第3章 持たざる者は持てる者
私の名はミルファス・フォン・アローゼ。
今は亡き父に代わり、アローゼ家の当主になった女。
父の爵位を賜り、今は公の場ではアローゼ伯と名乗っている。
何故女の私が家督を継がなければいけなかったのか…
その理由は後継ぎの男子が産まれなかったから…と言うわけではない。
それを語る必要性を今は感じないし、何より…思い出したくもないのだ。
私の心の奥底に眠るドロドロとした感情が、いつか誰かを傷付けるだろうと理解しているから…
家督を継いでまず最初に行った事が、使用人を全員解雇し、新しい使用人を雇うこと。
私を慕ってくれていたメイドの一人が泣きながら解雇しないでくれと懇願してきた。
「ミルファスお嬢様を一人でこのお屋敷に残すなんてできません…!
あのようなことがあったというのに何故貴女は私達を…
お願いいたします!私だけでもお側に置いてください!!」
「すまない…私はお前達には本当に感謝している。
だから…だからこそ危険に晒したくはない。
心配するな、私は一人だって生きていける。
……さようなら。」
「お嬢様!!!」
鉄格子の門が重い音を響かせて私と使用人を隔てた。
†††††††††††
「ミルファス様、本日のご予定についてですが…」
新しい使用人達の中には私を“お嬢様”と呼んでくれる者は一人もいない。
不意にそんな事を考えて、ちくりと胸が痛む。
孤独…そんな言葉が最もしっくりくる今の私。
アローゼ伯の地位と共に私は孤独になったのだ…。
あ の 女 が 来 な け れ ば
「ミルファス様?
どうかなさいましたか?
御気分が優れないのですか?」
「……はっ…!
いや…すまない…何でもない。
少し…昔を思い出していただけだ。」
「そうですか…」
この使用人は私に深く関わろうとはしてこない。
私がそうしてほしいと命じたのだからそれは当たり前のこと。
暫しの沈黙の後、彼は再び手にしていた羊皮紙に視線を戻すと、再び口を開いた。
内容は領地の警備の強化と、付近の村の新たな農地を開拓する計画について。
そして最後にお見合いについての話…
「以上となっております。」
「なあ…すまないが、見合い話は断れないのか?
私は…その…結婚はまだ考えてないのだ。」
「そういう訳には参りません。
貴女様は現在アローゼ家の血を受け継ぐ唯一のお方です。
有力諸侯との縁を頂かなければアローゼ家は貴女の代で絶える事になってしまいます。」
「もういいもういい、ああ…わかっている。
全く…お前は本当に石頭だな。」
「勿体なきお言葉。」
「…今のは褒め言葉ではないぞ。」
†††††††††††
それから数ヶ月が経った頃、とある貴族から贈り物が届いた。
送り主は、私の見合いの候補の貴族だった。
何の知らせもなく突然届いた贈り物に初めは警戒していたが、送り主の名を知った一人のメイドが騒ぎ立て初め、私の意見を聞くより早く贈り物を私の寝室へ運び込んでしまった。
「まあ何て素晴らしい!
ご覧下さいミルファス様!とても美しい鏡台でございますよ!」
確かに…美しい鏡台だ。
深い赤で彩られたその鏡台に思わず目を奪われる。
吸い込まれるように鏡を見つめる私に、メイドは早速使ってみてはいかがですかと言いながら強引に椅子に私を座らせると、ブラシを手に取り私の髪を鋤いた。
この強引なメイドの行動に少々困惑したものの、改めて鏡台を見つめると、だんだんそんな感情は消えて、私は髪を鋤く気持ちよさにそのままうたた寝をしてしまった。
ああ…だめだ
寝てはいけない。
ここで 寝 たら…
いつ… 私も 命を 奪われ る か…
意識が深く暗い闇に沈む。
そこから先の事は覚えていない。
私はきっとあの鏡を見つめた時から、囚われていたのかも知れない。
闇に沈みながら私は思う。
本当は幸せになりたかったのだ と。
今は亡き父に代わり、アローゼ家の当主になった女。
父の爵位を賜り、今は公の場ではアローゼ伯と名乗っている。
何故女の私が家督を継がなければいけなかったのか…
その理由は後継ぎの男子が産まれなかったから…と言うわけではない。
それを語る必要性を今は感じないし、何より…思い出したくもないのだ。
私の心の奥底に眠るドロドロとした感情が、いつか誰かを傷付けるだろうと理解しているから…
家督を継いでまず最初に行った事が、使用人を全員解雇し、新しい使用人を雇うこと。
私を慕ってくれていたメイドの一人が泣きながら解雇しないでくれと懇願してきた。
「ミルファスお嬢様を一人でこのお屋敷に残すなんてできません…!
あのようなことがあったというのに何故貴女は私達を…
お願いいたします!私だけでもお側に置いてください!!」
「すまない…私はお前達には本当に感謝している。
だから…だからこそ危険に晒したくはない。
心配するな、私は一人だって生きていける。
……さようなら。」
「お嬢様!!!」
鉄格子の門が重い音を響かせて私と使用人を隔てた。
†††††††††††
「ミルファス様、本日のご予定についてですが…」
新しい使用人達の中には私を“お嬢様”と呼んでくれる者は一人もいない。
不意にそんな事を考えて、ちくりと胸が痛む。
孤独…そんな言葉が最もしっくりくる今の私。
アローゼ伯の地位と共に私は孤独になったのだ…。
あ の 女 が 来 な け れ ば
「ミルファス様?
どうかなさいましたか?
御気分が優れないのですか?」
「……はっ…!
いや…すまない…何でもない。
少し…昔を思い出していただけだ。」
「そうですか…」
この使用人は私に深く関わろうとはしてこない。
私がそうしてほしいと命じたのだからそれは当たり前のこと。
暫しの沈黙の後、彼は再び手にしていた羊皮紙に視線を戻すと、再び口を開いた。
内容は領地の警備の強化と、付近の村の新たな農地を開拓する計画について。
そして最後にお見合いについての話…
「以上となっております。」
「なあ…すまないが、見合い話は断れないのか?
私は…その…結婚はまだ考えてないのだ。」
「そういう訳には参りません。
貴女様は現在アローゼ家の血を受け継ぐ唯一のお方です。
有力諸侯との縁を頂かなければアローゼ家は貴女の代で絶える事になってしまいます。」
「もういいもういい、ああ…わかっている。
全く…お前は本当に石頭だな。」
「勿体なきお言葉。」
「…今のは褒め言葉ではないぞ。」
†††††††††††
それから数ヶ月が経った頃、とある貴族から贈り物が届いた。
送り主は、私の見合いの候補の貴族だった。
何の知らせもなく突然届いた贈り物に初めは警戒していたが、送り主の名を知った一人のメイドが騒ぎ立て初め、私の意見を聞くより早く贈り物を私の寝室へ運び込んでしまった。
「まあ何て素晴らしい!
ご覧下さいミルファス様!とても美しい鏡台でございますよ!」
確かに…美しい鏡台だ。
深い赤で彩られたその鏡台に思わず目を奪われる。
吸い込まれるように鏡を見つめる私に、メイドは早速使ってみてはいかがですかと言いながら強引に椅子に私を座らせると、ブラシを手に取り私の髪を鋤いた。
この強引なメイドの行動に少々困惑したものの、改めて鏡台を見つめると、だんだんそんな感情は消えて、私は髪を鋤く気持ちよさにそのままうたた寝をしてしまった。
ああ…だめだ
寝てはいけない。
ここで 寝 たら…
いつ… 私も 命を 奪われ る か…
意識が深く暗い闇に沈む。
そこから先の事は覚えていない。
私はきっとあの鏡を見つめた時から、囚われていたのかも知れない。
闇に沈みながら私は思う。
本当は幸せになりたかったのだ と。
