第4節 海開き

Visite d'une tombe
「うわぁ……!綺麗な場所だね!」
外へ出るのは久しぶり。薔薇の花が綺麗に咲いたこの季節、花束を抱えたサンソンと一緒に来た場所は、広い丘だった。
今日は雲ひとつないいい天気。絶好のお出かけ日和なの!こんな陽気な日は美味しいものを食べながら色んな場所を巡ってみたいな、そうサンソンに伝えたら、「後で行きましょう」と言われたので、先に目的の場所に来たの。柔らかな風が吹いて、とても心地がいい。
「お嬢様に気に入っていただけて、何よりです」
にこりと笑うサンソンに、セティは首を縦に振った。だけどここには何があるんだろう?見たところ、綺麗な場所ではあるんだけど何もないの。セティが疑問を覚える一方で、サンソンが足を進めて更に丘を上っていく。どうやらまだ終点ではないみたい。
慌ててサンソンを追いかけると、ひとつの石があった。サンソンはその石の前に、ずっと大切に持っていた花束を置く。花束はここに置く為だったんだ……だけどこの石は?
「ここは、アメリアのお墓です」
「……アメリアの、おはか」
小さく頷くサンソンは、石の前に膝をついてしゃがみ、手を合わせ静かに目を瞑った。風が吹く、柔らかな風が。草が揺れる音だけが、ここには響いていた。
「そっか、アメリアがここで眠ってるんだね」
セティもサンソンの真似をして、しゃがんで手を合わせた。目を瞑って、アメリアのことを思った。こんなにも景色が見渡せる場所で、アメリアは一人ぼっちだったんだね。
「……久しぶりだね、アメリア」
手を合わせ終わって、改めてセティはその石を撫でた。話したいことがいっぱいあったんだ。返事ができないことは知ってるけど、お話がしたいの、あなたと。
「サンソンからお話を聞いたの。セティがいたからアメリアは死んじゃったんだよね、ごめんね」
謝ることをアメリアは望んでいないかもしれない、だけどセティがこうして生きているのはアメリアのおかげだと思うの。ごめんね。
「だけど、ありがとう。サンソンがおうちに来てくれてから、毎日が楽しいの。アメリアといた時も楽しかったんだけど、セティは今の生活が大好き。だから、ありがとう」
石を撫でるのをやめて、正面から向き合う。本当に死んでしまっているということを、はじめて、目で見た。
「……話したいこと、いっぱい、いっぱいあったの。だけど不思議だね、いざ目の前にすると……何も出てこないや」
笑ってるかな、アメリア。また今度ゆっくり話しましょうって言ってくれてるかな。
もちろんなんだけど、石はぴくりとも動かない。本当に、本当に……アメリアは生きていない。目の前にいるのに、いない。不思議、不思議。
「ご……めん……なさい……次から、泣かない……泣かないから……今だけ……許して……お母様……ぁ……っ」
石に触れて、抱きしめて、泣きじゃくった。大声をあげて、ただただ泣いた。悲しかった。サンソンに偉そうなこと言っちゃったけど、やっぱり死んでしまったことはつらかった。
涙が枯れるまで、どのくらいの時間が経ったんだろう。サンソンは何も言わず、アメリアも何も言わず、時が流れていくばかりだった。





「ありがとう、サンソン。アメリアと会わせてくれて」
「いえ。アメリアもきっと喜んでいますよ」
お別れの挨拶をして丘を下りながら、セティは改めてサンソンにお礼を言った。嬉しかったの、アメリアに会えたこと。あと、サンソンがアメリアのことを本当に思ってくれていたのがわかったことも。
「サンソン、サンソン……知ってるかもしれないけど……セティにはね、二人のお母様がいたの」
サンソンが全てを話してくれたように、セティも全てを話そうと思った。これからも一緒に過ごす人だから、伝えたかった。ずっと隠していたのは、セティも同じだから。
「アメリアとお母様は姉妹で、セティはアメリアのお腹から産まれたの。お父様と、メイドさんと、みんなで仲良くしてたんだけど、ある日お母様がおうちに来て、みんなをいじめはじめた」
思い出すことは、怖い。だけどここにはあの人がいない。だから話せる、もしいたとしても、サンソンがいるから平気。
「そのお母様は、アメリアを母として見ず私を母と言えって。だからセティは、アメリアのことをお母様と呼べなくなったの。だけどセティの本当のお母様はアメリアなんだよ」
「……ええ、アメリアから娘の話だと聞いております。彼女は詳しく話してはくれませんでしたが」
「そっか。……新しく来たお母様がセティもいじめてたから、アメリアはセティを守りたかったんだろうと思うの」
サンソンには言ってなかったんだけど、アメリアがサンソンによって処刑されたとわかってから、セティがアメリアを殺したんじゃないかって不安になっていた。今となってはどうすることもできないけど、もし……セティが存在していなかったら、アメリアは今も生きてるんじゃないかって考えるようになっちゃって。
「サンソン。あのね、もしもセティがいなかったら、きっとアメリアも死ぬことはなかったんだ。きっとみんな幸せだった。だけどセティは今を生きてて、アメリアは今いないの」
自分で考えてもわからなかった、疑問。今を生きることを決めたけれど、そもそもセティはこの世界にいるべき人ではないんじゃないかって。もちろん、死のうとは考えてないよ。アメリアの遺志はセティが引き継ぐって、決めているから。だけど逃げたくないからこそ、解決しておきたかった。
「セティは、生きててよかったのかな?」
自分の存在意義について、を。
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