10万打記念小説
いつからだろう?
彼と私の間の10㎝の距離を意識するようになったのは
≪10㎝の距離≫
「……ソフィア殿。前々から思っていたのだが、ソフィア殿の恰好は褒められたものではないと、私は思いますぞ」
「……話を逸らさないで!私はね、ライアン、どうして私を避けるのかその理由を聞いているの!最近はあからさまに目まで逸らされるし……」
「……そ、それは……とにかく、年頃の女性がそのような格好をするのは感心いたしません!」
「それを言うならマーニャにも言って!」
「今はソフィア殿の事について話しているのですぞ!マーニャ殿は関係ない!!」
喧嘩のきっかけはそんなくだらない会話だった
「……それでキレちゃったのね。もう、ライアンと言い争ってるから何かあったんじゃないかって心配したんだから」
「ごめん……アリーナ」
ゆらゆらと、照明用の蝋燭の炎が安宿の一室をほのかに照らし出す。
羽毛の代わりに籾殻が詰め込まれたこの宿自慢だというクッションに顔を埋めて呟くように答えれば、私たちのやり取りを見ていたマーニャは堪え切れないという様子で盛大に吹き出した。
「何も笑うことないじゃない……」
バンバン……と、マーニャが机を激しく叩く音が彼女の笑い声とともに部屋に響く。
クッションから少しだけ顔を上げて、恨みがましい視線を送れば、まったく気持ちがこもっていない軽い謝罪の言葉が返ってきた。
「で?それで、そのあとソフィアはなんて言ったの?」
「”……いい年してピンクの鎧を着ているような人に言われたくない!!”
……って、啖呵切ってたよね?ソフィア」
「あははははは!!!ソフィア、アンタそれ最高だわ!」
「姉さん!」
アリーナから事情を説明されたマーニャは妹の咎められようがお構いなしで、そんなマーニャの笑い声を聴きながら、私は今日何度目になるか分からないため息を漏らさずにはいられなかった。
「ごめん、ごめん。だって……おかしくって!ねえ、ロザリーもそう思うでしょう?」
「他人事だと思って……ね?ロザリーもそう思うよね?」
「……ソフィアさん。どうしてそこで私に話を振るんですか?」
「え?だって、ピサロも美的センス狂っているじゃない?だから、ロザリーなら私の気持ち分かってくれるかな、って」
「喧嘩売ってますか?」
ロザリーなら私の気持ち絶対分かってくれると思ったんだけど……
彼女の笑顔の裏に隠れきれていない棘から察するに、どうやら私の思惑は外れてしまったようだ。
「確かにピサロ様はデス・ピサロなんて名前を自分で名乗っていた時点でどうかしていると思います。
いい年なのに思春期の一部が好んで身に着ける髑髏アクセをいまだに身に着けているのも、安直な黒一色に逃げているのも、正直、痛々しいのは事実です」
「いや、あなただけは否定してあげようよ。そこは」
だんだんと熱が込められていくロザリーの演説。
彼女の力がこもり過ぎた力説にあのマーニャですら少したじろいだ。
……でも、やっぱりロザリーもそう思っていたんだ。
そう言えば、この前女子組みんなで馬車の中でポーカーしていた時も”思春期特有の症状って何歳までなら許されるんでしょうか?”って言っていたような気がする。妙に憂を帯びた横顔が印象的だったのを覚えている。(男組は外で頑張っていました)
「私も皆さんに助けていただいてから色々考えましたわ。服装もそうですが、理由も告げずに軟禁状態で閉じ込めた落とし前をどうやってつけていただこうとか……」
「……ロザリーってこんな性格だった?」
「一体、誰の影響ですか……」
彼女の言葉に若干引きつつ隣にいたミネアにこっそり尋ねれば、彼女は呆れたというようにため息交じりで小さく呟いた。
誰だろう?私は本当の事しかロザリーに言っていないからトルネコさんかな?落とし前ってお金で清算することも多いし、きっとそう。たぶんそう。絶対そう。
私は何も吹き込んでいないわ。神様に……誓うのは止めておくけれど。
「……でも、今はこう思っているんです。痛々しさがないピサロ様はピサロ様らしくないって」
「ロザリー……」
ロザリーはそう言い切ると今までの黒い笑顔から一変、柔らかな微笑みを浮かべた。
ふわりと綻んだロザリーの表情は、彼女がピサロを慈しみ愛しているのだと私に伝えるには十分すぎるもので、彼女の笑顔につられるように私も口元もほんの少しだけゆるんだ。
「ソフィアさんも同じではありませんか?
ライアン様は年甲斐もなく派手な鎧をお召しになった髭筋肉おやじですが……
ピンクの変態だという事実を含めてこそライアン様なのだと私は思いますわ」
「いや、私、そこまでボロクソには言ってないけれど……」
……本当に誰だ。ロザリーに妙なこと吹き込んだ人間は。
「……それに、ライアン様がソフィアさんにそのように言ったのにはちゃんと理由があると思いますわ。ねえ、皆さん?」
「……え?」
人差し指を楽しげに揺らしながらロザリーは私に語る。
ロザリーの言葉に思わず顔が赤くなってしまったことはここにいる私たちだけの秘密。
そして、私とライアンの10㎝の距離がどうなったのかも……
Fin?
≪おまけ≫
「……とソフィア殿に言われてしまったのだが……私は一体どうすればよいのだろうか?ピサロ殿」
「何故、私にそのようなことを聞く?」
「パーティー内で趣味が悪いと言えばピサロ殿をおいて他はいないであろう?」
「お前、帰れよ」
Fin
彼と私の間の10㎝の距離を意識するようになったのは
≪10㎝の距離≫
「……ソフィア殿。前々から思っていたのだが、ソフィア殿の恰好は褒められたものではないと、私は思いますぞ」
「……話を逸らさないで!私はね、ライアン、どうして私を避けるのかその理由を聞いているの!最近はあからさまに目まで逸らされるし……」
「……そ、それは……とにかく、年頃の女性がそのような格好をするのは感心いたしません!」
「それを言うならマーニャにも言って!」
「今はソフィア殿の事について話しているのですぞ!マーニャ殿は関係ない!!」
喧嘩のきっかけはそんなくだらない会話だった
「……それでキレちゃったのね。もう、ライアンと言い争ってるから何かあったんじゃないかって心配したんだから」
「ごめん……アリーナ」
ゆらゆらと、照明用の蝋燭の炎が安宿の一室をほのかに照らし出す。
羽毛の代わりに籾殻が詰め込まれたこの宿自慢だというクッションに顔を埋めて呟くように答えれば、私たちのやり取りを見ていたマーニャは堪え切れないという様子で盛大に吹き出した。
「何も笑うことないじゃない……」
バンバン……と、マーニャが机を激しく叩く音が彼女の笑い声とともに部屋に響く。
クッションから少しだけ顔を上げて、恨みがましい視線を送れば、まったく気持ちがこもっていない軽い謝罪の言葉が返ってきた。
「で?それで、そのあとソフィアはなんて言ったの?」
「”……いい年してピンクの鎧を着ているような人に言われたくない!!”
……って、啖呵切ってたよね?ソフィア」
「あははははは!!!ソフィア、アンタそれ最高だわ!」
「姉さん!」
アリーナから事情を説明されたマーニャは妹の咎められようがお構いなしで、そんなマーニャの笑い声を聴きながら、私は今日何度目になるか分からないため息を漏らさずにはいられなかった。
「ごめん、ごめん。だって……おかしくって!ねえ、ロザリーもそう思うでしょう?」
「他人事だと思って……ね?ロザリーもそう思うよね?」
「……ソフィアさん。どうしてそこで私に話を振るんですか?」
「え?だって、ピサロも美的センス狂っているじゃない?だから、ロザリーなら私の気持ち分かってくれるかな、って」
「喧嘩売ってますか?」
ロザリーなら私の気持ち絶対分かってくれると思ったんだけど……
彼女の笑顔の裏に隠れきれていない棘から察するに、どうやら私の思惑は外れてしまったようだ。
「確かにピサロ様はデス・ピサロなんて名前を自分で名乗っていた時点でどうかしていると思います。
いい年なのに思春期の一部が好んで身に着ける髑髏アクセをいまだに身に着けているのも、安直な黒一色に逃げているのも、正直、痛々しいのは事実です」
「いや、あなただけは否定してあげようよ。そこは」
だんだんと熱が込められていくロザリーの演説。
彼女の力がこもり過ぎた力説にあのマーニャですら少したじろいだ。
……でも、やっぱりロザリーもそう思っていたんだ。
そう言えば、この前女子組みんなで馬車の中でポーカーしていた時も”思春期特有の症状って何歳までなら許されるんでしょうか?”って言っていたような気がする。妙に憂を帯びた横顔が印象的だったのを覚えている。(男組は外で頑張っていました)
「私も皆さんに助けていただいてから色々考えましたわ。服装もそうですが、理由も告げずに軟禁状態で閉じ込めた落とし前をどうやってつけていただこうとか……」
「……ロザリーってこんな性格だった?」
「一体、誰の影響ですか……」
彼女の言葉に若干引きつつ隣にいたミネアにこっそり尋ねれば、彼女は呆れたというようにため息交じりで小さく呟いた。
誰だろう?私は本当の事しかロザリーに言っていないからトルネコさんかな?落とし前ってお金で清算することも多いし、きっとそう。たぶんそう。絶対そう。
私は何も吹き込んでいないわ。神様に……誓うのは止めておくけれど。
「……でも、今はこう思っているんです。痛々しさがないピサロ様はピサロ様らしくないって」
「ロザリー……」
ロザリーはそう言い切ると今までの黒い笑顔から一変、柔らかな微笑みを浮かべた。
ふわりと綻んだロザリーの表情は、彼女がピサロを慈しみ愛しているのだと私に伝えるには十分すぎるもので、彼女の笑顔につられるように私も口元もほんの少しだけゆるんだ。
「ソフィアさんも同じではありませんか?
ライアン様は年甲斐もなく派手な鎧をお召しになった髭筋肉おやじですが……
ピンクの変態だという事実を含めてこそライアン様なのだと私は思いますわ」
「いや、私、そこまでボロクソには言ってないけれど……」
……本当に誰だ。ロザリーに妙なこと吹き込んだ人間は。
「……それに、ライアン様がソフィアさんにそのように言ったのにはちゃんと理由があると思いますわ。ねえ、皆さん?」
「……え?」
人差し指を楽しげに揺らしながらロザリーは私に語る。
ロザリーの言葉に思わず顔が赤くなってしまったことはここにいる私たちだけの秘密。
そして、私とライアンの10㎝の距離がどうなったのかも……
Fin?
≪おまけ≫
「……とソフィア殿に言われてしまったのだが……私は一体どうすればよいのだろうか?ピサロ殿」
「何故、私にそのようなことを聞く?」
「パーティー内で趣味が悪いと言えばピサロ殿をおいて他はいないであろう?」
「お前、帰れよ」
Fin