第8節 ブルボン学園(現パロ)
もうすぐクリスマスだ。
これまでクリスマスに女の子とデートするなどという機会に恵まれた事のない俺だったが、今年は違う。
今年こそは家でテレビを見たりゲームをしながらただただ時間を浪費するだけのクリスマスにするわけには行かない。
デートスポットを調べあげてきっと彼女に喜んで貰えるような1日にしよう。
……と思ったのだが、これまで彼女などできた事のない俺が女の子の喜ぶような気のきいた事ができるのかと言われたらそううまくはいかないもので……。
情報を集めれば集めるほど解らなくなってしまって……
彼女が……千歳が喜ぶデートスポットはどこだろう……
どんなことをしてあげたら彼女は喜んでくれるだろうか……?
ここで悩んでいても答えは出ないと思い、気分転換に散歩にでも行こうかと部屋を出た。
すると……通路の向こう側から久しく見なかった人物の姿が見えた。
「よお!久賀!お前彼女できたんだって?」
「あっ……兄上、一体どこでその話を伺ったのですか?」
結婚して家を出た筈の兄の姿がそこにあった。
何故?どうして家にいない筈の兄にそんな話が伝わっているのだろう……?
突然の事に動揺してしまい耳まで熱を帯びた俺の脳裏に一つの答えが浮かんできた。
『彼女ができた。』そんな事を話すのは一人しかいない……
「……っ!母上かぁっ……!!」
「よく解ったな。その通りだ。」
ニヤニヤと面白いものを見たとでも言いたげに笑う兄上の視線。
「他人事だと思って…兄上だってお見合いのときに母上のとんでもない決断に振り回されたんじゃないですか……」
「まあな。だがそれはそれ。これはこれだ。
こんな面白い話を逃すわけがないだろう?」
「ぐぬぬ……」
「どうせお前の事だから。クリスマスにデートしたいけど行き先が決まらないだの、プレゼントも決まらないだのそんな事で頭を悩ませてるんだろう?」
「くっ……!」
当たっている……図星を突かれて言葉もでない……!
「当たりだろ?」
「恥ずかしながらその通りです……」
「思春期男子の思考なんざお見通しよ。その様子だとキスもまだだろ?」
「……!?きっ……キスだなんてそんな……!!!!!」
全身の毛が逆立つのを感じた。
今の俺は相当面白い顔を浮かべているらしい。
目の前の兄がくつくつと喉を鳴らして笑っている。
「キスなどとっ……!!清く正しい学生生活を送る高校男子がそう簡単に経験できる訳がないだろう……!?」
思春期男子になんという酷なことを聞いているのですか!?兄上……!!
「だろうと思った。ほら、これをやるよ。」
そう言って目の前にヒラヒラと差し出してきたのは遊園地のチケットで……。
「あっ……兄上……!これは…!」
「それ持って彼女誘ってこい。
あとは気のきいたプレゼントでも用意しとくんだな。
それぐらいは自分で用意しろよ?」
散々からかってこういう事をするんだから……本当に読めない人だ……
「あっ……ありがとう……ございます……兄う……」
「あっ。キスぐらいはしてこいよ?」
「余計なお世話ですっっ!!!!!」
ファンシーショップなんて……高校生の男子が足を運ぶような店ではないよな。
初めて来てみたけれど……どうにも場違いな気がして居心地が悪い……
品揃えも女の子が好きそうな可愛い色の小物だとかアクセサリーだとかぬいぐるみだとか……
ここに立つだけでも恥ずかしいと思うのは何故なのだろうか……?
(早くプレゼントを選んで帰ろう……そうしよう。)
周囲の視線なんかほとんど無い筈なのに変に意識してしまっているせいか居心地が悪い。
……が、彼女に贈るプレゼントだけはきちんと選ばなくては……
ふと、目に留まった月を象った金のネックレス。
あれはどうだろう……?と手を伸ばしたその時だった。
「久賀さん……?」
背後から誰かに声をかけられて、ビクリと身体が震えた。伸ばした手を引っ込めながら勢いよく声のした方へと視線を向けた。
そこにあったのは、控えめに俺の方へと手を伸ばした千歳の姿だった。
「千歳……?」
「あの……このお店に入る姿をたまたま見つけてしまって……お邪魔……でしたか……?」
「いや!!!!!そんなことはない!!!!!
君に会えて嬉しいよ千歳…!
俺も、君に話したい事があったし……その……すぐに会計してくるから、待っててくれるかい……?」
「あっ……はい!では、お店の入り口のところで待ってますね?」
そう言って去っていった彼女の姿を見送ってから、俺は急いでネックレスと可愛いマスコットを手にとって会計を済ませた。
可愛いラッピングを施してもらって千歳から見えないようにすぐにバッグにしまいこんだ。
「待たせてごめん、その……ここでは話しにくいから少し開けた場所に行こうか。」
俺の言葉に千歳は素直に頷いて店をあとにした。
千歳の手を引いてやって来たのは美しく飾り立てられた大きなクリスマスツリーが見える駅前の広場だ。
千歳とはあの件から一緒に行動するようになったが……デートに誘うのはこれが初めてだ。
いつものように振る舞えず「今日はどうしたんですか?」などと千歳に顔を覗きこまれる始末だ……なんとも情けない。
「もしかして、具合が悪いんですか?顔が凄く赤いですよ?」
「ああ……大丈夫だ、心配をかけて済まない千歳……」
言ってしまうか。言えばきっと今よりは楽になれる。
意を決して呼吸を整える。
千歳と向かい合うようにしてぽつりぽつりと言葉を口にする。
「千歳……その……兄上から遊園地のチケットをもらったんだ。
君さえよければなんだが……クリスマスに……俺とデートして貰えるだろうか……?」
千歳の目の前にチケットを差し出して彼女の返事を待っていた。
緊張で他にいい言葉が浮かんでこない。
行き交う人々の視線など気にもせず俺は目の前に立つ君の姿だけを見つめていた。
