第3章 持たざる者は持てる者

「俺も丁度一仕事終えたところだし、今なら街に戻るついでにあんたの事を送って行くこともできるがー……どうする?ああ、無理強いはしねーよ。一人で帰れるって言うなら一人で帰ればいいさ。選ぶのは俺じゃなく、あんただ」



そう言って目の前に立つあの人は迷う私に背を向けて歩き出した。


私は先程の孤児達が去った路地に視線を向け、そこにあの子達が居ない事を確認する。



きっとあの子達には帰る場所があるのだろうと私は自分に言い聞かせ、迷いを払拭した私はあの人を追って駆け出した。






大きな背を見つめながら、私は少しだけ距離を置いて彼と同じ速度で歩く。




会話は無く、足音だけが路地に響く。


その間私は先程の彼の言葉を思い出していた。





『止めときな、嬢ちゃん。キリねえぞ』





『……飢えた子供の前でよく飲み食い出来るな、ってか?なら、目の前にいなきゃ食べていいのかよ?』






確かに私があの子達にしてやれる事など無いに等しい。







その場しのぎのような僅かな食料を与えたとして、あの子達の境遇に何の変化も生みはしないと頭では理解しているつもりだった。



でも、まだ幼いあの子達を私は無視する事ができなかった。




私がするべきだったのは、あの子達の一時の飢えを凌ぐ為の食料を見ず知らずの彼に乞う事では無く、もっと別の事だったのではないか…と。


孤児はあの子達だけではない。

この国にはまだまだ多くの人が餓えと寒さに苦しんでいる。


あの大虐殺で仲間を失った私も勿論例外ではない。





「なあ、どこまで送りゃいいんだ?」



「えっ?」


突然かけられた言葉に驚き私は歩みを止めて彼を見る。


青く鋭い瞳がこちらをじっと見つめている。


背の高さも相まって威圧感を感じ、思わず身体が震えた。




「あ…あの…」



うまく言葉が出てこない。


何か言わなくてはと思ってはいるが、恐怖が思考を鈍らせ言葉が出てこない。



「西の門まで…お願いします。」



ようやく絞り出すように口にした言葉を彼は一つ返事で「解った」と返し、再び無言のまま歩を進めた。







前を歩く姿を見つめながら私は彼に対して申し訳ない気持ちで一杯になった。



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「ほら、着いたぜ。」



連れてこられたのは見知った場所。

仲間と過ごした見知った西門前の広場だった。



「じゃあな。
もうあんな場所には近付くなよ。」



そう言って踵を返す彼に私は思わず叫んだ。



「あの…!」



何か言わなくてはと思考を巡らす。


このままお礼の一つも言えないまま別れてはいけない。


そう自分に言い聞かせる。



俯き、自分の爪先を視界に捉えながら私はようやく言葉を口にした。




「あ…ありがとうございました。」





私の言葉に彼はぶっきらぼうに「おう。」と応えた。




私は彼に深くお辞儀をして、"家"へと向かって駆け出した。
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