第10章 変化・第11章 家族
ふと窓の外を見れば、重い灰色の雲が空に広がり、雪がチラチラと舞う景色が見えた。
私がここへ運ばれてからもう何日になったのだろう?
緘口令の為か、私の元へ訪れる者はごく僅かだった。
軍医のフローレンス、部下のパーニャ、そして私の事情を徴収するためにノイモーント卿も訪れた。
それから…それから…
おかしいな……頭のなかに靄がかかったようだ……。
はっきりと思い出せない。
そういえば…私は先日ハルモニアに会ったあのときも…何故か違和感があった…
一瞬だけ…一瞬だけだが私はハルモニアを思い出せなかった…。
そう考えた瞬間、背筋に冷たい感触が走る。
何故…?
ハルモニアを忘れる筈は無い……
だが……確かに私はハルモニアの顔が……名前が解らなかった……
私は一体どうしてしまったというのだ……?
ハルモニアを思い出せなかったように……私は…もしかしたら……身近な人の記憶を失いかけているというのか………
ふるりと身体を震わせ自分が自分であることを確かめたくて両の腕を掴んだ。
頭がどうにかなりそうだ…。
今の私は本当に私なのか?
この震えは寒さのせいか…?
いや…違う。
自分が自分で無くなるかもしれない恐怖…これまで感じたことのない恐怖で心の中に不安が満ちて身体が震えているんだ…。
震えを鎮めようと更に力を込めて私は耐える。
このまま狂ってしまうわけにはいかない…
もし私が正気を失ってしまったら…敵が容赦なくこの国を滅ぼしに来る…
指導者無き国など赤子の手を捻るも同じ…
純血思想に凝り固まった孤立した最北の国など大義名分を掲げて攻めてしまえば落とすのは容易い…
このまま滅ぶ訳にはいかない…
私は護りたいものを多く抱えた君主なのだから…
不意に扉を叩く音がコンコンと響く。
返事をするよりも早く医務室へと入ってきたのは……
白いドレスを纏った優しそうな表情を浮かべた一人の女だった。
…知らない…?
…本当に…?
「姉さん、具合はどう?」
「……ああ…悪くは…ない。」
「そう、よかった!」
そう言って女は軽く笑みを浮かべつつ部屋にあった椅子を引き寄せ、腰を降ろす。
特に言葉を交わすことなくお互い視線を交わすこともなく…なんとも言えない静寂が医務室に漂う。
「……ひとつ……聞きたい……」
「ん?なあに?姉さん?」
沈黙に耐えかねて口を開く。
ゆっくりと顔を上げれば、こちらへ視線を向ける女性の青い瞳。
どうしても…初めて会う人間に思えない…。
この瞳を私は知っている………知っている……。
初対面なんかじゃ……ない……
「……ハル……モニア……」
いつの間にか身体の震えは収まり、心も安定を取り戻している。
名前を口にしたとたん、頭のなかに広がっていた靄が霧散して消えて行く。
その瞬間これまでの空気が嘘のように私はハルモニアの存在を受け入れ初めていた。
「ハルモニア……ああ……ハルモニア……すまなかった……自分でもどうかしているとわかっているんだ……どうしても……どうしてもお前の名前が出てこなかったんだ……」
「……」
私の言葉にハルモニアはただ静かに耳を傾けて真っ直ぐにこちらに視線を向けていた。
「……ハルモニア……すまない……お前を忘れるなどと……私は本当にどうかしている……」
今の私にはお前しかいない……お前を忘れるなどとそのようなこと……あってはならないんだ……。
私がここへ運ばれてからもう何日になったのだろう?
緘口令の為か、私の元へ訪れる者はごく僅かだった。
軍医のフローレンス、部下のパーニャ、そして私の事情を徴収するためにノイモーント卿も訪れた。
それから…それから…
おかしいな……頭のなかに靄がかかったようだ……。
はっきりと思い出せない。
そういえば…私は先日ハルモニアに会ったあのときも…何故か違和感があった…
一瞬だけ…一瞬だけだが私はハルモニアを思い出せなかった…。
そう考えた瞬間、背筋に冷たい感触が走る。
何故…?
ハルモニアを忘れる筈は無い……
だが……確かに私はハルモニアの顔が……名前が解らなかった……
私は一体どうしてしまったというのだ……?
ハルモニアを思い出せなかったように……私は…もしかしたら……身近な人の記憶を失いかけているというのか………
ふるりと身体を震わせ自分が自分であることを確かめたくて両の腕を掴んだ。
頭がどうにかなりそうだ…。
今の私は本当に私なのか?
この震えは寒さのせいか…?
いや…違う。
自分が自分で無くなるかもしれない恐怖…これまで感じたことのない恐怖で心の中に不安が満ちて身体が震えているんだ…。
震えを鎮めようと更に力を込めて私は耐える。
このまま狂ってしまうわけにはいかない…
もし私が正気を失ってしまったら…敵が容赦なくこの国を滅ぼしに来る…
指導者無き国など赤子の手を捻るも同じ…
純血思想に凝り固まった孤立した最北の国など大義名分を掲げて攻めてしまえば落とすのは容易い…
このまま滅ぶ訳にはいかない…
私は護りたいものを多く抱えた君主なのだから…
不意に扉を叩く音がコンコンと響く。
返事をするよりも早く医務室へと入ってきたのは……
白いドレスを纏った優しそうな表情を浮かべた一人の女だった。
…知らない…?
…本当に…?
「姉さん、具合はどう?」
「……ああ…悪くは…ない。」
「そう、よかった!」
そう言って女は軽く笑みを浮かべつつ部屋にあった椅子を引き寄せ、腰を降ろす。
特に言葉を交わすことなくお互い視線を交わすこともなく…なんとも言えない静寂が医務室に漂う。
「……ひとつ……聞きたい……」
「ん?なあに?姉さん?」
沈黙に耐えかねて口を開く。
ゆっくりと顔を上げれば、こちらへ視線を向ける女性の青い瞳。
どうしても…初めて会う人間に思えない…。
この瞳を私は知っている………知っている……。
初対面なんかじゃ……ない……
「……ハル……モニア……」
いつの間にか身体の震えは収まり、心も安定を取り戻している。
名前を口にしたとたん、頭のなかに広がっていた靄が霧散して消えて行く。
その瞬間これまでの空気が嘘のように私はハルモニアの存在を受け入れ初めていた。
「ハルモニア……ああ……ハルモニア……すまなかった……自分でもどうかしているとわかっているんだ……どうしても……どうしてもお前の名前が出てこなかったんだ……」
「……」
私の言葉にハルモニアはただ静かに耳を傾けて真っ直ぐにこちらに視線を向けていた。
「……ハルモニア……すまない……お前を忘れるなどと……私は本当にどうかしている……」
今の私にはお前しかいない……お前を忘れるなどとそのようなこと……あってはならないんだ……。
