第4節 海開き
Ton
「王子様、王子様!見て、この間海へ行ったときの貝殻をピアノに添えてみたの!」
朝。日課ともいえるピアノの演奏をしていると、部屋に王子様が入ってきた。海へ行ったとき、体調がよくなさそうだったから帰ってきてからすぐにベッドへ寝かせてたの。今は顔色も落ち着いてるみたい。よかった。
そんな王子様の腕をぐいぐいと引っ張って、ピアノの前へ連れていく。鍵盤の端にある小さなスペースに、王子様と同じ色の貝殻を見せる。ここに置いていると、まるでいつも王子様がそこにいてくれるような気がしたから。
「あ……ごめんね、王子様。寝てたのにまたピアノで起こしちゃったよね?」
「平気だ、布団の中で起きていた」
「そっか、それならよかった!じゃあ、そんな王子様に一曲弾いちゃうね~」
目を擦る王子様を横目に、椅子へ座り直した。鍵盤に指がそっと触れる。音のひとつひとつが曲となり、奏でられる。ノイはこのしゅんかんがたまらなく好き。王子様が美しいと言ってくれたこの音が、曲が、全てが大好き!
「ノイ。……その、あの日はすまなかった。あんたより俺が先にダメになってしまって」
曲が終わり、王子様の顔を覗き見る。申し訳なさそうな表情をする王子様と、王子様が開いた口からこぼす言葉に、ノイは横に首を振った。
「王子様は、ノイの体調を思ってくれてストールを羽織らせてくれたもの。王子様はいつもノイに気を遣ってくれる、優しい人。だけど、王子様が倒れちゃうのは……悲しい」
ノイと同じで、王子様も体調がよくない人。病気は違っても、つらい気持ちはわかるの。わかるからこそ、無理をしてほしくない。
椅子から立ち上がったノイは、王子様の手を自身の両手に包み込んで、目を見た。ノイはいつ死んじゃうかわからない、だから助けてほしいと思ってた。理想の王子様はノイの目の前に現れてくれた。だけど王子様は、ノイを助けるばかりで自分の管理がちょっと苦手な人だった。
「つらいときは、ノイに言ってほしいの。王子様がノイにしてくれるように、ノイも王子様の為に何かしたい」
「……そう、か。じゃあ、ピアノを弾いてくれ。あんたのピアノを聴いていると、元気が出てくるからな」
「本当?王子様、本当にノイのピアノで元気になるの?」
「ああ」
頷く王子様に、ノイは嬉しくなった。ノイがピアノを演奏すれば、王子様は元気になってくれる!それならノイは、いくらでも王子様の為にピアノを弾くわ!ずっと、ずっと……!
「えへへ……じゃあ、二曲目いっちゃおうかな!」
静かな空間の中、藍の貝殻が朝日に照らされて、輝いた。
「王子様、お願いがあるんだけどね」
小さな演奏会が終わり、ノイは静かに口を開いた。どうしても、どうしても王子様とやりたいことがあった。ピアノの練習でも演奏でもなくて、二人で何かの形を残したいと思っていたから。
「二人のタイムカプセルを作りたいの」
「……はぁ」
何だそれ、とばかりの目が向けられる。あれ、知らないのかな、タイムカプセル?
「ノイはね、もしかしたら寿命なんて超えちゃって何年も生きられるかもしれないし、明日には息をしてないかもしれないんだ。だからノイが今日を生きているうちに……ノイが生きてた『証』を遺しておきたいなって、思ったから」
寿命なんて、超えられる。王子様はそう言ってくれるけど、発病した頃と比べると体力が落ちてきてるのも事実だし、弱くなったと感じる。もしもノイがいなくなっても、ちゃんとノイがここにいたという証明が欲しい。だから、タイムカプセルを作ろうって考えたの。
「ノイは、王子様の中で永遠に生き続けていたい。忘れないで、ノイのこと。ピアノしか取り柄がないけれど、それを美しいと言ってくれたあなたに、ノイを覚えててほしい。……忘れないで」
助けてほしいけれど、お医者さんでも助けられない。だけど王子様と一緒にいられるときは、本当に苦しくないから。自分が病気を持っているということを忘れられるから。
王子様に覚えててもらえるだけで、ノイは幸せ。だから二人の記録を遺すの。ノイと王子様の……誰にも邪魔をされない、二人だけの記録。
「王子様、王子様!見て、この間海へ行ったときの貝殻をピアノに添えてみたの!」
朝。日課ともいえるピアノの演奏をしていると、部屋に王子様が入ってきた。海へ行ったとき、体調がよくなさそうだったから帰ってきてからすぐにベッドへ寝かせてたの。今は顔色も落ち着いてるみたい。よかった。
そんな王子様の腕をぐいぐいと引っ張って、ピアノの前へ連れていく。鍵盤の端にある小さなスペースに、王子様と同じ色の貝殻を見せる。ここに置いていると、まるでいつも王子様がそこにいてくれるような気がしたから。
「あ……ごめんね、王子様。寝てたのにまたピアノで起こしちゃったよね?」
「平気だ、布団の中で起きていた」
「そっか、それならよかった!じゃあ、そんな王子様に一曲弾いちゃうね~」
目を擦る王子様を横目に、椅子へ座り直した。鍵盤に指がそっと触れる。音のひとつひとつが曲となり、奏でられる。ノイはこのしゅんかんがたまらなく好き。王子様が美しいと言ってくれたこの音が、曲が、全てが大好き!
「ノイ。……その、あの日はすまなかった。あんたより俺が先にダメになってしまって」
曲が終わり、王子様の顔を覗き見る。申し訳なさそうな表情をする王子様と、王子様が開いた口からこぼす言葉に、ノイは横に首を振った。
「王子様は、ノイの体調を思ってくれてストールを羽織らせてくれたもの。王子様はいつもノイに気を遣ってくれる、優しい人。だけど、王子様が倒れちゃうのは……悲しい」
ノイと同じで、王子様も体調がよくない人。病気は違っても、つらい気持ちはわかるの。わかるからこそ、無理をしてほしくない。
椅子から立ち上がったノイは、王子様の手を自身の両手に包み込んで、目を見た。ノイはいつ死んじゃうかわからない、だから助けてほしいと思ってた。理想の王子様はノイの目の前に現れてくれた。だけど王子様は、ノイを助けるばかりで自分の管理がちょっと苦手な人だった。
「つらいときは、ノイに言ってほしいの。王子様がノイにしてくれるように、ノイも王子様の為に何かしたい」
「……そう、か。じゃあ、ピアノを弾いてくれ。あんたのピアノを聴いていると、元気が出てくるからな」
「本当?王子様、本当にノイのピアノで元気になるの?」
「ああ」
頷く王子様に、ノイは嬉しくなった。ノイがピアノを演奏すれば、王子様は元気になってくれる!それならノイは、いくらでも王子様の為にピアノを弾くわ!ずっと、ずっと……!
「えへへ……じゃあ、二曲目いっちゃおうかな!」
静かな空間の中、藍の貝殻が朝日に照らされて、輝いた。
「王子様、お願いがあるんだけどね」
小さな演奏会が終わり、ノイは静かに口を開いた。どうしても、どうしても王子様とやりたいことがあった。ピアノの練習でも演奏でもなくて、二人で何かの形を残したいと思っていたから。
「二人のタイムカプセルを作りたいの」
「……はぁ」
何だそれ、とばかりの目が向けられる。あれ、知らないのかな、タイムカプセル?
「ノイはね、もしかしたら寿命なんて超えちゃって何年も生きられるかもしれないし、明日には息をしてないかもしれないんだ。だからノイが今日を生きているうちに……ノイが生きてた『証』を遺しておきたいなって、思ったから」
寿命なんて、超えられる。王子様はそう言ってくれるけど、発病した頃と比べると体力が落ちてきてるのも事実だし、弱くなったと感じる。もしもノイがいなくなっても、ちゃんとノイがここにいたという証明が欲しい。だから、タイムカプセルを作ろうって考えたの。
「ノイは、王子様の中で永遠に生き続けていたい。忘れないで、ノイのこと。ピアノしか取り柄がないけれど、それを美しいと言ってくれたあなたに、ノイを覚えててほしい。……忘れないで」
助けてほしいけれど、お医者さんでも助けられない。だけど王子様と一緒にいられるときは、本当に苦しくないから。自分が病気を持っているということを忘れられるから。
王子様に覚えててもらえるだけで、ノイは幸せ。だから二人の記録を遺すの。ノイと王子様の……誰にも邪魔をされない、二人だけの記録。
