してファイトねー」

「おい、説明が…、」

「じゃっ!」


踵を返してリズナは去って行った。皆からは見えなかったが、その顔には黒笑が浮かんでいたのだった。
…見えなかったとはいえ、哀れである。


「…行くしかないのか?」
「俺さま、行かなかったらリズナちゃんとマナちゃんに殺される気がする…」



「「「あ」」」

「? 何だよ?」

「マナとリズナ…」
「…最凶のタッグメンバーだよ」

『………』

「あーもういいっ!!俺は行くぜ!」

「待ちなさいロイド!」

「あ!クラトス!ロイド!」

「…行っちまったし」

「あたしたちはどうする?」

「行くしか無いのではないか?」

「…あー!!もうじれったいね!うじうじ悩んでても仕方ないんだ。行くよ!」

「ひゅ~、しいなかっこいい~!」

「うるさいね、あほ神子!」

「ぐふぅっ!」

「…貴様ら、痴話喧嘩もたいがいにしろ」

「なっ…!痴話喧嘩じゃないよ!」

「分かった分かった」

「分かってないだろー!!」


…親子に続いて、うるさい三人組も中に入っていったのだった。


「マナ、全員入った。後はマナの腕の見せ所だね」

『あのさ、リズナ』

「なに?」

『どっからこんなにたくさんアーティファクト持ってきたの?』


「…マナ、聞いて生きて帰れると思う?」

『スイマセンデシタ』

「素直でよろしい。さ、行くよ」

『あたしたちの姿は見えないんだよね?』

「見えない。協力してもらったから、それは確かだ」
『協力?』

「そう。脅s…みんなに頼んで協力してもらった。それでこの森の幻術とあたしたちの姿が見えないように」

『(協力した人達は、脅されたのか…。哀れ、名も知らぬ人よ)』

「マナ、行こうっ!」
「……、うん!」


二人は笑いながら、移動して行った。五人になにが待ち受けるのかは、すぐに分かるだろう…。











「クラトスー?クラトスー」


ロイドはいつの間にかはぐれてしまったクラトスを探して歩いていた。

実は珍しがって走り回っているうちにいつの間にかクラトスを置いてきてしまったことに、気付いていない。


「…ん?なんだあれ」


あてもなく歩き回っていると、何やら布らしき物が落ちているのを見つけた。
拾い上げた瞬間、それは光を発した。





『とーしゃー!』

『ロイドー!!』

『ロイド、そんなに慌てないのよ』

『とーしゃがいるからー!』

『ロイド、おぉ愛しのロイド!』

『とーしゃ、好きー!』

『ロイドー!!私も好きだー!ちゅっ!』

『とーしゃ、くすぐったい~』

『やれやれ…』





「な、何だよ…あれ。父さんか…?父さんが、父さんが…。うそだああぁぁああっ!!」

「…クラトスのイメージが違いすぎて人格崩壊…」

『ロイドーごめんねー』

「あたしもあれ見た時はびびったわー」

『あたしのほうがダメージ大きいよ。…次はだれ?』
「親子をまずは攻めたいから次はクラトス」

『どんな反応するかわかるんだけど』

「…敢えて想像したくないけど。行くよ」








「ロイドー!どこにいるのだロイドよー!」


クラトスは半狂乱になりながら、ロイドを探していた。

普段は隠しているが、本当のクラトスはロイドバカのアンナバカであることを、全員は知らない。

と、クラトスもロイドと同じ状況になった。見つけたのは、ロイドが大切にしていたおもちゃだ。


「これはロイドの…」




『とーしゃ!かーしゃ!』
『ロイド!愛しのロイドー!』

『とーしゃくすぐったいー!』

『あら、ロイド。大切にしてるおもちゃね?どうしたの?』

『…あげたいの』

『まあ、誰に?』

『あのね、ロイドね、だいすきなの』

『誰が大好きなの?』

『かーしゃ!』

『……(ガーン!!)』

『とーしゃは?』

『いつもちゅーしてくるからきらい!』

『ガーン!!』

『あらあら、クラトス…』

『かーしゃこれあげる!だいすき!』

『…ありがとう、ロイド』





「ロイドー!!大嫌いなどと言わないでおくれー!!私はロイドに嫌われたらいきていけないのだー!」

「…クラトスのキャラ崩壊」

『紫タイツキモッ!あれでキャラあれとかありえない!リズナ、殺してきていい?』

「まてまて。落ち着くんだ」

「だって…」

「あれはあれで置いといていいから、次行こう」

『…はーい』

『次誰ー?』

「あと残ってるのは三人だけど、しいなとゼロス、ユアンに別れてるな」

『ゼロスとしいな?』



「あの二人前に付き合ってたの知ってる?」

『付き合ってたの?!…まあ確かにお似合いだとは思うけどさ』

「しいなが尻にしいてる家庭になりそうだけどね。あの二人には何しようか?」

『引きはがすのは可哀相だし、んー…。リズナ、仲でも深めてあげようか?』

「そうしようか!けどどうやって?」

『リズナが考えるんだよ』

「あたし?!…ほっとけば仲良くなんない?」

『それは逃げ。ゼロス…しいな…』

「ここは王道にすっころばせよう!」

『な!それほんとにやるの…?』

「やる。悪戯何だし」

『今までやってきたことが悪戯なんて言えたらあたし天使になってやるよ』

「だからここだけでも悪戯にしておくの。文句ある?」

『無いでーす。悪戯はリズナにお任せします』

「ゼロスがすっころばせで、しいなが落とし穴。よし、王道」

『王道過ぎて涙がポロリ』

「あたしの秘奥義くらいたい?結構痛いよ?」

『ごめんなさいいいと思います』

「そうだよね。というわけでグレイブ!」

『リズナ!?ちょ、何してんのよ!』

「穴掘った」

『そういう問題じゃないっ!』

「ほら、しいなたち来たよ。行こうっ!…あ、マナはこの紐持ってあっちに行って。あたしはこっち側で待機してるから」

『この紐はどっから来たのってつっこんじゃダメなんだよね…』

「細かいところは気にするな。来た来た」






「全く、ユアンたちはどこに行ったのかねぇ…」

「いつの間にか俺さまとしいなの二人だけだからな」

「…二人だけなんて…」

「ほんとのことだろ?マイハn…へぶっ!!」

「お、おい!ゼロス…きゃああぁぁああっ…!」


「くっそ、なんだ…?今なんかに引っ掛けられた…。って、しいな!」

「なんなんだい、この穴は?!」

「しいな!大丈夫か?!」
「大丈夫だけど…。ゼロス、あんたは大丈夫かい?」
「人の心配より自分の心配しろよ。全く…、待ってろ、今助けてやるから」


ゼロスは天使化すると、しいなのもとに下りて行った。案外深い穴に驚きつつも、一番奥…しいなのいる元へと急ぐ。

しいなはゼロスが来ると、一歩下がった。一歩近づけばまた下がる。

不審に思ったゼロスは、しいなの手をしっかりと握りしめた。


「どうして逃げんだよ」

「いや、…っ…」

「怪我してんじゃねぇか。全く、人優先だなー」

「わ、悪かったね!」

「ほら、動くな。――…癒しの光よ…、ヒール!」

「あ、ありがとう…」

「お代はしいなのからd…ふごっ!!」

「あほゼロス!」






「…途中までいい感じだったのに。ゼロスもしいなも素直じゃ無いな」

『空気読めないっていうのか?』

「まあそこはいいんじゃない?最後はユアンだ」

『じゃあ、行くか』

「くそっ、どこに行ったんだ」


ユアンは森の中をあてもなく歩き回っていた。誰の姿も見当たらず、どうしたらいいのわからないので歩き回っているしかないのだ。

そんな彼に、リズナはどんなことを仕掛けるか迷っていた。

「ユアンって報われてないんだよねー」

『確かに。ユアンってクルシスの中では常識人だし』

「あたしも結構お世話になってるからなー」

『いい夢でも見させてあげようか?』

「マーテルとの素敵な夢?」

『あたしのほうのマーテルは、黒いんだけどねー…』

「あははは…、ユアンにはそうだ!」

『なんか思い付いたの?』

「まーね!行くよ」







「む、あれは…?――!!あれは私とマーテルの好きだった花か…」


しゃがみ込んでそれを優しく撫でる。
楽しかった思い出が蘇る――。




『ねえユアン、これを見て!』

『何だ?…綺麗な花だな』

『そうでしょう?名前は…アルミソウ』

『アルミソウ?そんな花があるのか?』

『ふふふ…、ごめんなさい、名前はついてないの』

『そうなのか。…マーテル、お前がつけたアルミソウでいいんじゃないのか?』

『じゃあ私たちだけの秘密ね?アルミソウ…花言葉は永遠の愛』

『永遠の愛…か。いいな』

『大好きよ?』

『…私もだ』






「…っ…、懐かしいな。アルミソウ…、私とマーテルの合言葉」


「よし、攻撃ー」

「ぐおおぉぉおぉっ!!」

「? な、何なんだ?…魔物か?」

「グオォオオッ!!」

「これ、は…デカすぎるだろうううっ!!」

「グオォオオッ!!」

「行け行けっ!」

『えげつない…』

「いい思い出に浸れたんだから、いいんじゃないの?」

『その後にこれはないよ』


ガブッ!


「ぎゃああぁあぁ――…」

「…………」

『…………』

「あ、あたし知らないよ?」

『あたしも…。とりあえずこの森の幻術だけ解こうか』

「そうしよう」


光が満ち、幻術でつくっていた森は消え去った。それと同時に、ロイドたちが見ていた過去の映像も消え去った。

しかし、全員が疲れきって放心状態であったため、森が丸々消えてしまったことにさえ、気付いていない。


『リズナ』

「…何?」

『あたしたち、やり過ぎた?』

「そんなことない!…悪戯から外れてるけど」

『…とりあえず帰ろうか?』

「うん、そうしよう。あたしたちは何にも見てない」

『見たくない。…あの人たち…』

「…行こう、マナ」

『そうだね』


後に残されたのは、放心状態の四人だけであった…。
彼らがどうなったのか知るものは、誰もいない。



P.S.ユアンはその後三日追い掛けられていたという。

Fin
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