第7章 過去・追憶
non tué
首に当てられたナイフが、鈍く、ギラリと輝いていた。
それは、自分の手に握られたもの。補助をするように自分の手をしっかりと握っているサンソン。ナイフの矛先にある彼の首からは、一筋の血が流れていた。
サンソンは話す、自分がアメリアを殺したと。自分は処刑をする人間なんだと。それはつまり、アメリアが何か悪いことをしたということなんだろう。サンソンは教えてくれないけれど、実は何となく……何となく、分かっているの。アメリアが帰ってこなくなったあの日から『お母様』もいなくなったから。
アメリアが罪を犯した、だから正当な方法によって裁かれた、そしてサンソンはアメリアのことを尊敬していた。これが事実であれば、サンソンは……
「サンソン、サンソン。ひとつだけ教えてほしいの。サンソンは……アメリアのことを殺したくなかったんだよね?」
「……もちろん、です」
確証を得た。
瞬間、セティはサンソンの腕に思いきりかじりついた。セティの手を掴む力が弱まったのを感じて、握ったナイフをできるだけ遠くの場所へ放り投げる。改めてサンソンの前に立ち、セティは彼の頬を力の限り叩いた。悲鳴をあげることなく、サンソンはただただ、目を大きく開いてセティのことを見ていた。
「悪いのはアメリア。それが分かったから、セティはこれでようやく前を向けそうだよ」
アメリア、アメリア。これでいいんだよね、セティは自分で決断することを選んだの。決断することは、こんなにも怖いことなんだって知ったの。だけど、後悔はしたくないから……セティは、アメリアが任せたサンソンのことを信じたいの。
罪を背負おうが、アメリアはいい人だった。セティのことをいつも守ってくれて、宝物のように育ててくれた。知ってるよ、アメリアがセティのことを愛してくれていたこと。きっとセティの為なんだよね。
「アメリアは……お母様は、セティの為に死んじゃったんだよね」
涙が止まらなくて、だけどここで言葉を紡ぐことをやめちゃ駄目で。サンソンに伝えなきゃ、その一心で、口を開く。
「……じゃあ、セティは!セティの為に死んじゃったお母様の分まで生きなくちゃならない!この命が尽きるまで、お母様が満足するまで幸せにならなくちゃいけない!お母様がセティのことをどうとも思っていないのであれば、あなたは今ここにいないでしょう!あなたはお母様に頼まれてここへ来たのだから!」
それは、お母様がこの人を許しているという証拠になる。この人にならセティを任せられる、そう思っていたという事実になる。お母様はあるべくして処刑された、だけどサンソンはそれをしたくなかった。その全てがひとつになって、セティを動かしていくの。
「サンソンは言ったよね。セティが望む限り、セティの傍にいてくれるって、言ったよね。じゃあ今サンソンがやろうとしてたことは、何?自分の満足の為にセティに殺されて、ずっと傍にいてくれるなんて嘘をついて、一体どこへ行こうとしてたの!?」
「それは……」
セティは怒ってるんだよ、サンソン。サンソンがお母様を殺したことに対してじゃない……サンソンが勝手に殺されようとしてたことが許せないの。サンソンが言うように、セティには権利があるのかもしれない。それで全てが丸くおさまるのであれば、セティは何も言わない。だけどここであなたが死んでしまっても、お母様は帰ってこないんだよ?
「殺されて逃げることは絶対に許さない、お母様もきっとそれを望んでいない!それなら、お母様を殺した罪を一生背負って生きなさい!あの時の言葉を嘘にせず、セティがいいって言うまでずっとセティのことを見てなさい!」
お母様のことを殺したサンソンのことを憎んでいないかと言われたら、嘘になる。本当に殺したくなかったのなら一緒に逃げたり他の案を出したりできたんじゃないかと考えてしまうのも、事実。セティはその時のことを全く知らないけれど、サンソンがお母様を殺したという事実は、これからもずっと残り続ける。
それでもセティは、サンソンの温かさに触れたから。サンソンの優しさに触れたから。お母様が最期に託した、希望の光。セティはこの人と、これからも生きていくの。この人と、お母様の分まで生きていくよ。
「セティは他の誰でもなくて、サンソンと一緒にいたいの。だから、お母様の分まで一緒に、精一杯生きようよ」
サンソンに近づいて、ぎゅっと抱きしめる。その手は何人もの人を殺め、その背中には何人もの命を背負っている。苦しかったんだよね、つらかったんだよね。セティはサンソンの重荷を軽くすることはできないけれど、ここにはセティがいる。それにお母様もいるから、きっと大丈夫だよ。
「……お腹空いちゃったね、今日はお野菜抜きで美味しいものを作ってほしいな、サンソン」
殺す権利があるのなら、当然ワガママを言う権利もあるでしょう、サンソン?
(セティ)
首に当てられたナイフが、鈍く、ギラリと輝いていた。
それは、自分の手に握られたもの。補助をするように自分の手をしっかりと握っているサンソン。ナイフの矛先にある彼の首からは、一筋の血が流れていた。
サンソンは話す、自分がアメリアを殺したと。自分は処刑をする人間なんだと。それはつまり、アメリアが何か悪いことをしたということなんだろう。サンソンは教えてくれないけれど、実は何となく……何となく、分かっているの。アメリアが帰ってこなくなったあの日から『お母様』もいなくなったから。
アメリアが罪を犯した、だから正当な方法によって裁かれた、そしてサンソンはアメリアのことを尊敬していた。これが事実であれば、サンソンは……
「サンソン、サンソン。ひとつだけ教えてほしいの。サンソンは……アメリアのことを殺したくなかったんだよね?」
「……もちろん、です」
確証を得た。
瞬間、セティはサンソンの腕に思いきりかじりついた。セティの手を掴む力が弱まったのを感じて、握ったナイフをできるだけ遠くの場所へ放り投げる。改めてサンソンの前に立ち、セティは彼の頬を力の限り叩いた。悲鳴をあげることなく、サンソンはただただ、目を大きく開いてセティのことを見ていた。
「悪いのはアメリア。それが分かったから、セティはこれでようやく前を向けそうだよ」
アメリア、アメリア。これでいいんだよね、セティは自分で決断することを選んだの。決断することは、こんなにも怖いことなんだって知ったの。だけど、後悔はしたくないから……セティは、アメリアが任せたサンソンのことを信じたいの。
罪を背負おうが、アメリアはいい人だった。セティのことをいつも守ってくれて、宝物のように育ててくれた。知ってるよ、アメリアがセティのことを愛してくれていたこと。きっとセティの為なんだよね。
「アメリアは……お母様は、セティの為に死んじゃったんだよね」
涙が止まらなくて、だけどここで言葉を紡ぐことをやめちゃ駄目で。サンソンに伝えなきゃ、その一心で、口を開く。
「……じゃあ、セティは!セティの為に死んじゃったお母様の分まで生きなくちゃならない!この命が尽きるまで、お母様が満足するまで幸せにならなくちゃいけない!お母様がセティのことをどうとも思っていないのであれば、あなたは今ここにいないでしょう!あなたはお母様に頼まれてここへ来たのだから!」
それは、お母様がこの人を許しているという証拠になる。この人にならセティを任せられる、そう思っていたという事実になる。お母様はあるべくして処刑された、だけどサンソンはそれをしたくなかった。その全てがひとつになって、セティを動かしていくの。
「サンソンは言ったよね。セティが望む限り、セティの傍にいてくれるって、言ったよね。じゃあ今サンソンがやろうとしてたことは、何?自分の満足の為にセティに殺されて、ずっと傍にいてくれるなんて嘘をついて、一体どこへ行こうとしてたの!?」
「それは……」
セティは怒ってるんだよ、サンソン。サンソンがお母様を殺したことに対してじゃない……サンソンが勝手に殺されようとしてたことが許せないの。サンソンが言うように、セティには権利があるのかもしれない。それで全てが丸くおさまるのであれば、セティは何も言わない。だけどここであなたが死んでしまっても、お母様は帰ってこないんだよ?
「殺されて逃げることは絶対に許さない、お母様もきっとそれを望んでいない!それなら、お母様を殺した罪を一生背負って生きなさい!あの時の言葉を嘘にせず、セティがいいって言うまでずっとセティのことを見てなさい!」
お母様のことを殺したサンソンのことを憎んでいないかと言われたら、嘘になる。本当に殺したくなかったのなら一緒に逃げたり他の案を出したりできたんじゃないかと考えてしまうのも、事実。セティはその時のことを全く知らないけれど、サンソンがお母様を殺したという事実は、これからもずっと残り続ける。
それでもセティは、サンソンの温かさに触れたから。サンソンの優しさに触れたから。お母様が最期に託した、希望の光。セティはこの人と、これからも生きていくの。この人と、お母様の分まで生きていくよ。
「セティは他の誰でもなくて、サンソンと一緒にいたいの。だから、お母様の分まで一緒に、精一杯生きようよ」
サンソンに近づいて、ぎゅっと抱きしめる。その手は何人もの人を殺め、その背中には何人もの命を背負っている。苦しかったんだよね、つらかったんだよね。セティはサンソンの重荷を軽くすることはできないけれど、ここにはセティがいる。それにお母様もいるから、きっと大丈夫だよ。
「……お腹空いちゃったね、今日はお野菜抜きで美味しいものを作ってほしいな、サンソン」
殺す権利があるのなら、当然ワガママを言う権利もあるでしょう、サンソン?
(セティ)
