第7章 過去・追憶

 キョウから伝わってくる体温がとても暖かい。……なんて、ちょっとだけ現実逃避のように考えていた。私はキョウに抱きしめられて、ベッドに倒れこんでいる。いくら思考をそらそうとしても、それが今の状態だ。
 急に抱きしめられて、心臓がどきどきしている。戸惑いからくるものなのかな、と思ったけど……違う。戸惑いからくるものじゃない。じゃあ、どこからきているものなのかは、考えてもわからなかった。

でも嫌じゃないし、むしろずっとこの腕の中にいてもいいくらいかもしれないと思ったけれど……キョウから発せられた願いとかすかに震えている身体が、あたしを引き戻した。

 側にいてほしい、手をつないでいてほしい――。キョウはどんな思いでその言葉を言ったんだろう。あたしの位置からうまくキョウの表情は見えない。でも、さっき言った言葉がキョウの本心なんだと思ってる。そしてあたしは、それに応えたいと思ったんだ。

 キョウにどうやって伝えたらいいかな。今の気持ちを伝えられるような言葉がなかなか見つからなくて、でも伝えたいと思って……あたしは言葉を選んで口を開いた。


「キョウ、力になりたいって言ってくれたこと、すごく嬉しかった。あたしはもう保護者がいなくてひとりで……知り合いがいない。だから、この国でキョウや明けの明星亭のみんなとつながりができて、すごく嬉しかったんだ。あたしは確かに一人じゃないって、そう感じられて」


 一度言葉を切っても、キョウからの返事はない。それでもあたしはそのまま言葉を続けた。


「この国でできたつながりをなくしたくないよ。――あたしは、キョウと手をつないでいたい。それで、一緒に歩きたい」


 それがあたしの出した答えで、本心だ。今後どうなるのかわからないけど、今をキョウと一緒に歩いていきたい。キョウの隣にいたい。

 それが、今あたしが一番したいことだ。

 声に出してしまえば、心にすとんと落ちてきた。ずっとこうしたかったんだと思える。そうして思考の整理を終えて、自分の気持ちをキョウに伝えた後に感じたのは、――羞恥だった。

 よくよく考えたらこの体勢、すごく恥ずかしいものなんじゃ……? そう考えたら途端に顔が真っ赤になった。男性との接触は保護者以外になかったし、同年代とこんなにくっつくなんて一回もなかったよ!?

 内心一人で慌てていると、回されている腕の力が強くなった。耳元でキョウが話し出しそうとしている気配を感じるので、そっちに集中しようと思う。集中しないと心がもたない。


「――ありがとう、レイミア。ボクのそばにいると言ってくれて。この国から出ていくんじゃないかと不安でしたから……」
「……確かにあたしは根無し草だけど、この国の行く先を見てみたいし……何より、キョウたちがいるから」


 少しだけ身体をよじると、抱きしめる力が少しだけ弱くなった。それを利用してキョウへと体を向ける。
 すぐ近くにあるキョウの顔は変わらずに涙にぬれていて、揺れる赤い瞳がとてもきれいだと思った。


「一緒に手をつなごう、キョウ」


 もう一度キョウに伝えて――キョウの顔を見ていられなくて、胸に顔をうずめるようにぎゅっと抱きつく。
 どきどきと胸がうるさい。でも、決して嫌な感情じゃない。もう一度、キョウの抱きしめる力が強くなる。キョウからの言葉はなかったけど、その腕の力強さが答えだと何より思った。
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