第12章 復興、そして北へ
今日も一人あの大きな修道院に通う。
あれからアグネスも元気を取り戻し、私は修道院の人々に支援を行う慈善事業に参加する日々を送っている。
修道院の方々が駆け回っても手が足りないほどここには沢山の怪我をされた人々が集められていた。
ここに初めて来たときはあまりに悲惨な光景に言葉を失ったほど…
炊き出しに食事の介助、掃除にお洗濯、お水汲み、お薬配りと治療のお手伝い。
目まぐるしく一日が過ぎてしまうほど忙しい。
毎日通って出来る限り必要とする人々に治癒を施し、残念ながら失われてしまった命には祈りを捧げる。
きっかけは私の治癒術が役にたつならという気持ちで訪ねたのが始まりなのですが、私はこの慈善事業に参加して本当によかったと思いました。
そんな日々を送っていた私はテレーズさんとお知り合いになり、私の事情を知った彼女は、修道院に届くお薬を分けてくださるようになりました。
「いつもありがとうございますテレーズさん。
おかげさまで、アグネスもすっかり元気になりました。」
「いいえ、こちらこそありがとうございます。」
テレーズさんはニコリと笑みを浮かべる。
それに合わせて首を傾げるととても綺麗な亜麻色の髪がふわりとゆれる。
その可愛らしい仕草に私もつられて笑顔になる。
「また明日、お手伝いに来ますね。」
そう言ってテレーズさんと別れ、アグネスの待つ家へ歩いて帰る。
ふと耳にパサパサと鳥の羽音が聞こえてくる。
くるりと振り返ったその時、白い鳩が私の肩へと留まる。
「あら?…あなたどこから来たの…?」
肩に留まった鳩に手を伸ばすと、トンと私の右手に留まる。
とても可愛いらしい白い鳩。
その子は胸に綺麗な青い筒を抱えていて、それをよくよく見てみると見覚えのある文字が刻まれていて……
「おかえりなさい永久!」
「ただいまアグネス。」
家に帰るとアグネスが身を起こして出迎えてくれる。
怪我をしてから彼女はこうして私の帰りを笑顔で迎えてくれる。
以前とは逆になってしまった光景。
不幸が降りかかった彼女には災難だったとしか言いようがないけれど…
彼女の身体を思うなら私はこれでよかったのではないかとも思ってしまうの…。
だって……これからはゆっくりと身体を休めることができるもの……
「身体の調子はどう?」
「もう身体に痛みはないから大丈夫よ。
身の回りのことくらいは自分でちゃんとできてるわ。
それより……その子は?」
アグネスが指差す先にいるのは先刻私のもとへ降りてきた白い鳩。
「ふふ。この子はね、兄さんのところから来たのよ。」
そう、兄さんがアグネスに宛てた手紙を抱えた白い鳩。
まだ手紙の内容は確認してはいないけれど、兄さんの事は私が一番解っているから開封しなくても想像できる。
「この手紙はアグネスが受けとるべきなの。
さあ、開けてみて。」
「刻からの…手紙…。」
―――…アグネスあれから君は元気になっただろうか?
こちらは問題なく旅を続けている。
困ったことがあったら永久を頼ってやってくれ。
いつでも君の事を想っている。…―――
「……。」
兄さんの手紙に何が書いてあったのか、私には解らないけれど…アグネスはじっと手紙を見つめている。
しばらくしてからくすりと彼女が笑みを溢す。
ああ、良い知らせだったんだなと私もつられて頬が緩んだ。
「ねぇ永久。私にもっと字を教えて?刻にお返事を書きたいの。」
「ええ喜んで。」
ねえ兄さん。アグネスはとても偉いのよ。
私たちの国の言葉をあれから一生懸命勉強してるの。
いまなら簡単な文字も読めるし、お手紙だってすぐに書けるようになるわ。
「ねえ……アグネス。」
「なあに?永久。」
「私ね、アグネスを私達の故郷にいつか連れていってあげたい。」
「……春の国へ?」
「うん。兄さんもきっとそう言うと思う。
アグネスに私達の故郷の花を見せてあげたい。
山をピンク色に染め上げる美しい桜の花を。」
沢山見せたいものがあるけど、それは兄さんの口から伝えさせてあげたいな……だからね……
「だからね…アグネス…もっと元気になってね。
兄さんの帰りを笑顔で迎えられるアグネスになってほしいの。」
そう、もっと元気に。
怪我だけじゃない。
今まで頑張ってきた分うんと休んで身体を癒してほしい。
私にできることがあるならなんでも言ってね。
私は友達のあなたの為ならなんでも頑張るから。
