第3章 持たざる者は持てる者

国の建国と神の御子の復活を祝う過越の祭りの最終日に引き起こされた旧教徒達による大量虐殺事件ー……のちの歴史上に”ゴイムの虐殺”として名を刻む未曾有の災禍ー……いや、人災は発生後ほどなくして収束へと向かっていった。

ギルドマスター・ルーベラが率いる正規ギルドのをはじめとした国内に点在する数多のギルド員達が互いに連携し動いた事、ルマンド王女及びブランチュール教皇の勅命を受けた神殿騎士団及び王宮騎士団の初動が迅速であった事ー……事態が収束へと向かった理由は複数考えられるが、中でも抜きん出た存在が暴動の最中、突如として現われた集団だった。

彗星の様に民衆の前に現われたその集団は鬼神が如き奮迅を見せ、深紅の旗の元、瞬く間に暴徒を鎮圧、制圧し、民衆ー……とりわけ”プロレタリア”と呼ばれる貧民層、労働階級から急速に支持を集めていった。

『持たざる者は持てる者』

『平和、平等、労働者』

繰り返される彼らのスローガンは現在の治世に疲れ果てていた民衆の心を一気に捉えていったのである。

一方、旧教徒達による一連の暴動に対し、王宮及び教皇府は「今回の暴動は敬虔な旧教徒によるものではなく聖なる神の教えを曲解、歪める者達によるテロ行為である」と断罪する宣言を発表するが、その発表を受け入れた者は一部の富裕層及び旧教に所属する聖職者達だけだった。

ゴイムの虐殺以降行方知れずとなった宣教師エリーゼを信奉する新教一派は当然のこと、旧教に所属する穏健派の貴族や民衆達も聖座に座するブランチュール教皇の指導能力のなさ、求心力のなさを声高に上げ批判の声を向け、抵抗を見せるようになった。

深紅の旗を掲げた者達に助けられた俺とルフィールは、今、一つの扉の、その門戸を叩こうとしていた。

『持たざる者は持てる者』

その言葉通りなら俺はー……

ただ漠然と何者かになりたいと……漠然と祖国の為に何かをしたいと願うだけだった俺でも、持てる者に、なれるのだろうか。

持たざる者ではなく、持てる者に。

初夏の地面からの照り返しが浅黒い皮膚を、褪せた労働者のシャツを焼いていた。


【第三章・序説】
1/18ページ
スキ