第3節 温泉

騎士となれ
懐かしい夢を見ていた気がする。自分の記憶する最も古い記憶だ。
ルミナスと初めて出会った時のものだ、ホワイトと話すようになった、それよりも以前の話。彼女はある日突然じいやが“拾ってきた”子だ。拾ってきたわりに、私とよく似た子だった。ボサボサな金色の髪に似合わない整った顔、丸々とした瞳とは比べものにならないほど痩せ細った腕。不思議だった、このような子がこの世界にいるとは思っていなかったからだ。
彼女ははじめこそ醜い姿だったが、少しずつ身なりも上等なものへと変わっていった。私のことを見る度にこにこと笑顔を向けていた。その容姿はやはり私によく似ていたが、彼女の笑顔は私にないものだった。笑顔を向ける相手もいなかったし、大人達に愛想をを振りまくことにしか用がなかったからだ。
姿、形が似ていても、私と彼女が違うところはいくつかあった。中でも、体のことが衝撃的だったのは今でも鮮明に覚えている。夢はそこからはじまり、そして彼女が私に依存するきっかけが生まれたのだ。
彼女は着替えることを何よりも嫌っていた。理由は先の通り、体。腕から伸びているそれは、まるで侵食しているかのように手の先を蝕み、染めていた。硬い鱗、鋭利な爪……彼女はヒュームの血を持ちながら、竜人の血も宿していた。じいやはそのことに関して、何も教えてはくれなかった。
彼女がとても嫌うその手は、確かに私にはないものだ。彼女は自身の手を嫌い、この手のせいで誰かを傷つけることを恐れていたという。しかしそんな彼女の気持ちとは裏腹、私は俄然彼女に興味が湧いていた。ルミナスは本当にいい子なのだ、それに常に笑っている。血がどうとか、鱗がどうとか、誰かを傷つけるとか、私が全部受け止めてやろうと思った。
「恐れるのであれば、その力……私を守る為に使ってほしい。私の騎士となり、妹となれ、ルミナス」
彼女は酷く喜んだ。じいやもたいへん安堵した表情を見せた。彼女の笑顔が、私は堪らなく好きだった。






「ル、ミ……ナス……」
沈んでいた意識が少しずつ浮上していく。ここは何処だろうか、私は何をしていたのだろうか、思いだそうとすると妙に頭が痛んだ。
……そうだ。確か私は、ルミナスと変わって外へ出ることに成功して、それで、何があった?分からない、少し記憶が混乱しているようだ。
上半身を起こして、頭に手を当て冷静に考える。外の情報が一切入ってこなかった私には、政治も内乱も何一つ結びつけることができない。ならば、現在の状況を知り得ることが一番の策……
「起きましたか?」
「ひゃっ!?」
急に声を掛けられ、情けない声をあげてしまった。その主へと目を向ければ、青を纏う女性が安心したとばかりの表情を私に見せていた。見たことがない、誰だ、この人は?
「良かった、ずっと気を失っていたので……痛いところはありませんか?」
「……平気だ。それよりも今はいつで、ここが何処なのか……何があったのか、知っていることを洗いざらしに話してほしい」
頭痛ばかりは平気ではなかったが、この頭には働いてもらわなければならない。状況把握という仕事だ。彼女から紡がれる言葉のひとつひとつを、精一杯受け止めていこう。



「何がなんだか、分からない」
「私も詳しくは分かりません、お役に立てなくてごめんなさい」
「大丈夫だ」
結論から言うと、そういうことだ。しかし彼女……ノルンが知る大まかな内容のひとつひとつが、何とも受け入れ難いものばかりというか、自分なりに整頓こそしてみるものの、この状況は……
「私は、無力だったということか」
飛び出してきたものの、結局それらは私の力が及ばないことを理解した。政治も内乱も、関係ない。もっと単純で、今の私が足手まといだということだ。
「今はここで待機しているように言われております。どうか無理をなさらず、安静に」
「安静に、か」
生憎、よく寝たから体力は有り余っている。ここしばらくの引きこもり生活にも飽きていた。だから外に出たいと思って、ルミナスにああさせてまででも飛び出してきた。今の私は“巻き込まれている”。ならば、打破する方法を見つけねばなるまい。
近くにあった弓を手に取る。これを使うことは極力したくはないと思っていたが、護身用として持ってきたのは正解のようだ。
「まさかとは思いますが、追いかけるというのですか?」
「そのまさか、だ。普段は専属の騎士に護衛を任せているが、こいつは暇な時にずっと練習していたからな。腕は落ちていない」
また足手まといになるか?また己が無力だと嘆くか?例えそうなったとしても、私は進むしかできない。ここへ流れ着くまでに、ルミナスに背中を押してもらったのだ。それを無為にはしたくない。
「……ふふ、分かりました。では、向かいましょうか」
「止めないのか?」
「一人は危険です。あなたがここにいるのであればここに今すぐし、行くのであれば私も行きますよ」
「……助かる」
ここでやられてしまってはルミナスに何も言えはしまい。何としてでも乗り越えてみせよう。
私自身が、騎士となり進むのだ。






(ルマンド)
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