夢主交流

事実は小説より奇なり

どこぞの誰の言葉かは知らないけど、この時ばかりは流石に同意せずにはいられなかった。


《Happenings!》

『何コレ。』


朝起きたらそこは宿屋ではなく託児所でした。


こんなものを見せられて覚醒してない頭で状況を把握しろっていうのが、そもそも無理ってもんである。

もしかして寝呆けてるんじゃないかと自分の目を擦ってみたけれど、瞳に映る光景は変わらなかった。それどころか―……


「なーなー!ねーちゃんもいっしょにあそぼうぜ!」


「だめよ、ろいど。しらないひとについてっちゃだめっていわれてるでしょ?
ね、これっと?」


「うーん……でも、れいみあ。わたしはおねえさんとあそびたいなー。だめー?」


見慣れた茶色の癖っ毛、煌めく金の髪、真っすぐのびた明るい茶色の髪が自分の視線の遥か下でゆらゆらと揺れている。

その色と髪型は間違いなくこの子供達が彼らである事の証だった。


『ぇえええ!?どうしてロイド達縮んでるの!?』


あまりに大きな声を出したためか、幼い三対の瞳が不思議そうにあたしを見つめている。

当然だけど、その瞳の色も形もあたしが知る彼らとまったく同じものだった。

いやいやいやいや!一体何が起こったっていうの!?


『……つまり、リフィルでも原因が分からない、と。』


「ええ。レイミアとコレットの二人は私が朝起きた時にはこうなっていたし、ジーニアスの話だとロイドもあの子が起きた時には縮んでいたらしいのよ……。」


……困ったものね。と、続くリフィルの言葉。

あたし達のどちらからも大きなため息が漏れた。

朝起きたら仲間が小さくなっていました。

そんな話を聞いて冷静でいられる人間がいるならば、是非その顔を拝ませてほしいもんである。


「……ところでマナ。あなたはマナの流れが見える―……そうだったわね。」


『うん。そうだけど―……』


「三人のマナで何か変わったところは?私達はあなたを除いて皆、エクスフィアか輝石を装備しているわ。」


ああ……なるほど。そういうことか。

確かにリフィルが考えているようにこの現象の原因として最も怪しいのはあの石だろう。

人の身体に眠っている力を極限まで引き出し、潜在能力を開花させる生ける宝玉。

現にコレットはこれが原因でマナの流れが大きく変わってしまった。

だけど―……


『うーん……今のところ大きな変化はないみたい。』


姿形こそ縮んではいるが、三人のマナの流れはあたしが知っているものだった。

質も全体の量も流れも普段のそれと何ら変わりがない。

だからこそ余計に理由が分からないんだけど―……

「なーなー。むずかしいはなしなんかしてないであそぼーぜー!」


あたしの考えを遮るように小さなもみじ型の手がスカートの裾を強く引っ張る。

視線を向ければ、煌めく一対の蔦色の瞳と目が合った。


「……仕方ないわ。私とジーニアスで医者を呼んできます。あなたとクラトスの二人で三人の様子を見ておく事。よろしい?」


あっ、そうなるんだ。



……リフィル達が出かけてから早一時間弱。

臨時託児所の賑やかさは収まる気配を見せるどころかより騒々しさを増していた。

……って、ロイド、またクラトスの髪の毛引っ張ってるよ。しかも毛根にダメージがいきそうな勢いで。

それなのに心なしかクラトスが笑っているような気がするのはあたしの気のせい?

M?実はドMなのか?全身タイツのドM野郎ってニッチなジャンル過ぎるでしょ。


「おねえちゃん、おねえちゃん!つぎは?つぎのおはなしは?」


大きな空色と新緑色をしたニ対の瞳にあたしの姿が映り込む。

最初はあたしの事を警戒していたレイミアだけれど、今、彼女の瞳はロイドやコレットに負けないぐらい好奇心で輝いていて―……

全然似てない兄妹だけれど根っこの部分は同じなんだな。と、思わずにはいられなかった。


『んー。じゃあ、次はちょっとお間抜けなセイウチとペンギンの海賊団の話でもしようか!』


「やったー!!」


手を叩いて全身で喜びを表現するレイミアとコレットの様子を見ていると何故かこっちまで心が温かくなって、同時に少し寂しくなった。

あたしが家に帰るとあの双子もこうやっていつも話をせがんできたっけ。


「おねえちゃん?どこかいたいの?」


『えっ?』


優しい新緑色をしたレイミアの瞳が不安そうに揺れている。

……やっぱり、この女の子はレイミアだ。彼女は人の心に敏感すぎる。

勿論、それがレイミアの長所で、だからこそレイミアは人の痛みが分かる人間なんだけれど―……


『だいじょうぶ、大丈夫!ほらほら、レイミアがそんなんだとお話始まらないよー?』


「えっ?ヤダーッ!!」


ぷう……っと膨れるレイミアが可愛くて面白くて、気が付けばあたしは声を上げて笑っていた。

まあ、いっか。今あたしがすべき事は不粋な邪推なんかじゃなくてこの子達の好奇心を満足させてあげる事なんだから。

この後、ロイドがクラトスのブーツに外から持ってきた泥団子を詰め込んでぐちゃぐちゃにしてくれた事とか、コレットが宿に飾ってあった花瓶を転んだ拍子に割りかけたりとか―……

色々あったけれどあたしはなんとか元気です。ちなみに、あの三人は何故か次の日には戻っていました。

事実は小説より奇なり

なんて言葉があったけど、あながち間違いじゃないのかもしれない……のかなあ?


Fin
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