第12章 復興、そして北へ

暗い暗い夜。

ゴウゴウと音を立て風が吹きすさぶ。

窓の外は暗闇と白い雪の世界。



ガタガタ…ガタガタ…と北風が窓を激しく揺らす。


一瞬の閃光と轟音。

空を裂くような光が走ったと同時に大きな音が建物をビリビリと揺らす。


「きゃっ…!!」



思わず耳を塞いで身を竦める。

先程から雷が鳴り響いているのは解っていたけれど…

こんなに近くに雷が落ちるなんて…


「うっ…早くどこかに行ってくれたら…」


そんな願いもむなしく雷は激しく鳴り続けている。

ビリビリと建物が揺れる度、押さえていたはずの恐怖心がどんどん膨れ上がっていく。


「だめ…居られない…朝まで我慢できない…」


誰か…誰か側にいてほしい…

誰でもいいから…


堪らず部屋の扉を開けて廊下を覗く。

誰もいない…

あるのは暗い闇に包まれた先の見えない通路。


「…暗い…。」


部屋を出ることを躊躇してしまったが、そんな私の背の方で再び雷が近くに落ちた。


悲鳴をあげながら部屋を飛び出し、勢いに任せて廊下を駆け抜けた。


一人でこの嵐を朝まで耐えられる気がしない。

誰でもいい。誰でもいいから側にいて欲しかった。


耳を塞ぎながら、怖いものを見ないようにしながら暗闇の中を進む。


こんな時…こんな時お母様なら私の手を握って朝まで一緒にいてくれるのに…


心細い…寂しい…そんな感情が心を支配している。


あてもなく通路を歩いていると、扉の隙間から光が漏れ出す部屋を見つけた。


(ここは…誰かいるのかしら…)


もしかしたらこの屋敷の使用人の部屋なのかもしれない。

そう思ってドアノブに手をかけて少しだけ扉を開いて中を覗き込んだ。


するとそこに居たのは、私を拐ったあの男の姿。


「…!」





こちらにはまだ気づいていない様子だった。

熱心に机に向かい、筆を走らせている。

見つかっていないという事に安堵しながらも、私はあの方の姿に興味を惹かれてその場を動くことができなかった。


初めてあの方の姿を落ち着いて見ることができたような気がする…


整った顔立ちに長く美しい髪…

その身に纏う衣服から、高貴な身分を思わせられる…

恐怖心から相手はもっと怖い盗賊のような人かと思っていたけれど…

どう見てもそんな人には見えない…

まじまじと相手を観察していると、忘れていたはずのあの雷がまた近くに落ちた。


「きゃああああ!!」


不意討ちだった。


本当に雷の事を忘れていた。


私は思わず悲鳴をあげて耳を塞いでその場に踞った。



(しまった…!)


そう思った時にはもう遅い。

悲鳴を聞きつけてあの方がこちらへ向かってくる。

ゆっくりと足音が近づいてくる。

バクバクと煩く響く心臓を抑えるように胸元に両手を当てるが気休めにしかならない…


ああ…こんな時どうしたらいいのでしょう…?


一体どうしてこうなってしまったのでしょうか…?

私は何故ここに連れてこられたのでしょう…?

ベッドに潜り込み、毛布を頭から被って何も見ないように過ごしていた。


それでも時折響く雷鳴が耳に届く度に身体は恐怖に震える。


ここに来てから幾日経ったのでしょうか…?

私をここにつれてきたあの方は、私を拐って一体何をしようというのでしょうか…?

この部屋に連れてこられてからと言うもの…彼は私の前に直接姿を現すことはなく、毎日決まった時間に温かい食事と暖炉の為の薪を扉の向こう側に置いていくのです…

廊下から足音が響く度に身体が震えた。

初めは彼の目的が解らず廊下に足音が響く度に怯え身を震わせていた…

しかし幾日経とうと彼が私に危害を与えようとする様子はなく、むしろその行動に僅かながらにこちらを気遣うような意図が見えるような気がして…


もしかしたら…あの方は恐ろしい方では無いのかもしれない…

そんな都合のいい解釈をするようになっている私がいることに気づいたのです…



『俺の事を信用しろとは言わない。だが、これだけは伝えておこうと思う。俺はお前に危害を加えない。けして。誓って』


『……な、何を信じろというのですか?信じられるわけないじゃないですか……!いきなり影の中に引きずり込まれて、このような……このような地の底のような場所に何の説明もなしに連れて来られて……信用できるはずがない、ないじゃないですか……!あなたの何を信じろというのですか!?』


あの日私は侍女と共に花摘をしていた…早咲きの水仙を見つけ、お父様に差し上げようとその黄色の水仙を手折った…

その瞬間、足元から大きな影が現れ私を飲み込んだ…

突然の事に驚き、恐怖で動けなかった。

逃げるよりも早く私は影に飲まれた。


覚えているのは深い深い暗闇…


何が起きているのかわからないまま私は影に拐われる。

恐怖に震える声で必死に叫ぶ。


『誰か…!誰か助けて!!』


私の叫び声に答えてくれる人はいない。

私の声は暗闇に飲まれ消えて行く。


『助けて…!お母様!!』


怖くて悲しくて私は思わず今は亡きお母様に助けを求めていた。


ですが…今になって思い出すのです…

恐怖に震える私の身体を抱き締める腕がとても優しく温かいものだったと…。



彼は私に決して危害は与えないと言った。

この数日、その言葉の通り彼は一切危害を与えてこなかった…


用意された食事を口にする。

温かいスープとパンがひとつ。

家で用意された食事のように豪華じゃないけど…

お世辞にも美しい見た目のお料理じゃないけど…

でも私はその食事を「美味しい」と感じているのです…

…この違いは一体何なのでしょうか…
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