第3節 温泉
体は一つでも多くの部分があり、体の全ての部分は多くあっても一つの体であるように。御子の場合も同じです。
私達はユダヤ人であれギリシア人であれ、奴隷であれ自由な身分のものであれ、洗礼を受けてみな一つの霊によって一つの体に組み込まれて、また、みな一つの霊を飲ませていただいたのです。
確かに体は一つの部分ではなくて、多くの部分から成り立っています。たとえ足が「自分は手ではないから体に属していない」と言ったとしても、それで体に属さないという事ではありません。また、たとえ耳が「自分は目ではないから体に属していない」と言ったとしても、それで体に属さないという事ではありません。
もし、体全体が目であったら、どこで聞くのでしょうか?もし、体全体が耳であったならどこで匂いを嗅ぐのでしょうか?
ですから、神はお望みのままに、体一つ一つの部分を備えて下さったのです。もし、全部が一つの部分であったら、体はどこにあるのでしょうか?
ところが実際、部分は沢山あっても体は一つなのです。目が手に向って「お前はいらない」とは言えず、あるいはまた、頭が足に向って「お前達はいらない」とも言えません。それどころか体のうちで他よりも弱いと見える部分が、むしろずっと必要なのです。
また、私達は体の他よりも見栄がしないと思われる部分を覆って、より一層見栄がするようにします。また、不体裁なものはもっと体裁よくします。神は劣っている部分をより一層見栄良くし、調和よく体を組み立てて下さったのです。
体のうちに分裂がなく、かえって各部分が分け隔てなく互いに心し合うようにして下さったのです。
それでもし体の一つの部分が苦しめば、全ての部分と共に苦しみ、もし一つの部分が褒め称えられれば全ての部分もともに喜びます。
【コリントの人々への第一の手紙 第12章】
「き~らめ~くすてきな~とうだいた~い~きょ~は~おんせんけいびなの~」
「分かったわかった。だからミラは泳がないであと三十肩まで浸かって数数えろ」
「ミラベル~ばしゃばしゃしないでよ~目に入るよ~……」
「お姉ちゃん、お兄ちゃん?三十って十がいくつ?」
ザブリ、ザバリ、と乳白色の湯面が激しく揺れ動く。ばしゃばしゃ、とどこで覚えて来たのか短い手足を器用に使い上手に犬かきを披露するミラの体を空いている方の腕を伸ばし捕まえて、ファロやリュオと同じ様に自分の膝の上へ座らせた。
……いつもとは違って広い風呂に入っているから泳ぎたくなる気持ちも分からなくはねえが……個室とは言え公共の場所だしな、ここ。あまり好き勝手させるわけにもいかねえし、何よりリュオの顔にばかり湯しぶきを飛ばすのは流石に勘弁してもらいてえんだが……あれか?リュオの顔ばかり当たるのは位置的な何かか?
「むー……捕まった~とーさんの意地悪~……!」
「意地悪はミラベルの方だよぅ……う~……お湯が目に入った……」
「擦るな擦るな。ほら、父さんが顔拭いてやっから」
「おんせんあったかいね~牛乳みたいな色してるんだね~」
「ふふっ……そう言えばファロはこういう温泉ははじめてかしら?」
ゆらり……と、湖面に風紋が刻まれる時の様に湯が静かに波打つ。ふう……と繊細な息を吐き出し穏やかに語るあいつの姿に何をするでもなく当然の様に瞳が緩く弧を描いた。
ヒュームより大きいとはいえファティマは竜族の中じゃ特に小柄な部類だ。こうして一緒に風呂に入っていても威圧感はない。勿論それは体格じゃなくファティマ自身の性格故なんだがな。
「うん。不思議だね。このお湯牛乳色だしファティマの色とも似てる。おうちと全然違うや」
「そうね。ここのお湯はおうちのものとは違って色々な体にいい成分が溶けているから。だからおうちのお風呂のお湯は透明だけれどここのお湯は白い色をしているのよ、ファロ。」
「ファテイマふぁてぃま~じゃあじゃあ、お湯に浮かんでいるこのふわふわしたものは何かしら!?メレンゲ!?」
「ふふっ……それはね湯の花、って言うのよ。ミラ」
「お花!?これお花なのね!?」
「ミラベルが考えてる花とは違うと思うけどなあ……」
小さな紅葉の様な手を合わせて小さなお椀を作り湯を掬ってファテイマに差し出すミラの瞳が好奇心からだろうか、キラリと輝く。違うんじゃないとぼやくリュオとそんな二人をぼんやり見ているファロ。そして、三人のガキ達を交互に写して笑う様に瞳を細めるファテイマを見ていると、やっぱり五人でここに来て良かったと、そう思うんだ。心の底からよ。俺達は家族……だからな。
「とーさん~三十はもう入ったわよね?!じゃあ、上がってもいい!?……うん、よし!にーさん、ファロ!上がるわよ!今度はわたしが二人の髪を洗うんだから!」
「え~……さっき父さんに俺もミラもファロも洗ってもらったよぉ……」
「とーさんは洗ったけどわたしはまだ二人を洗ってないわ!ほら!二人ともあ~が~っ~て~!」
「父さん……」
「そんな顔すんなリュオ。……ミラがああなったら止まらねえのはお前もよく知ってるだろ?……後で父さんが髪の毛乾かしてやっから。それ終ったらみんなで牛乳だ。……腹括って行って来い」
三人の小さな体を囲う様に巻いていた腕を解けば、一番にすっ飛んでいったのは案の定ミラだった。俺の足を踏み台にして次から次へと上がって行く子供達の重さに足が瞬間沈み込む。地味に痛い。が、同時に感慨深くもあった。三人を抱えてる時も思ったが……大きくなったな、三人とも。
「今日は三人とも一段と賑やかねえ。はしゃいでいるのかしら」
「……おう。まあ、年がら年中台風の中にいる様なもんだけどな。ミラがやらかさねえかちと心配だが……ここからなら洗い場も見えるしな。リュオの奴もいる事だし見ていれば問題ねえだろう」
「……ありがとう、ゲッツ」
「どうしたんだ?藪から棒に……」
「私の為でもあるんでしょう?今日ここに来たの。おうちのお風呂じゃ私はお湯の中には入れないから」
「……俺達は家族だろ。家族ってのは体みてえなもんだ。それぞれ違う部分なのに一つでも欠けちまったら他もガタが来ちまう。家族が家族の事を考えるのは当然じゃねえか」
静かに、いつもそうしているようにファティマの喉元を撫でればいつもとは違う湯の匂いがふわり、と鼻を擽った。……やっぱり湯の花がファティマの毛に絡んでるな……後で普通のお湯で洗い流してやらねえと……
「くすぐったいわ、ゲッツ」
「あっ……す、すまねえ」
「いいのよ。くすぐったいけど不快じゃないもの」
「ファテイマ……その……なんだ……」
俺の方こそ……ありがとう。
そう紡ぐはずだった。続くはずだった。どこかから聞えて来た馬鹿でかい音に邪魔されなきゃな!!
「なに!?なに!?何の音!?事件の音ね!」
「お、おい!ミラ、勝手に行くなッ!クソッ!やっぱり聞いちゃいねえ!!ファティマ、ここでリュオとファロの二人を見ててもらっていいか!?」
「今の音……大浴場の方から聞えて来たみたい。爆発音とは違うみたいだから大丈夫だとは思うけれど……分かったわ。二人は私が見ているからゲッツはミラベルをお願いね」
腰にタオルをきつく巻き付けて湯から慌てて上がりミラの後を追う。ったく!ミラのあの性格誰に似たんだ!?……俺か!?……俺だ。
「はあ……ギルドの連中何やらかしたってんだ……とにかく今はミラの奴を回収しねえと……」
≪ゲッツ・フォーゲル≫
私達はユダヤ人であれギリシア人であれ、奴隷であれ自由な身分のものであれ、洗礼を受けてみな一つの霊によって一つの体に組み込まれて、また、みな一つの霊を飲ませていただいたのです。
確かに体は一つの部分ではなくて、多くの部分から成り立っています。たとえ足が「自分は手ではないから体に属していない」と言ったとしても、それで体に属さないという事ではありません。また、たとえ耳が「自分は目ではないから体に属していない」と言ったとしても、それで体に属さないという事ではありません。
もし、体全体が目であったら、どこで聞くのでしょうか?もし、体全体が耳であったならどこで匂いを嗅ぐのでしょうか?
ですから、神はお望みのままに、体一つ一つの部分を備えて下さったのです。もし、全部が一つの部分であったら、体はどこにあるのでしょうか?
ところが実際、部分は沢山あっても体は一つなのです。目が手に向って「お前はいらない」とは言えず、あるいはまた、頭が足に向って「お前達はいらない」とも言えません。それどころか体のうちで他よりも弱いと見える部分が、むしろずっと必要なのです。
また、私達は体の他よりも見栄がしないと思われる部分を覆って、より一層見栄がするようにします。また、不体裁なものはもっと体裁よくします。神は劣っている部分をより一層見栄良くし、調和よく体を組み立てて下さったのです。
体のうちに分裂がなく、かえって各部分が分け隔てなく互いに心し合うようにして下さったのです。
それでもし体の一つの部分が苦しめば、全ての部分と共に苦しみ、もし一つの部分が褒め称えられれば全ての部分もともに喜びます。
【コリントの人々への第一の手紙 第12章】
「き~らめ~くすてきな~とうだいた~い~きょ~は~おんせんけいびなの~」
「分かったわかった。だからミラは泳がないであと三十肩まで浸かって数数えろ」
「ミラベル~ばしゃばしゃしないでよ~目に入るよ~……」
「お姉ちゃん、お兄ちゃん?三十って十がいくつ?」
ザブリ、ザバリ、と乳白色の湯面が激しく揺れ動く。ばしゃばしゃ、とどこで覚えて来たのか短い手足を器用に使い上手に犬かきを披露するミラの体を空いている方の腕を伸ばし捕まえて、ファロやリュオと同じ様に自分の膝の上へ座らせた。
……いつもとは違って広い風呂に入っているから泳ぎたくなる気持ちも分からなくはねえが……個室とは言え公共の場所だしな、ここ。あまり好き勝手させるわけにもいかねえし、何よりリュオの顔にばかり湯しぶきを飛ばすのは流石に勘弁してもらいてえんだが……あれか?リュオの顔ばかり当たるのは位置的な何かか?
「むー……捕まった~とーさんの意地悪~……!」
「意地悪はミラベルの方だよぅ……う~……お湯が目に入った……」
「擦るな擦るな。ほら、父さんが顔拭いてやっから」
「おんせんあったかいね~牛乳みたいな色してるんだね~」
「ふふっ……そう言えばファロはこういう温泉ははじめてかしら?」
ゆらり……と、湖面に風紋が刻まれる時の様に湯が静かに波打つ。ふう……と繊細な息を吐き出し穏やかに語るあいつの姿に何をするでもなく当然の様に瞳が緩く弧を描いた。
ヒュームより大きいとはいえファティマは竜族の中じゃ特に小柄な部類だ。こうして一緒に風呂に入っていても威圧感はない。勿論それは体格じゃなくファティマ自身の性格故なんだがな。
「うん。不思議だね。このお湯牛乳色だしファティマの色とも似てる。おうちと全然違うや」
「そうね。ここのお湯はおうちのものとは違って色々な体にいい成分が溶けているから。だからおうちのお風呂のお湯は透明だけれどここのお湯は白い色をしているのよ、ファロ。」
「ファテイマふぁてぃま~じゃあじゃあ、お湯に浮かんでいるこのふわふわしたものは何かしら!?メレンゲ!?」
「ふふっ……それはね湯の花、って言うのよ。ミラ」
「お花!?これお花なのね!?」
「ミラベルが考えてる花とは違うと思うけどなあ……」
小さな紅葉の様な手を合わせて小さなお椀を作り湯を掬ってファテイマに差し出すミラの瞳が好奇心からだろうか、キラリと輝く。違うんじゃないとぼやくリュオとそんな二人をぼんやり見ているファロ。そして、三人のガキ達を交互に写して笑う様に瞳を細めるファテイマを見ていると、やっぱり五人でここに来て良かったと、そう思うんだ。心の底からよ。俺達は家族……だからな。
「とーさん~三十はもう入ったわよね?!じゃあ、上がってもいい!?……うん、よし!にーさん、ファロ!上がるわよ!今度はわたしが二人の髪を洗うんだから!」
「え~……さっき父さんに俺もミラもファロも洗ってもらったよぉ……」
「とーさんは洗ったけどわたしはまだ二人を洗ってないわ!ほら!二人ともあ~が~っ~て~!」
「父さん……」
「そんな顔すんなリュオ。……ミラがああなったら止まらねえのはお前もよく知ってるだろ?……後で父さんが髪の毛乾かしてやっから。それ終ったらみんなで牛乳だ。……腹括って行って来い」
三人の小さな体を囲う様に巻いていた腕を解けば、一番にすっ飛んでいったのは案の定ミラだった。俺の足を踏み台にして次から次へと上がって行く子供達の重さに足が瞬間沈み込む。地味に痛い。が、同時に感慨深くもあった。三人を抱えてる時も思ったが……大きくなったな、三人とも。
「今日は三人とも一段と賑やかねえ。はしゃいでいるのかしら」
「……おう。まあ、年がら年中台風の中にいる様なもんだけどな。ミラがやらかさねえかちと心配だが……ここからなら洗い場も見えるしな。リュオの奴もいる事だし見ていれば問題ねえだろう」
「……ありがとう、ゲッツ」
「どうしたんだ?藪から棒に……」
「私の為でもあるんでしょう?今日ここに来たの。おうちのお風呂じゃ私はお湯の中には入れないから」
「……俺達は家族だろ。家族ってのは体みてえなもんだ。それぞれ違う部分なのに一つでも欠けちまったら他もガタが来ちまう。家族が家族の事を考えるのは当然じゃねえか」
静かに、いつもそうしているようにファティマの喉元を撫でればいつもとは違う湯の匂いがふわり、と鼻を擽った。……やっぱり湯の花がファティマの毛に絡んでるな……後で普通のお湯で洗い流してやらねえと……
「くすぐったいわ、ゲッツ」
「あっ……す、すまねえ」
「いいのよ。くすぐったいけど不快じゃないもの」
「ファテイマ……その……なんだ……」
俺の方こそ……ありがとう。
そう紡ぐはずだった。続くはずだった。どこかから聞えて来た馬鹿でかい音に邪魔されなきゃな!!
「なに!?なに!?何の音!?事件の音ね!」
「お、おい!ミラ、勝手に行くなッ!クソッ!やっぱり聞いちゃいねえ!!ファティマ、ここでリュオとファロの二人を見ててもらっていいか!?」
「今の音……大浴場の方から聞えて来たみたい。爆発音とは違うみたいだから大丈夫だとは思うけれど……分かったわ。二人は私が見ているからゲッツはミラベルをお願いね」
腰にタオルをきつく巻き付けて湯から慌てて上がりミラの後を追う。ったく!ミラのあの性格誰に似たんだ!?……俺か!?……俺だ。
「はあ……ギルドの連中何やらかしたってんだ……とにかく今はミラの奴を回収しねえと……」
≪ゲッツ・フォーゲル≫
