第12章 復興、そして北へ

工房に並べられた沢山の木箱。

そのなかにはこの工房にある限りの薬草を使って作られた薬が入っている。


それらを丁寧に箱詰めし、梱包剤になる木屑を詰める。


明日ルーベラさんのギルドへ行こう。

寺院に届ける救援物資の運搬をルーベラさんのギルドに依頼してある。


食料、薬、包帯、毛布、そして救援の為の人材。

出来る限りのことはしてきた。

私一人にできることなどたかが知れているでしょう。

それでも…一人でも多く手を差し伸べることができるなら。

いつかそれは大きな輪になって広がっていく筈だと私は思うのです。


「さあ…もう少しお仕事しましょうか…」


腰に下げた袋に手を伸ばす。

しゅるりと音をたてて広げた小袋の中に入っていたのは長く美しい金の髪。


私を友と呼び親しんでくださったあの方の髪。


私は釜の真上に右手を突き出し、ゆっくりと手を開いてゆく。

サラサラと流れるように落ちて行く金の髪。


釜の中でポコポコと音をたてる薬液に髪は溶けて消えて行く。

ゆっくりと魔力を込めてかき混ぜる。

薬液は徐々に色を変え、黄金色の光を纏う。

私は作業台に置いておいたリングを手に取り、それを薬液に沈める。


両手を組んで祈りを込める。

私の大切な人達を護ってくれますように…

迷わぬように…止まらぬように…

私の愛する人達の行く道に光の導きがありますように。


光が収束し、リングに吸収されてゆく。

成功を確信して釜から淡く輝くリングを取り出す。

祝福の加護を得たプラチナリングはやがて光を失い銀色に変わる。

小さな花の模様を刻み込まれた美しい腕輪が掌でキラキラと輝いている。


これを小さな小箱にしまいこみ、皮袋で包む。


「ノルンさん?」


ふと背後から声をかけられ、振り返る。

そこにいたのはアトリエの二階で寝ていたカイくんの姿。

「ああ…すみません、起こしてしまいましたか。」


「いえ…喉が渇いておりてきたんです。
まだお仕事してたんですか…?」

「ええ…。
どうしても作っておきたかったものがあったので。
お水ですね、今汲んできますから。」


コップに水を汲み、それをカイくんに差し出す。

一口水を飲み、カイくんは再び私の方へと視線を向ける


「ノルンさん、ちゃんと休めてますか…?」

「私ですか?ええ…ちゃんと休憩はとってますよ。大丈夫です。」

「いえ…そうじゃなく…夜です。
ノルンさん…夜眠れてますか?

僕はここに来てからあなたが寝室で休んでいる姿を見てないなと思って…。」

そう言われて初めて気がついた。
確かに私はアトリエに戻ってからずっとゆっくりと寝室で休んではいなかったかもしれません。

こんな小さな子に心配をかけてしまってはいけませんよね。

「ありがとうカイくん。
大丈夫、今日はもうお仕事おしまいですから。私もこれから休みます。」

そう言ってそっと彼の頭を撫でる。

「明日、一緒に王都へ行きましょう。薬をギルドに納品したら、その後で私の友人に会いに行きましょう。」



カイくんを部屋へ送り、私も自室へと戻る。

久しぶりに自分のベッドへと腰をおろし、窓から見える月を仰ぎ見た。

根を詰めて眠れなかった…ううん…それだけじゃない。

私はあの日あの人と共に一夜を過ごした事が忘れられない…。

瞼を閉じれば思い出すあの人の優しい眼差し。

初めてあの人の腕に抱かれ眠ったあの夜を思い出して一人で眠ることができないんです…。

左手の薬指に輝く指輪にそっと触れる。

私と貴方を縛る呪い。

自ら望んだ心を永遠に縛る呪い。

私は貴方の帰りをいつまでも待っています…セデル。
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