第12章 復興、そして北へ
「ねえパパ!見て見て!私ママとサンドイッチ作ったのよ!」
満面の笑みを浮かべながらユリィはテーブルに置かれたお弁当のうちのひとつを自慢そうに見せてくれた。
とてもキラキラと輝く瞳で俺を見上げるユリィが可愛くて俺はそっとユリィの頭に右手で触れる。
「そうか、ユリィは上手だな。
そのうちママに負けないくらい沢山料理が作れるようになるな。」
俺がそう言って頭を撫でてやるとユリィは「えへへ!」と声をあげながらより一層笑みを深めたのだ。
天真爛漫とはこの子のようなことを差すのだろうなと思いながら俺もつられて自然と笑みがこぼれた。
「ユリィがとても一生懸命お手伝いしてくれたのよ。」
「ああ、えらいな。」
妻のキアラがテーブルに並べられたお弁当をバスケットに詰め終えて俺の傍らへと歩み寄ってくる。
若葉のような緑色の瞳が俺の瞳をじっと見つめ、赤い唇が弧を描いた。
ああ、解っているとも。早く行きたいんだな。
「そろそろ行こうか、キアラ」
俺がキアラにそう告げると、彼女はもう一度荷物の確認を始めた。
「お弁当と、水筒と、シートと…こんな感じで大丈夫かしら?」
「ああ、それほど遠くに行くわけじゃないからな。
あまり荷物を持つと帰りが大変だ。」
「それもそうね。」
家の扉に鍵をかけ、ユリィが嬉しそうに駆けて行く。
一番重いバスケットは俺が持ち、キアラはユリィと手を繋ぐ。
「行こうかキアラ。」
「ええ、行きましょう。」
††††††††††††††††
空は青く晴れ渡り、暖かく穏やかな風が吹いている。
特に何てことはない原っぱだが、タンポポや白爪草が一面に咲いていてそれを見たユリィは嬉しそうに花を摘み始めた。
「とても楽しそうね。」
「ああ。」
連れてきて良かったと二人で顔を見合せ笑顔が溢れる。
こんなにのびのび外で遊ばせたのは本当に久しぶりだからな…。
「すまないな、近場で済ませてしまって。
もっと気のきいたこともしたかったんだが…俺の頭ではこれくらいしか思い浮かばなくてな。」
「そんなことないわよ。
ほら、見てユリィはとても楽しそう。」
キアラの指差す先には楽しげに花を摘んでそれを夢中で編み込んでいくユリィの姿。
「ああ…そうだな。」
本当に…楽しそうだ。
「…キアラ。いつもユリィのことを君一人に任せてしまってすまないな。」
「どうしたの?急に。」
本当に…どうしたんだろうな…。
この開放的な景色を見たせいだろうか…
急に胸の内を吐きたくなってしまったんだ…。
「同僚からも子供の話をよく聞くことがあるが…
俺の見ていないところで母親も大変な思いをしているんだと聞いてな…」
俺は良い夫だろうか?俺は良い父親だろうか…?時折そんな不安が胸に渦巻く事があるんだ。
俺は家庭を省みない父親になっていやしないだろうか…?
君一人に重荷を背負わせていないだろうかと…不安になることがあるんだ。
「子供たちを楽しませるのも勿論だが…俺は君に羽根を伸ばして貰いたかったんだ。」
俺の言葉にキアラは一瞬目を丸くして俺の顔を見つめていた。
ああ…驚くだろうな…。
俺がこんなことを言うとは思わなかったんだろう…。
だが…今の言葉は紛れもなく俺の心から出た言葉だ。
「結婚してから気のきいたことはなにもできなかったからな…
君の事だからきっと一人で楽しんできてもいいと言っても家族が心配で休養にはならない事も知ってる。」
ふわりと風に乗って一匹の蝶がキアラの髪に留まった。
俺はその蝶を指先で軽く追い払いそのままキアラの頬に手を伸ばす。
壊してしまわないように…彼女の白い頬にそっと触れるように…。
「だからこうして外に来てみたが…休養になってるだろうか…?」
俺がそう言うとキアラはふふっと可笑しそうに微笑んで俺の右手に小さな掌を乗せてこう言った。
「ありがとう、ジェロム。
確かに、おもいっきりのびのびしたいな~って思う事はあるけど、でも…」
くるりと後ろへ振り返り彼女の背に鮮やかに咲き乱れる紫の花が視界に広がる。
彼女の視線の先へと俺も目を向ければ花冠を編み終えたユリィがこちらへ駆け寄ってくる姿が見えた。
「でも、可愛いのよね~。やっぱり。」
「ああ…。本当に…可愛いな。」
俺達はなんと恵まれているのだろう。
確かにあの子は俺達の実の子ではない…だが…
「俺達が愛情をかけているんだ。
可愛いに決まっている…そうだろう?キアラ。」
本当に…感謝しているんだ…
こんな不器用で気の利いた愛の言葉さえ囁けないこんな俺と一緒になってくれた君に。
本当にありがとう。
