第3章 持たざる者は持てる者

あの大虐殺の後、星祭りは粛々と行われた。


もしかしたら中止になるのではないかとも考えていたが、星祭りは予定通り行われた。


願いを乗せた笹舟はゆらゆらと水面に浮かび流れてゆく。


笹舟と共に流される灯籠が宵闇を明るく照らし、また夜空にも煌々と星が輝いている。

それらはまるで、あの事件で亡くなった人々の魂のように。
朧気で儚く輝いているように見えた。


旅芸人の一座と共にこの国を訪れていた一人の竜人は、灯籠と笹舟を手に河辺へ向かって歩いている。

思い起こせば付き合いは短かった。
しかし、今まで生きてきたなかで一番温かく、居心地の良いキャラバンだった。

竜人特有の怪力を制御できず、物を壊してしまったり、公演中に大きなミスを引き起こした自分を追い出したりしなかった優しい人々。




私を"白竜"と呼んでくれた人達はもういない。


皆、あの大虐殺で死んでしまった。




私はまた独りぼっちになってしまった。



流れていく笹舟を見つめながら白竜は想う。

死んでしまった人は何処へ行くのだろう?


物心ついた頃には私は既に独りだった。


両親は私が産まれるより先に亡くなっていた。


だから私は命がどこから来て何処へ行くのかという事を教えて貰っていない。


でもこれだけは理解できる。


今、胸の奥にある裂けるような痛み。
これが哀しみ。


そしてこの感情があるから、今私は瞳の奥から止めどなく涙が溢れてくるのだと。


背中に生える翼を抱えて踞る。

誰にも涙を見られないよう、翼で顔を隠して私は泣いた。



短冊に綴った願いが皆に届く事を祈りながら。




"どうか皆の旅が幸せな旅でありますように"




星は輝く。
祈りの夜に青く白く。


水面には赤く揺らめく舟と灯籠。

それはまるで魂の輝き。

それはまるでこことは違う世界へ旅立つ舟のよう。



この世界に神様というものが本当にいるなら、どうかお願いします。

私の大切な"家族"の新たな旅を御守りください。



子供の頃は白かった竜麟は大人になるにつれて緑になっていった。


両親を知らない子供の私は竜麟の色そのままに"白竜"と名乗った。


大人になった今ではちぐはぐな印象を受けるその名前。


時折変えたいとさえ想うその名前。



でも今この時、その名と異なる緑の麟竜は星祭りの灯りに照らされ白く輝き、私は白い竜になっていた。
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