第8節 ブルボン学園(現パロ)

 その少女は、食い入るように画面を見つめていた。はやる気持ちをおさえるように、ゆっくりと画面をタップしていく。その動作を何度か繰り返し――大きくため息をついた。


「あぁああまた爆死! これが最後の課金だったのに!」
「結局爆死だったのー?」
「爆死だった……! でもこのイベントのこの推し、すごくいいんだよ! こうなったら親に土下座して……」
「そう言って先月も許してもらってたでしょ? 今月はさすがに許してもらえないと思うよー?」
「……だよな。わかってる、わかってるけどもっかいだけひきたい……」


 がっくりと肩を落とした少女――ユマを見て、隣でタピオカを飲みながら見守っていたレモンは、けらけらと笑ったのだった。

 曰く、キャラがとてもかっこよくストーリーもとてもよく、声優陣も豪華でイベントも素敵な――、そんなアプリに、ユマははまっているらしい。ゲームをちょこちょこやることはあってもそこまでスマホに依存していないレモンにとってはなかなかわかりづらい感覚ではあるが、ユマはそのアプリに“推し”を見つけ、推しが出てくるたびに課金をしている。
 
何にそこまで課金をしているか尋ねれば、定期的に行われるイベントで推しがあたるガチャがあるらしく、そこで推しを獲得するためにアプリをインストールしている人々が、悪戦苦闘、しているらしい。

 SSRだからとても出にくいだの、こういう時に限ってピックアップ外のSSRが出るだの、レモンにとってしたらよくわからない言葉を言いつつ、ユマはポケットにスマホをしまう。とりあえずは諦めたらしい。


「あーあー……、物欲センサーが反応しすぎている……」
「ぶつよくせんさー?」


 またよくわからない言葉が出てきた、ずず、と音をたてて飲みきったレモンは、呪文のようにつぶやく背中を、ぽんと叩いた。そして、きょとんとして見上げてきたユマへと、にっこりと笑う。


「シックストゥエルブで新作のアイスが出たんだって。今回は特別におごってあげるから、一緒に食べようよ」
「新作!? 食べる! 前回奢ってもらったから今回はあたしがおごるよ」
「なけなしのお金、使ったんじゃないの? 大丈夫?」
「んー……それ言われると、まあ……。けど、何回もおごってもらうほど金欠じゃないし、奢ってもらっといてなにも返さないのは失礼だろ。だからおごるよ」

「……わかった! じゃあ、お言葉に甘えて!」


 にっこり笑ったレモンを見て、ユマもつられて笑う。近くのゴミ箱に容器を捨てに行ったレモンを見守りながら、新作アイスを食べたあとはどこに行こうか、と考える。久々にゲームセンターに行ってもいいかもしれないし、ウィンドウショッピングも楽しそうだ。レモンとやりたいこと、やってみたいことがたくさんある。


「なあレモン! アイス食べたあとなんだけどさ――、」


 友人との楽しい時間は、まだ始まったばかりだ。
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