第3章 持たざる者は持てる者
シャンシャンシャン…
軽快なリズムで鈴の音が響く。
瓦礫の残る街に響く。
シャンシャンシャンシャン…
広場に集う人々は足を止め、その鈴の音のする方へと視線を向ける。
鈴を鳴らしていたのは一人の踊り子。
風変わりな翼と尾を持った竜の亜人に、人々は興味を惹かれ、自然と踊り子の方へと足を運ぶ。
そして気付けば踊り子を囲うように多くの人が集っていた。
シャンシャンシャンシャン…
踊り子は一人舞う。
歌も音楽も無く、ただ一人。
しかし彼女は集う人々に笑顔を向けながら舞い続けた。
《皆を元気にしてあげたい。》
彼女の舞いと笑顔はそう言っているように思えた。
自然と人々の中から手拍子が起こる。
初めは小さかった手拍子は徐々に大きくなっていく。
シャンシャンシャンシャン…!
何処か淋しそうに聞こえた鈴の音も今は楽しげな音色に聞こえてくる。
†††††††††††
躍りを一通り躍り終えた踊り子、白竜は周囲に集う客に向かって一礼する。
辛い現実を一時でも忘れる事が出来ただろうか?
そう思いながら白竜はゆっくりと顔を上げ目を開く。
観客は皆笑顔でこちらに拍手を贈ってくれていた。
その様子に白竜もまた安堵の表情を浮かべる。
やがて客はそれぞれの日常へと帰っていった。
散り散りに去る客を見送る白竜の視界に一人の男の姿が映った。
(あっ…あの人は…)
広場の片隅に置かれた樽の上に座り込み、こちらに視線を向けながら緑色の豆を食べるその人。
こちらの視線に気づいたのか、やや不満そうな表情を浮かべながら彼は豆を食べる手を止め、立ち上がるとゆっくりとした足取りでこちらへ向かって歩いてきた。
「よお、踊り子さん。
こんなとこで一人で踊ってると、変な輩に誘拐されちまうぜ。」
「す…すみません…」
まただ…
この人はただ親切に言ってくれているだけなのに、怖くて目を合わせられない。
「なあ、あんた…」
カタカタと肩を震わせ俯く私の頭上から彼の低い声色が聞こてきた。
「は…はい!!」
恐怖心から彼の言葉に思わず叫ぶような返事をしてしまった。
もしかして彼を怒らせてしまったのだろうかと不安を抱えつつ彼の瞳に視線を合わせる。
すると彼は私の想像とは異なる言葉を口にした。
「何でこんなとこで一人で踊ってたんだ?」
「えっ…?」
「あんた、旅芸人だろ?
さっきの躍りだって、楽団も無しに踊ってた訳じゃないだろ。
それに…」
そこまで言って一瞬彼が言い淀む。
何かを察したとでも言いたげな表情を浮かべて。
僅かな間を置いた後、彼は静かに言いかけた言葉を口にした。
「あの躍りは一人で踊る為の踊りじゃ無かった…だろ?」
「……何故そう思ったんですか?」
絞り出すような声色で私がそう問えば彼はしっかりと私を見据えたまま答えた。
「あんたの踊り、ずっと見てたんだけどよ…
時々手が出るんだよな。
誰かの手を繋ごうとするような動きでさ。
それに。
なんか淋しそうに見えた。」
そう彼に言われて思わず私は彼に背を向けた。
「そうですか…貴方にはそう見えたんですか…
ごめんなさい…私、笑顔で踊っていたつもりだったんですけど…」
そこまで口にした時、私の目からポロポロと涙が溢れてしまった。
街の人を笑顔にしたい一心で泣かないように努めたつもりだった。
だが、この人の目にそう映ったなら、きっと他のお客さんにも私は仲間を亡くした淋しい踊り子の姿に映ったのかもしれない。
街の人を笑顔にしたい。
その気持ちは偽りでは無かった。
しかし、一方で私は誤魔化したかった。
仲間を失い一人になってしまったという事実を。
「こんなんじゃ…親方に怒られちゃいますね…。」
††††††††
涙が溢れて止まらない。
今まで耐えてきた何かが壊れたのか、私はその場に立ち尽くしたまま泣き続けることしか出来なかった。
そんな私に目の前に立つ彼は無言のまま私の肩を抱き、子供をあやすような手つきでポンポンと頭を撫でた。
予想しなかった彼の行動に私は一瞬泣くのを忘れて彼の顔を見上げた。
すると彼は一言私に告げた。
「ギルドに来い。」
「えっ…?」
「大所帯で野郎だらけで、おまけに壁にボコボコ穴が空いてるが、住み込みで働かせて貰える。
ルーベラさんに頼んで保護してもらいな。
あのボロボロに朽ちた馬車よりは安心して眠れるはずだ。」
そう言って彼は広場の片隅を指差す。
そこにあったのは、あの大虐殺の際に破壊されてしまったキャラバンだ。
行く宛がなく、雨風を凌げるならと私はそこで僅かな布を纏って夜を明かした。
生きる為だったとは言え、そんな日々を過ごした事を彼に知られて恥ずかしくなった私は彼から視線を外して俯いた。
そんな私の心情を察したのか、彼は懐にしまっていた布袋を取りだし、そこから一粒の豆を差し出した。
突然の彼の行動に驚き顔を見上げると、彼はぶっきらぼうに言葉を紡いだ。
「ほら、食え。」
言われるままに私は豆を口にした。
最後に食事をしたのはいつだったか。
口に含んだ豆は一粒だったが、それだけでも何か満たされる気持ちになった。
「生きる為だったんだ、そんなの気にすることねえし、俺だって理解してるつもりだ。
ほら、ギルドに案内してやる。
ルーベラさんにちゃんと挨拶するんだぞ。」
「……はい!!」
私の中ではもう彼に対する恐怖は無く、今出来る精一杯の笑顔を浮かべて答えた。
軽快なリズムで鈴の音が響く。
瓦礫の残る街に響く。
シャンシャンシャンシャン…
広場に集う人々は足を止め、その鈴の音のする方へと視線を向ける。
鈴を鳴らしていたのは一人の踊り子。
風変わりな翼と尾を持った竜の亜人に、人々は興味を惹かれ、自然と踊り子の方へと足を運ぶ。
そして気付けば踊り子を囲うように多くの人が集っていた。
シャンシャンシャンシャン…
踊り子は一人舞う。
歌も音楽も無く、ただ一人。
しかし彼女は集う人々に笑顔を向けながら舞い続けた。
《皆を元気にしてあげたい。》
彼女の舞いと笑顔はそう言っているように思えた。
自然と人々の中から手拍子が起こる。
初めは小さかった手拍子は徐々に大きくなっていく。
シャンシャンシャンシャン…!
何処か淋しそうに聞こえた鈴の音も今は楽しげな音色に聞こえてくる。
†††††††††††
躍りを一通り躍り終えた踊り子、白竜は周囲に集う客に向かって一礼する。
辛い現実を一時でも忘れる事が出来ただろうか?
そう思いながら白竜はゆっくりと顔を上げ目を開く。
観客は皆笑顔でこちらに拍手を贈ってくれていた。
その様子に白竜もまた安堵の表情を浮かべる。
やがて客はそれぞれの日常へと帰っていった。
散り散りに去る客を見送る白竜の視界に一人の男の姿が映った。
(あっ…あの人は…)
広場の片隅に置かれた樽の上に座り込み、こちらに視線を向けながら緑色の豆を食べるその人。
こちらの視線に気づいたのか、やや不満そうな表情を浮かべながら彼は豆を食べる手を止め、立ち上がるとゆっくりとした足取りでこちらへ向かって歩いてきた。
「よお、踊り子さん。
こんなとこで一人で踊ってると、変な輩に誘拐されちまうぜ。」
「す…すみません…」
まただ…
この人はただ親切に言ってくれているだけなのに、怖くて目を合わせられない。
「なあ、あんた…」
カタカタと肩を震わせ俯く私の頭上から彼の低い声色が聞こてきた。
「は…はい!!」
恐怖心から彼の言葉に思わず叫ぶような返事をしてしまった。
もしかして彼を怒らせてしまったのだろうかと不安を抱えつつ彼の瞳に視線を合わせる。
すると彼は私の想像とは異なる言葉を口にした。
「何でこんなとこで一人で踊ってたんだ?」
「えっ…?」
「あんた、旅芸人だろ?
さっきの躍りだって、楽団も無しに踊ってた訳じゃないだろ。
それに…」
そこまで言って一瞬彼が言い淀む。
何かを察したとでも言いたげな表情を浮かべて。
僅かな間を置いた後、彼は静かに言いかけた言葉を口にした。
「あの躍りは一人で踊る為の踊りじゃ無かった…だろ?」
「……何故そう思ったんですか?」
絞り出すような声色で私がそう問えば彼はしっかりと私を見据えたまま答えた。
「あんたの踊り、ずっと見てたんだけどよ…
時々手が出るんだよな。
誰かの手を繋ごうとするような動きでさ。
それに。
なんか淋しそうに見えた。」
そう彼に言われて思わず私は彼に背を向けた。
「そうですか…貴方にはそう見えたんですか…
ごめんなさい…私、笑顔で踊っていたつもりだったんですけど…」
そこまで口にした時、私の目からポロポロと涙が溢れてしまった。
街の人を笑顔にしたい一心で泣かないように努めたつもりだった。
だが、この人の目にそう映ったなら、きっと他のお客さんにも私は仲間を亡くした淋しい踊り子の姿に映ったのかもしれない。
街の人を笑顔にしたい。
その気持ちは偽りでは無かった。
しかし、一方で私は誤魔化したかった。
仲間を失い一人になってしまったという事実を。
「こんなんじゃ…親方に怒られちゃいますね…。」
††††††††
涙が溢れて止まらない。
今まで耐えてきた何かが壊れたのか、私はその場に立ち尽くしたまま泣き続けることしか出来なかった。
そんな私に目の前に立つ彼は無言のまま私の肩を抱き、子供をあやすような手つきでポンポンと頭を撫でた。
予想しなかった彼の行動に私は一瞬泣くのを忘れて彼の顔を見上げた。
すると彼は一言私に告げた。
「ギルドに来い。」
「えっ…?」
「大所帯で野郎だらけで、おまけに壁にボコボコ穴が空いてるが、住み込みで働かせて貰える。
ルーベラさんに頼んで保護してもらいな。
あのボロボロに朽ちた馬車よりは安心して眠れるはずだ。」
そう言って彼は広場の片隅を指差す。
そこにあったのは、あの大虐殺の際に破壊されてしまったキャラバンだ。
行く宛がなく、雨風を凌げるならと私はそこで僅かな布を纏って夜を明かした。
生きる為だったとは言え、そんな日々を過ごした事を彼に知られて恥ずかしくなった私は彼から視線を外して俯いた。
そんな私の心情を察したのか、彼は懐にしまっていた布袋を取りだし、そこから一粒の豆を差し出した。
突然の彼の行動に驚き顔を見上げると、彼はぶっきらぼうに言葉を紡いだ。
「ほら、食え。」
言われるままに私は豆を口にした。
最後に食事をしたのはいつだったか。
口に含んだ豆は一粒だったが、それだけでも何か満たされる気持ちになった。
「生きる為だったんだ、そんなの気にすることねえし、俺だって理解してるつもりだ。
ほら、ギルドに案内してやる。
ルーベラさんにちゃんと挨拶するんだぞ。」
「……はい!!」
私の中ではもう彼に対する恐怖は無く、今出来る精一杯の笑顔を浮かべて答えた。
