日常交流


あれはいつの事だったか……。

そう、あれはまだ私が根なし草の旅人であった頃の話だ。

たまたま立ち寄った街で……そうだ……確かあの日は……。

「ちょっとそこのお兄さん!占いやっていかない??」

怪しい。

一目でそう思った。
失礼だとは思うが私を呼び止めた人物は明らかに異質な姿をしていたのだ。
ブロンドのカツラにピンクのドレスそして背中には手作りと思わしき付け羽根を背負っている。
怪しい……こいつは一体何者だ?

関わり合いにならないほうが身のためだと私は早々にその場を立ち去ろうとしたのだが、この妖精モドキには私の考えがお見通しだったらしい。

足を踏み出すより早く制止をかけられた。

「ちょっとアンタ。アタシをヤバイやつ認識して逃げようとしてるでしょ?
別に取って食ったりしないわよ。
見ての通りアタシはしがない占い師。妹におまんまを食わせてやりたいだけの妖精よ。」


しがない占い師はそんな濃い化粧をしたおっさんの姿をしていないと思うのだが……?

「口を開かなくてもアンタの悪口はお見通しよ。」

「むぅ……。」

渋々おっさんフェアリーの前に足を運んだ。
どうあがいても逃がしてくれないなら一度ぐらい占ってもらうとするか……。

「アンタ…アタシを何なんだこのおっさんは?って思ってるでしょ?
おっさんじゃなくてマダムって呼んでちょうだい。アタシの名前はマダムフラワーよ。」

キャラが濃い。

「胡散臭い。」

「あら。正直な感想ありがと。」

「妹を養うためならこんなところで占い師などやるよりも全うな仕事をすればいいのではないのか……?」

「実家は花屋だけどアタシが花を育てると枯れんのよ。」

「向かな過ぎる……花が気の毒だ……。」

「アンタ結構涼しい顔して失礼なこと言うヤツなのね?アンタがどんな人間かよーーくわかった気がするわ。」

「いや……占いなど信じていないものだからつい警戒してしまってな。失礼したマダム(?)」

まったくほんと失礼しちゃう!と目の前で不貞腐れるおっさんフェアリーは私の謝罪を聞いているのかいないのか傍らにあった花柄のカバンをごそごそとまさぐりピンクの香水瓶を取り出した。

「ちょっと待って。アタシ汗臭いの嫌なの。」プシュプシュ…

自分で花の香りを補充している……。
香水がキツイ。

「ゲホゲホ…!」

強い香水の匂いにむせる私の目の前にマダムは水晶玉を突き出して手をひらひらとかざしながら水晶に魔力を込め始めた。


「アタシはね?アンタの未来が見えんのよ。
ちょっと気になる運命が見えたから呼び止めたのよ。金づるにするために呼び止めたんじゃないわ。」

「ほう…。具体的にはどんな?」

「このままいくと……アンタ……死ぬわよ??」(死ぬわよ……死ぬわよ……わよ……)

「直球だな。」

これ以上ない悪い結果が出た。どうやら私の旅はここまでのようだ。
そろそろお暇させていただくことにしよう。


「腰を上げんの早すぎんのよ。まだ話は終わってないわよ。ちょっと話を聞きなさい。
アンタの運命はまだ変えられるって言ってんのよ。」

「……ほう。この最悪の結果を前に何をすれば運命が変わると言うのだ?」

「白ウサギを探すのよ。」

「白ウサギ……?」

「そ。白ウサギよ。この先ずっとこの道を進んだ先にちょっとした深い森があるのよ。
そこで白ウサギを探すのよ。それがアンタの人生に大きな影響を与えるわよ。」


††††††††††††††††††††††††

「迷った。」

途方に暮れながら空を仰ぎ見る。
つい先程までは木々の合間からは僅かに光が漏れて神秘的な光景が広がっていたのだ。いたのだが……。

ぽつり……ぽつり……と雨粒が降り注いできた。

「これは参った。雨まで降ってきたか……。」


身体が冷えたせいか妙に寒気を感じる。

ぼったくられた上に森で遭難とは……どうやら天に見放されたらしいな。
さてどうしたものかと周囲を見渡す。

これ以上天候が悪化しない事を祈りながら雨宿り出来そうな場所を探す。


運命を変える幸運の白ウサギを探すつもりが……このままでは死の運命を回避できそうに無いなと自嘲しながら。

「……あれは……?」

視界の先に何やら白いものが見えた。
もしやあれが探していた白ウサギなのか?


ひらひらと視界の先に見えていたのは手だ。細く長く美しい女性の手だ。

私を招くようにひらりひらりと木々の合間から見える手に導かれるように私は更に森の奥へと進んでいく。

そしてようやくたどり着いた先に見たのは全てが白に彩られた美しい女の姿だった。

白磁のような白い肌、光の束を集めたような美しい白い髪、天に向かってピンと立った耳も柔らかな白い毛に覆われ、降り注ぐ雨を見つめる瞳も……。

あまりの美しさに私は彼女の姿に釘付けになっていた。

この頃にはもう自らの死の運命のことなどすっかり忘れてしまっていた。


私の姿に気づいた彼女はゆっくりとこちらへ振り返る。

月長石のような不思議な光を帯びた彼女の瞳に私は心を射抜かれた。

「あなたは……誰?」

赤く柔らかな唇が言葉を紡ぐ。投げ掛けられた問いに私も言葉を返した。

「失礼、こんなところに美しい女性がいたものだからつい……見惚れてしまった。美しい方よどうか許して欲しい。

私の名はドーガ……ドーガ・メルキオールだ。
私はこの通りしがない旅人だ。どうか……逃げないでくれ。」


これは私の過去の話。
私が彼女に出会った頃の過去の記憶。

決して忘れることのない私の運命を変えた出会いの話だ。
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