第3章 持たざる者は持てる者

星祭りとは、笹舟と灯籠を河に流し、祈りを捧げる祭りである。

私は祭りの主催者から依頼を受け、祭りの為の灯籠を作成した。

水に濡れても破れない紙と、安定した蝋燭台。

材料は至ってシンプルだが、一人で300個作成するとなるとやはり時間がかかる。

灯籠に使う蝋燭は練金釜で一気に作ったが、それ以外はすべて手作業だった。


故に百年祭には一度も足を運ばず、ずっと工房に籠って灯籠を作っていた。

依頼された灯籠を届けに訪れて初めて私はあの大虐殺を知った。

美しかった街は破壊され、石畳には血の跡が残る。


一気に血の気が引くのを感じた。

これが現実の光景なのかと我が目を疑うが、人々の涙がこれは現実に起きたことなのだと認識させる。




依頼された灯籠を主催者に届け、私はそのまま星祭りで灯籠を配る仕事を引き受けた。

自分の仕事を最後まで見届けたい気持ちも勿論あったが、そうではない。


何か自分に出来ることをしたかった。

言い方は適切ではないが、幸運にもその場にいなかった私がこの街の人々に出来る何かが欲しかった。


今人々に必要なのは精神的な支えだと私はそう思った。

だからこそこの灯籠をきちんと渡したかった。


"星降りの灯籠"と名付けたこの灯籠には、魔力を込めた蝋燭が使われている。


願いの強さに呼応して強く燃える蝋燭なのだが、実際のところ願いを叶える程の力はない。

どうにかして小さな奇跡を起こせる程度のものにならないかと今回はとって置きの幸せの四つ葉を材料として混ぜてみた。


効果の真価を確認する方法はないが、願いを叶える程の力を持つ品になってほしいと願いながら私は蝋燭に魔力を込めた。




灯籠一つ一つを確認しながら人々にそれを手渡す。


誰一人として願いを溢さないように。




河に煌めく光を見る。

灯籠はキラキラと光を放ち、水面に浮かんでいる。

初めは小さかったその輝きは徐々に強く大きな光となって輝き始めた。

やがてそれらは光の帯となってゆるゆると河を流れて行った。



最後に残った灯籠を手に取り私はそれを水に浮かべる。



"どうか今涙を流す人々が再び笑顔になれる日が来ますように。"






自分が流した灯籠を見送りながらノルンは思う。



この街の人々の為に練金術を使おう…と。



街の復興の為に役立つ物を作ったり、怪我をした人々の為に薬を作ろう。




そして1年後、またこの星祭りが行われる時には、人々に笑顔が戻るよう尽力しようと。
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