第6章 日常

祈りを込めて錬金術釜を掻き回す。



ゆっくりゆっくり掻き回す度に釜の中で輝く魔力の渦は淡く青く輝く。





祈りを込めながら私は釜を回し続ける。




―この先に待つ戦いの中、愛するあの人を護ってくれますように―




やがて光が凝縮され、一つの指輪に姿を変える。


鈍く青く光る魔法の金属と白く美しく輝く水晶をはめ込んだ指輪。


確かな魔力を感じるそれを手にして、小さな小箱に仕舞い込んだ。



完成したことに安堵した為か、一気に疲れを感じて私は部屋の隅にある作業机に腰かけてそのまま眠ってしまった。





††††††††††††††††


沈んだはずの眠りは徐々に浅い眠りに変わり、思わず寝返りを打つ。


右手を顔の真横に落としたその感触に、私は違和感を感じてうっすらと瞼を開いた。

柔らかいシーツの感触。

私は確かに工房の作業机に伏せて眠っていた筈なのに。


そこまで考えて徐々に思考がはっきりしてきた。


こんなことをできるのは今このアトリエには一人しかいない。




「セデルにお礼を言わなくては…」


そう思い、ベッドから這い出し、乱れた髪を整えて部屋を出る。


そのまま二階へと足を運び、部屋の前で足を止め、コンコンと二回扉を軽く叩く。




「セデル、もう起きていますか?少し話があるのですが…」



声をかけてみるが、返事がない。

それどころか、部屋からは物音ひとつしないし、人の気配も全く感じない。


不安を感じて思わずドアノブに手をかける。



「セデル?」


ゆっくり扉を開きながら部屋を覗いてみる。

もしかしたらまだ眠っているのかもしれないと思いながらベッドの方へと視線を向けるが、そこには誰もいなかった。



ここでふと昨夜の彼との会話を思い出し、不安が過る。



―…この国の民として生まれた以上、私は祖国を捨てる事は出来ない…―



「まさか…戻ったの…?
まだ混乱の続く国に…たった二人で…?」



(追いかけないと…たった二人であの国に戻るなんて無茶だわ…)



二人を追おうと思わず駆け出すが、あることを思い出して足が止まる。



(そう言えば…ルマンドさんは…?

確か彼女の事はアトリエに保護させて欲しいと言っていたはず…)



確認するためにアトリエの二階へ向かう。
そっと扉を開けて部屋を確認すると、そこには身を起こしたばかりのルマンドさんの姿があった。

そっと声をかけてみると、彼女は驚き小さな悲鳴に似た声をあげてこちらに視線を向けた。

驚かせてしまっただろうか…?

見ず知らずの人間に突然声をかけられたのだから、驚くのも無理はない。

できるだけ刺激しないよう落ち着いて彼女と会話を交わす。



どうやら怪我もなく良好な状態であるようだ。

何が起きているのか状況を把握したいと言われ、私は私の知り得る情報を全て彼女に伝えた。

私の言葉に彼女は静かに耳を傾ける。

全て話終わった後も彼女は複雑な表情を浮かべていた。


「私は、無力だったということか」


ポツリと呟かれた彼女の言葉。
その言葉に私はどう返すべきだろうか…
暫く思考を巡らせ、今答えられる言葉をゆっくりと口にする。


「あの…ルマンドさん…私はあなたの事情の全てを理解している訳ではありませんが、そんなに思い詰めないで、今できることをしましょう?」


彼女は何も言わず、静かに私を見つめる。


「今はここで待機しているように言われております。どうか無理をなさらず、安静に」


「安静に、か」


彼女はそう呟くと、ベッドのすぐ側に立て掛けていた弓へと視線を移す。

そして迷わずそれを手にする。
その様子に私は彼女もまた戦っているのだと瞬時に理解する。


追いたい…彼女の目がそう訴えている。


止める理由は無いと私は判断した。


(ごめんなさい、セデル。
きっとあなたは怒るかもしれない…

でも私はルマンドさんの意思も尊重したい…

それに私自身も戦いに向かう貴方をただ待つ事なんて…)


「行きましょうルマンドさん、今ならまだ間に合うかもしれません。」


†††††††††††††



アトリエに備えてある破魔の矢を用意し、それをルマンドさんに手渡す。


万が一に備え、私も銀の弓と破魔の矢を手に取る。

常備してある薬袋を腰に下げ、愛用の銀の杖を手にしてアトリエを出ようと歩を進める。


(あっ…そうだ…カボちゃんにしばらく留守にする事を伝えなくては…)


簡潔に手紙を書き記し、それをテーブルの上にカボチャと共に置いておく。

これで彼女に伝わるだろう。



他にやるべき事はないだろうかとふと工房の作業机に視線を移せば、昨夜の小箱が目に留まった。



(あれも渡さなくては…)


小箱を手に取り腰に下げた薬袋に忍ばせ、改めてアトリエの扉に手をかけた。


「お待たせしました、ルマンドさん。
さあ、二人を追いかけましょうか。」
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