第12章 復興、そして北へ
貴方のことをもっと知りたい。
私は貴方のことを何も知らないままだから。
「…あの…一緒にお料理させていただいてもいいでしょうか…?」
私は調理場で食事の支度をする貴方にそう問いかけた。
私が姿を見せたことにも驚いていたようだけれど…私が先程の言葉を口にした瞬間、調理場は音を失いなんとも言えない空気がよぎった。
「ご…ご迷惑でなければ…ですが…。」
おかしなことを口にしてしまったでしょうか…?
そう思いながら行き場のない両手を組んで、私は目の前に立つ貴方の方へとゆっくりと顔を上げた。
「料理が…好きなのか?」
目を丸くしたまま私を見つめる貴方の顔をずっと見つめることができず…私は視線を足元へと落とした。
このような歳になって料理の経験が無いなど…よくよく考えてもみれば恥ずべき事なのだと…そう思うとどんどん頬に熱がこもってきて…
ですが…嘘をつくわけにはいきません。
ここで取り繕ってもいずれそれは自分を苦しめる枷になるだけだと私は知っている。
だから…
「お料理は…正直に申しますと初めてです…だから教えて欲しいんです。」
知らないことは正直に知らないと…教えて欲しいと問えばいい。
新しい一歩を踏み出さなければ何一つ変わらないままになってしまうと…私はそう思うから。
「そうか…じゃあ、そこの野菜を洗ってくれないか?」
きっかけはなんでもいい。
私は貴方を知りたい。
貴方とお話ができるなら今までやったことのないお料理だって挑戦したい。
小さな果物ナイフで林檎を切ることも満足にできなくて、何度貴方の不安げな表情を見たか…今ではもうわかりませんけれど…
「あまり綺麗に切れませんでしたけれど…大丈夫でしょうか?」
そう問う私に貴方は「大丈夫だ…美味しい。自分でも食べてみるといい。」と…
そう言って柔らかく微笑んで林檎をひとつ私の口元へと差し出してくださいました。
口に広がる甘さとさわやかな香りに頬が緩む。
「本当に…美味しい林檎ですね。」
不格好に切れた林檎を貴方に食べて頂いたとき、貴方に林檎を食べさせて頂いたとき、私は自然と笑みが溢れていたのです。
貴方に「美味しい」と言ってもらえた。
それだけで…こんなにも胸の奥が暖かい。
不思議ですね…私と貴方は誘拐された者と誘拐した者という…異色の関係性だというのに…
愚かでしょうか…?
誘拐した者に歩み寄ろうとする私は…
都合のいい夢を見ているのではないか…そう思うこともあります…
ですが…私は貴方の優しい声に…私を気遣うその眼差しに…自分にとって都合のいい夢を抱かずにはいられないのです…。
貴方はきっと優しい人なのだと…何か理由があって誘拐に及んだに違いないのだと…
そう…都合のいい解釈をしている私がいるのです…
「あの…いつもこうして貴方がお食事を作ってたんですか…?」
「ああ…前にも言ったが、ここには使用人がいないのでな。」
私の言葉に貴方は少しバツが悪そうな表情を浮かべながら私から視線を反らしてそう答えてくださいました。
それなら…と私は貴方に一つ提案をしようと思いました。
「これからは私も一緒にお料理を作らせてくださいませんか…?」
言葉を一つ口にすればまた一つと言葉が出てくる。
「それから…できれば貴方と一緒にお食事がしたいです…」
それは都合のいい夢に浸ろうとしているからでしょうか…?
いいえ…。
これは紛れもなく私の意思です。
私がそうしたいとそう思ったのです。
貴方をもっと知りたい…何も知らないままでいるのではなく、貴方が何を望んでいるのか、何を成そうとしているのかを私は知りたいのです。
「一人より二人の方が美味しくお食事できるでしょう?」
この不格好に切れた林檎のように…見た目は決して良くなくとも甘く美味しい林檎のように…
もう一歩踏み込んで貴方を知ることができたなら、貴方の違う一面が見えてくるかもしれない…
そう私は思うのです。
私は貴方のことを何も知らないままだから。
「…あの…一緒にお料理させていただいてもいいでしょうか…?」
私は調理場で食事の支度をする貴方にそう問いかけた。
私が姿を見せたことにも驚いていたようだけれど…私が先程の言葉を口にした瞬間、調理場は音を失いなんとも言えない空気がよぎった。
「ご…ご迷惑でなければ…ですが…。」
おかしなことを口にしてしまったでしょうか…?
そう思いながら行き場のない両手を組んで、私は目の前に立つ貴方の方へとゆっくりと顔を上げた。
「料理が…好きなのか?」
目を丸くしたまま私を見つめる貴方の顔をずっと見つめることができず…私は視線を足元へと落とした。
このような歳になって料理の経験が無いなど…よくよく考えてもみれば恥ずべき事なのだと…そう思うとどんどん頬に熱がこもってきて…
ですが…嘘をつくわけにはいきません。
ここで取り繕ってもいずれそれは自分を苦しめる枷になるだけだと私は知っている。
だから…
「お料理は…正直に申しますと初めてです…だから教えて欲しいんです。」
知らないことは正直に知らないと…教えて欲しいと問えばいい。
新しい一歩を踏み出さなければ何一つ変わらないままになってしまうと…私はそう思うから。
「そうか…じゃあ、そこの野菜を洗ってくれないか?」
きっかけはなんでもいい。
私は貴方を知りたい。
貴方とお話ができるなら今までやったことのないお料理だって挑戦したい。
小さな果物ナイフで林檎を切ることも満足にできなくて、何度貴方の不安げな表情を見たか…今ではもうわかりませんけれど…
「あまり綺麗に切れませんでしたけれど…大丈夫でしょうか?」
そう問う私に貴方は「大丈夫だ…美味しい。自分でも食べてみるといい。」と…
そう言って柔らかく微笑んで林檎をひとつ私の口元へと差し出してくださいました。
口に広がる甘さとさわやかな香りに頬が緩む。
「本当に…美味しい林檎ですね。」
不格好に切れた林檎を貴方に食べて頂いたとき、貴方に林檎を食べさせて頂いたとき、私は自然と笑みが溢れていたのです。
貴方に「美味しい」と言ってもらえた。
それだけで…こんなにも胸の奥が暖かい。
不思議ですね…私と貴方は誘拐された者と誘拐した者という…異色の関係性だというのに…
愚かでしょうか…?
誘拐した者に歩み寄ろうとする私は…
都合のいい夢を見ているのではないか…そう思うこともあります…
ですが…私は貴方の優しい声に…私を気遣うその眼差しに…自分にとって都合のいい夢を抱かずにはいられないのです…。
貴方はきっと優しい人なのだと…何か理由があって誘拐に及んだに違いないのだと…
そう…都合のいい解釈をしている私がいるのです…
「あの…いつもこうして貴方がお食事を作ってたんですか…?」
「ああ…前にも言ったが、ここには使用人がいないのでな。」
私の言葉に貴方は少しバツが悪そうな表情を浮かべながら私から視線を反らしてそう答えてくださいました。
それなら…と私は貴方に一つ提案をしようと思いました。
「これからは私も一緒にお料理を作らせてくださいませんか…?」
言葉を一つ口にすればまた一つと言葉が出てくる。
「それから…できれば貴方と一緒にお食事がしたいです…」
それは都合のいい夢に浸ろうとしているからでしょうか…?
いいえ…。
これは紛れもなく私の意思です。
私がそうしたいとそう思ったのです。
貴方をもっと知りたい…何も知らないままでいるのではなく、貴方が何を望んでいるのか、何を成そうとしているのかを私は知りたいのです。
「一人より二人の方が美味しくお食事できるでしょう?」
この不格好に切れた林檎のように…見た目は決して良くなくとも甘く美味しい林檎のように…
もう一歩踏み込んで貴方を知ることができたなら、貴方の違う一面が見えてくるかもしれない…
そう私は思うのです。
