第1節 あべこべちぐはぐ

五旬祭が来て、みなが一つに集まっていた。

その時、突然、下から激しい風が吹いてくるような音が起こり、彼らが座っていた家全体に響き渡り、炎の様な舌が分かれ分かれに現れ、一人ひとりの上に留まった。

すると、みなは聖霊に満たされ、霊が語らせるままに、他国の様々な言葉で語り始めた。

人々はみな驚き、惑い、互いに「いったい、これはどうしたことだ」と言い合った。

しかし、「あの連中は新しい葡萄酒に酔っているのだ」と言って嘲笑う者もいた。


【使徒言行録 第2章】






「アレクお兄ちゃん!そっち行った!」


「おう、任せろ!うわっ!!」


「今のあんた小さくなってるんだからいつもの調子で突っ込んでいったら大人に吹っ飛ばされるに決まってんじゃん!ってかさあ!!!」


頭の上すれすれを何かが薙ぎ払う。いつもと大きさが違う体を慌てて屈ませて、そのまま振り向きざまに声を飛ばした。

刹那、音が響く。小さく縮んだお兄ちゃんが吹き飛び尻もちをついた音とお姉ちゃんの叫び声だ。


「なぁああんで!さっきからこんなに襲われなきゃなんないのよ!三歩歩くごとに賞金稼ぎに首狙われてんじゃん!!」


「いやぁ~みなさん日ごろの行いがよろしいようで」


「うるせー!どー考えてもおっさん!!あんたのせいだろうが!!さっきからあいつらキルシュ!キルシュ!ってあんたの名前呼んで襲い掛かってくるし!んぁああああ!!もう!!」


お姉ちゃんの叫び声が響いたさて、今日何回目でしょ~か?そして姉ちゃんは頭を両手で激しく掻いた後、ポケットからあるものを取り出して大きく振りかぶり……!!


「投げたぁあああああ!!大きく振りかぶって賞金稼ぎに向かい投げました!解説員のアレクお兄ちゃん、どうでしょうか?今の投球は?」


「いやあ、実に素晴らしい投球ですね。腕の力だけでなく体全体のバネを使った実に美しい投球フォームです。そして、デッドボォオオオオオオルッ!!!賞金稼ぎ4号選手起き上がることが出来ません!!」


「だぁあああああからぁあああああ!!後ろに5号と6号と、ついでに7号と8号順番待ちしてるって!!あんたらも律儀に一人一人順番待ちしてんじゃないよ!!!」


「きっと礼儀正しい賞金稼ぎなんでしょうね~」


「だからあんたのせいだって言ってんだろ!このチビッ!!!」


「違うよ~お姉ちゃん。その人はちっちゃいおじちゃんだよ~」


「おい、悪化してるぞ」


もくもくと漂う煙と共に後ろから聞こえてくるそんな小言をパタパタと手で仰いで散らしていく。パタパタし終えた後、そこでは爆発の煙を至近距離で浴びたであろう賞金稼ぎが大の字で引っくり返って鼻提灯を出しながら眠りこけていた。しかも両方から。……両方から鼻提灯出して息苦しくないのかな?


「新作のジャック君・改なのだ!ノルンさんのところで新作爆弾作ってみたんだけどどうかな?どうかな?」


「……体が大人になっても性格はそのままなんだな。まあ、俺も性格はそのままだけど」


「ああああ!もう!あの時間にあの通りを歩かなきゃよかった!ほら!一気に5から8まで片付けるからカボちゃんが持ってる爆弾全部ちょうだい!!」


「はーーーーい!」


三者三様の声が荒野に響く。連続した爆発音が大気を揺らしていた。煙の柱が立ち上り、そして風になびいて散らばって霧の只中の様に周りを包んでいた。うん!やっぱり爆発は、こう!ドッカン!って派手にやらなきゃ!!


「……で?その錬金術師のアトリエに行けばカボちゃんやアレクの姿が戻るわけ?」


「うん。ノルンさんが言うには魔法薬があれば何とかなるかもしれないって」


ノルンさんから貰った地図を広げながら四人で連れ立って畦道を往く。街の道路の様にちゃんと舗装された道じゃないけれどしっかり踏み固められた土の道は、この先に誰かの住まいがあることを確かに告げていた。


「……なに、カボちゃん?」


「ん?あのねーさっきから考えてたんだけどお姉ちゃんもあの時、アトリエディアーの近くにいたんだよね?」


「そうだけど……って、だからなんでさっきからそんなにじろじろ見るわけ?」


いつもは見上げているお姉ちゃんは今日は見下ろすあたしにお姉ちゃんは少し上ずった声でそう言葉を紡いだ。次の瞬間、小さいおじちゃんが漏らした「平たい胸族ですか」という言葉にお姉ちゃんの目が吊り上がった。


「!!冗談はそこまでだ!……カボちゃん。確かその錬金術師のアトリエはゴーレムが守ってるんだよな?」


「そだよー。ノルンさんがそう言ってた~。って事は、この子がそのゴーレムちゃんだね~。魔力で動いてるみたい」


「んな悠長なこと言ってる場合じゃないでしょ!!とっとと解毒剤貰って帰るんだからね!」

天から激しい風が吹く。炎の様に踊る風は二股にわかれた蛇の舌の様に分かれて地上に降り立ち荒れ地の草を薙ぎ払っていった。お?ボス戦感ある?






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「なんで……」


「良かったね~アレクお兄ちゃん、お姉ちゃん。無事に戻れたよ~」


「ゴーレムの勤務時間って9時5時だったんだな。ホワイト企業かよ。優良企業かよ」


一番星が西の空低くに三日月と共にぽかりと浮かんでいる。徐々に朱色から紫へ色を変えていく空の方向へあたしとアレクお兄ちゃん、お姉ちゃんと三人一緒に歩いていた。勿論、三人のおうちに帰る為に。

ちなみにちっちゃいおじちゃんは「犬の散歩がありますので!クッ!いつもと時間がずれてしまいました!!」って言葉を残してさっさと帰っていった。


「『いつまでも続く魔法なんてありませんよ』って錬金術師さん言ってたよ~だから時間で解除されたんだね~。お薬なくても戻ったし」


「まあ、そうかもなあ。なんだって移り変わるもんだし。時代も、季節も、空も止まっちゃいない。いつまでも同じままで続かない」


「そーいう事なのだ!あー……お腹すいた~!ねえ、アレクお兄ちゃん、ノルンさんに報告したらおうちに帰ってごはん~!あたしかぼちゃグラタンがいい」


「あっ、あたしニシンのパイ」


「わーかった、わーかった」


二人の真ん中で両手に二人の手を取って帰路を急ぐ。いつか大人にならなくちゃいけないし、大人の自分に会う日がまた来るけれど……もうちょっとだけこのまま子供でいたいかな。なーんてね。


「カラスが鳴くからか~えろ!」


《カボちゃん》
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