第12章 復興、そして北へ


僕が息を吐く度にヒュ…ヒュ…と音が聞こえてくる。


苦しい…苦しい…

思うように息を吸うことができない。
口のなかは血の味がする。

「ゲホッ…ゲホッ…!!」

むせて咳をすれば全身に痛みが走り、それと同時に身体に刻まれた傷がさらに広がるのを感じた。


いたいよ…父上…


さむいよ…母上…



黒い布を一枚被せられ、冷たい土の上に僕は横たえられている。

耳に届くのは夜鷹の鳴き声。

熱が奪われカタカタカタカタと身体が震える。

この布のせいで僕が何処にいるのかぜんぜん見えないけれど…

むせ返るような血の匂いのなかに微かに届く草の匂いで僕は野原に捨てられているのだということだけは理解できた。

僕は今…ひどく暗く寂しい場所に打ち捨てられているのだろう。


そう思ったとたん…胸の内にどんどん不安と寂しさが広がった。



僕は…死ぬの…?死んじゃうの…?

こんな何処なのかもわからない野原で…


いやだ…いやだ…だれか…僕を家に帰して…


こんな布一枚だけじゃ…寒くて死んじゃうよ…


誰か…



誰か…



息が…できないよ…



痛い……苦しい……たすけて……






力が入らない。声もでない。

助けを求めることができない僕はきっとここで死んでしまうんだ…。

そう思いながらうっすらと目を開けて右手を見てみると僕の右手は真っ赤な血で汚れていた。

それを見た瞬間僕の全身に戦慄が走った。

バクバクバクバクと動悸が激しくなっていく。

さっきよりも呼吸が難しくなる。



怖い…!怖い…!きっと僕は死んじゃうんだ…!


おじいさま…


ちちうえ…ははうえ…


あねうえ…


いたいよ…いた…いよ…


……イタイ……クルシイ……


……タ ス ケ テ……

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


大きな叫び声をあげながら僕は目覚めた。

心臓はまだバクバクと鳴り続けている。

汗でびしょびしょになった額を右手でぐいっと拭いながら呼吸を整える。


「また…あの夢…!」


いつも見る赤い夢だ…でも…今日の夢はいつもと違う。


まだ僕の胸は激しく騒ぎ続け、両の目からは涙がボロボロと零れている。

ベッドの傍らにある小さなテーブルの上に置かれた白い貝殻に手を伸ばす。

胸元でそれを強く握りしめて僕はふらふらとした足取りで部屋を出た。

不安と恐怖で気持ち悪かった…

こんな時に頼りたい人は一人しかいない…


††††††††††††††††


「ん?なんだカヤか。
こんな夜遅くに…どうした?」


「マザー…」


ロト先生は傷病者の看護の為の見回りをしていた。

右手に握られたカンテラを突き出し僕の姿を明るく照らし出す。


暗闇に包まれていた通路のなかに僕と先生の姿がはっきりと浮かびあがった。


「マザー…夢が…あの夢が…」


うまく言葉にできない僕を見てロト先生は一瞬驚いたような表情を浮かべ、やがて哀れむような目で僕を見つめる。

全てを理解したように僕の頭をそっと抱えて優しくゆっくりと右手で撫でる。


「大丈夫だ…カヤ…。」


ロト先生の落ち着いた低い声が…優しく撫でる温かい手が僕の脳裏から悪夢を払う。


徐々に生々しくなっていく赤い夢…

あれはきっと本当にあった事なのだろう…僕は一体何処の誰なのか…それはあの夢からは読み取ることができないけれど…

僕には家族がいた…大切な家族がいたのだとそれだけは理解できた。


「先生…僕…礼拝堂に行きます…お祈りがしたいんです…」

今はどこで何をしているのか…生きているのかさえもわからない顔も名前も思い出せない僕の家族に……

「ああ…祈ってこい。気の済むまで。

それはきっと…お前が今すべき事なのだろう。」

そう言って先生は優しく微笑んだ。

今度は大丈夫。しっかりと歩ける。

先生の支えが無くても僕は一人で立てる。


僕が僕を取り戻す時はきっと…すぐそこにきている。
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