第4節 海開き
――私のブラが流れてしまって、海に入るのは早々に断念しなくてはならなくなった。この日のためにせっかく買ったのにもったいないし、初めての海をアナムともっと楽しみたかったのに……。
残念な気持ちでいっぱいになりながら、アナムに抱かれて翼で体を隠して、抱きかかえてもらう。一瞬ですごく距離が近くなって視界は愛する人でいっぱいになった。
あれ、このアングル……? 見たことが、ある、ような。
「っ……!」
――そうだ……。アナムと過ごす夜は、アナムの腕の中でほとんどの時を過ごしているんじゃ、なかったか。思いいたってしまえば、それしか意識できなくて。ぶわりと熱が上がったような気がする。
それはアナムにも伝わったのか、足を止めてちょっと視線を下げて私の様子をうかがってきた。
心の底から心配していることがわかる表情が、とても――とても、かっこよくて。どきどきが、止まらない。
「おい、どうしたんだエテル?」
「――う、ううん。何でもないよ!」
「顔赤いけど、本当に何でもないのか?」
「本当! 元気だから大丈夫!」
やっぱり顔まで真っ赤になってる! さっきまで全く意識してなかったし、このまま意識しないでいたかったよ……。それに、胸をしっかりとアナムに押しつけている状態になっている。アナムが隠してくれているからありがたいんだけど、胸……。
胸を押しつけてるだけじゃなくて他にもいろいろアナムに我慢させていることを全く私はわからずに。かろうじて顔には出さなかったけど、内心大パニックに陥っていたのだった。
沖へと流れていったブラは、結局見つかることはなかった。結局海には入れなくなってしまったので、着替えて冷たいものを食べることにする。今日はいつもの法衣じゃなくてショートパンツと半袖、という夏を意識した格好をしてきたからあとで足くらいは入れるかな、なんて思いながら海の家へと向かう。もちろん、アナムと手をつないで。
「何が食べたい?」
「うーん、かき氷食べてみたいなあ。アナムは?」
「俺もかき氷にするかな……味は?」
「うーん、いちご!」
「わかった。……レモンといちご、ひとつずつ頼む」
「あいよ! 毎度あり!」
レモンといちごのかき氷を持って、ビーチパラソルがささっている椅子に座る。座ったアナムにレモンを渡して、いちごのかき氷を自分の前に置いた。練乳をかけてもらって、赤と白の組み合わせがとてもきれいだ。
ぱくりと一口ふくむと、ふわりと甘さが広がる。いちごのさわやかさと練乳の甘さが合って、とてもおいしい。
このおいしさはアナムにも味わってほしい……!
「ねえ、アナム! いちごのかき氷おいしいよー!」
「そうか、よかったな」
「うん! はい、アナム。あーん」
「……は、?」
気の抜けた声とともに、アナムが固まる。んー、変なこと、した? ただかき氷食べてほしかっただけなんだけど……。
「アナム、かき氷とけちゃうよ。はい、かき氷。あーん?」
「あ、ああ」
目を白黒させつつも、アナムはぱくりといちごのかき氷を食べた。ゆっくりと味わうように口を動かして、ごくりと飲み込む。どうかな、おいしいと思ってくれるかな……?
「――エテルのいうとおり、うまいな。ほら、レモンを食べてみるか?」
「えっ」
「ほら、――あーん?」
差し出されたレモンのかき氷を前に、思わずかき氷食べていた手が止まる。ほら、って差し出されたかき氷と、いたずらっぽく輝いているアナムの目と。
アナムが固まった理由が、なんとなくわかったような気がした。これ恥ずかしい……かもしれない。
「あーん、ん、……おいしい、ね。レモン」
「そうだろ?」
口の中はかき氷の冷たさで満たされているのに、体が、頬が熱い。レモン味を食べているのに、全然味がわからなかった。
「どうした、顔が真っ赤だぞ」
「な、なんでもない……! なんでもないよ!」
絶対にわかっててやってるよね……! ちょっとびっくりしてたから、よしって思ったのにな。やっぱりアナムに勝てるようになるにはまだまだ早い……。
いまだ身体から引かない熱は、決して夏の暑さのせいだけじゃない。けれど、決して嫌なものでは、なかった。
かき氷を食べ終えてからは波打ち際で遊んだり、ビーチパラソルの下でのんびりとお昼寝したり……初めてのことをたくさんした。途中で砂浜に足を取られて転んで、たまたまそばにあった貝のかけらで足を切ったり、お昼寝から目が覚めたらアナムにぎゅうぎゅうに抱き込まれていてドキドキしたりしたけど……彼と過ごす一日はとても楽しかった。
夕陽がゆっくりとしずんでいく。橙色に染められた海はきらきらと輝いてとても綺麗だ。知識で得ていたのと、実際に見るのではこんなにも違う。しかもそれを、アナムと――愛する人と一緒に見られたから、私は本当に幸せ者だ。
「夜からは花火があがるんだって! 私、花火ほとんど見たことないから、楽しみー!」
「……最後まで、見ていくか」
花火が見えるところを陣取りして、夜になるのをゆっくりと待つ。橙からゆっくりと藍色に染まっていく空を見るのはとても楽しい。
「ねえ、アナム。海の季節が終わっても、たくさんいろいろなところに行こうね」
「……ああ」
アナムと一緒なら、きっとどこでも楽しいと思うから。
優しく目を細めて笑った彼の肩にそっと寄りかかりながら、花火までのつかの間の時間を幸せな気持ちで過ごした。
残念な気持ちでいっぱいになりながら、アナムに抱かれて翼で体を隠して、抱きかかえてもらう。一瞬ですごく距離が近くなって視界は愛する人でいっぱいになった。
あれ、このアングル……? 見たことが、ある、ような。
「っ……!」
――そうだ……。アナムと過ごす夜は、アナムの腕の中でほとんどの時を過ごしているんじゃ、なかったか。思いいたってしまえば、それしか意識できなくて。ぶわりと熱が上がったような気がする。
それはアナムにも伝わったのか、足を止めてちょっと視線を下げて私の様子をうかがってきた。
心の底から心配していることがわかる表情が、とても――とても、かっこよくて。どきどきが、止まらない。
「おい、どうしたんだエテル?」
「――う、ううん。何でもないよ!」
「顔赤いけど、本当に何でもないのか?」
「本当! 元気だから大丈夫!」
やっぱり顔まで真っ赤になってる! さっきまで全く意識してなかったし、このまま意識しないでいたかったよ……。それに、胸をしっかりとアナムに押しつけている状態になっている。アナムが隠してくれているからありがたいんだけど、胸……。
胸を押しつけてるだけじゃなくて他にもいろいろアナムに我慢させていることを全く私はわからずに。かろうじて顔には出さなかったけど、内心大パニックに陥っていたのだった。
沖へと流れていったブラは、結局見つかることはなかった。結局海には入れなくなってしまったので、着替えて冷たいものを食べることにする。今日はいつもの法衣じゃなくてショートパンツと半袖、という夏を意識した格好をしてきたからあとで足くらいは入れるかな、なんて思いながら海の家へと向かう。もちろん、アナムと手をつないで。
「何が食べたい?」
「うーん、かき氷食べてみたいなあ。アナムは?」
「俺もかき氷にするかな……味は?」
「うーん、いちご!」
「わかった。……レモンといちご、ひとつずつ頼む」
「あいよ! 毎度あり!」
レモンといちごのかき氷を持って、ビーチパラソルがささっている椅子に座る。座ったアナムにレモンを渡して、いちごのかき氷を自分の前に置いた。練乳をかけてもらって、赤と白の組み合わせがとてもきれいだ。
ぱくりと一口ふくむと、ふわりと甘さが広がる。いちごのさわやかさと練乳の甘さが合って、とてもおいしい。
このおいしさはアナムにも味わってほしい……!
「ねえ、アナム! いちごのかき氷おいしいよー!」
「そうか、よかったな」
「うん! はい、アナム。あーん」
「……は、?」
気の抜けた声とともに、アナムが固まる。んー、変なこと、した? ただかき氷食べてほしかっただけなんだけど……。
「アナム、かき氷とけちゃうよ。はい、かき氷。あーん?」
「あ、ああ」
目を白黒させつつも、アナムはぱくりといちごのかき氷を食べた。ゆっくりと味わうように口を動かして、ごくりと飲み込む。どうかな、おいしいと思ってくれるかな……?
「――エテルのいうとおり、うまいな。ほら、レモンを食べてみるか?」
「えっ」
「ほら、――あーん?」
差し出されたレモンのかき氷を前に、思わずかき氷食べていた手が止まる。ほら、って差し出されたかき氷と、いたずらっぽく輝いているアナムの目と。
アナムが固まった理由が、なんとなくわかったような気がした。これ恥ずかしい……かもしれない。
「あーん、ん、……おいしい、ね。レモン」
「そうだろ?」
口の中はかき氷の冷たさで満たされているのに、体が、頬が熱い。レモン味を食べているのに、全然味がわからなかった。
「どうした、顔が真っ赤だぞ」
「な、なんでもない……! なんでもないよ!」
絶対にわかっててやってるよね……! ちょっとびっくりしてたから、よしって思ったのにな。やっぱりアナムに勝てるようになるにはまだまだ早い……。
いまだ身体から引かない熱は、決して夏の暑さのせいだけじゃない。けれど、決して嫌なものでは、なかった。
かき氷を食べ終えてからは波打ち際で遊んだり、ビーチパラソルの下でのんびりとお昼寝したり……初めてのことをたくさんした。途中で砂浜に足を取られて転んで、たまたまそばにあった貝のかけらで足を切ったり、お昼寝から目が覚めたらアナムにぎゅうぎゅうに抱き込まれていてドキドキしたりしたけど……彼と過ごす一日はとても楽しかった。
夕陽がゆっくりとしずんでいく。橙色に染められた海はきらきらと輝いてとても綺麗だ。知識で得ていたのと、実際に見るのではこんなにも違う。しかもそれを、アナムと――愛する人と一緒に見られたから、私は本当に幸せ者だ。
「夜からは花火があがるんだって! 私、花火ほとんど見たことないから、楽しみー!」
「……最後まで、見ていくか」
花火が見えるところを陣取りして、夜になるのをゆっくりと待つ。橙からゆっくりと藍色に染まっていく空を見るのはとても楽しい。
「ねえ、アナム。海の季節が終わっても、たくさんいろいろなところに行こうね」
「……ああ」
アナムと一緒なら、きっとどこでも楽しいと思うから。
優しく目を細めて笑った彼の肩にそっと寄りかかりながら、花火までのつかの間の時間を幸せな気持ちで過ごした。
