日常交流
オラージュが買い物に行きたいと言い出したのは随分唐突な話だった。彼女の自由奔放さは今に始まったことではなく、ペトラがそれに振り回されるのも今更で。けれど、一緒に来た街で彼女を見失ってしまったのは、さすがに想定外だった。
「どこにいるんだ……オラージュ……」
一度立ち止まり、深く息を吐く。神経をとがらせてあたりを探し回っていたせいか、体力的にも精神的にも限界を迎えようとしていた。道を往来する人々は多く、そこから探し出すのは容易ではない。
「オラージュ……」
ぺトラが目印にしている青色は人々の中にはいない。では一体どこにいるのか、ふらりと横道にそれたか、違う通りに行ったのか、それとも――。
「……あれ?」
そんなことを考えながら歩き出した時に、道の隅で立ちすくむ少女がふと目に入る。遠目に見ても何かに怯えているようだが、誰も声をかける人はいない。たまらなくなったぺトラは、急いで少女のもとへと駆け寄る。
「あの、大丈夫ですか?」
「――……え、あの、」
「すごく怯えているようだったので……。大丈夫ですか? これ、よかったら飲んでください」
ぺトラがまだオラージュと一緒にいた時に買った飲み物を手渡すと、少女はおずおずと受け取る。白い肌が青ざめ、さらに白くなっているさまがとても痛々しい。だが、必死に自分を落ち着けようとしている。見たところ、まだあどけなさを残しており、オラージュよりも年下だろう、とぺトラは推測する。
受け取った飲み物を一口飲んだ少女は、深呼吸を繰り返すとぺトラに頭を下げた。まだ怯えは残っていそうだが、だんだんと立ち直ってきたらしい。強い少女だ。
「……はい、大丈夫です。ちょっと、混乱していて」
「よかった。その飲み物は差し上げます。ちょっと人を探しているので、すぐに行かなくてはいけなくて。ごめんなさい」
「いえ! いいんです! ありがとうございました!」
「無理はしないでくださいね」
ようやく笑顔を見せてくれた少女に笑い返しつつ、ぺトラは少女の瞳が青色をしていることに気づいた。オラージュと、彼女と一緒の色だ。それがあったのだろうか、親近感を覚えたぺトラはオラージュのことを少女に聞いてみることにした。
「あの、ひとつ聞いてもいいですか?」
「私に答えられることなら。なんですか?」
「全体の印象が青色の、きみより少し年上くらいの女の子を探していて……。どこかで見かけませんでしたか?」
その言葉に、少女の顔色がさっと変わる。影を潜め始めていた怯えがまた表れ、ぺトラは慌てて少女の背中をさすった。
「何かまずいことを言った!? ごめんね」
「いえ、いえ……違うんです。確か、この道をまっすぐ……行きました」
「ありがとう。きみの怯えは尋常じゃないけれど……」
「私にもよく、わからないんです」
それほど時間は経っていないので、すぐに見つかると思います、と告げた少女の表情には、まだ怯えが残っている。この少女を残していくのは気が引けたが、オラージュのことも気になる。きっと大丈夫だ、と言い聞かせてもう一度お礼を言い、後ろ髪を引かれる思いだったが、ぺトラはその場を離れたのだった。
少女が教えてくれたとおり、オラージュはそれほど遠くに行っておらず、すぐに見つけることができた。ぺトラのげんなりし表情もなんのその、オラージュはとても楽しそうにしている。いつにもまして、機嫌がいい。
「なんでそんなに楽しそうなの……、僕がどれだけさがしたか察してるでしょ」
「ああ、察しているとも。ふふ、実はね、とても楽しいことがあったのさ」
「楽しいこと……?」
「知り合いを見かけたから、声をかけに行ったんだよ。とても元気そうでね、だから嬉しかったのさ」
「知り合い?」
「そう、知り合いだ。ふふ、元気そうでよかった」
今にも踊りだしそうなオラージュを見ながら、ぺトラの脳裏に少女のことが浮かぶ。オラージュとは対照的に、ひどく怯えていた。
ほんの少しの違和感を覚えて、思わずオラージュを見つめてしまう。視線に気付いたオラージュはきょとんとして、どうしたんだい? と首をかしげている。いつもの彼女だ。
「ううん、なんでもないよ。きみが楽しそうで良かった。でも、勝手な行動はしないでくれよ……」
そう言いながらもぺトラは、オラージュは変わることはなくて、振り回されながらも、そんなオラージュのことが、自分は好きなんだろうな、とのんきに考えるのだった。
「どこにいるんだ……オラージュ……」
一度立ち止まり、深く息を吐く。神経をとがらせてあたりを探し回っていたせいか、体力的にも精神的にも限界を迎えようとしていた。道を往来する人々は多く、そこから探し出すのは容易ではない。
「オラージュ……」
ぺトラが目印にしている青色は人々の中にはいない。では一体どこにいるのか、ふらりと横道にそれたか、違う通りに行ったのか、それとも――。
「……あれ?」
そんなことを考えながら歩き出した時に、道の隅で立ちすくむ少女がふと目に入る。遠目に見ても何かに怯えているようだが、誰も声をかける人はいない。たまらなくなったぺトラは、急いで少女のもとへと駆け寄る。
「あの、大丈夫ですか?」
「――……え、あの、」
「すごく怯えているようだったので……。大丈夫ですか? これ、よかったら飲んでください」
ぺトラがまだオラージュと一緒にいた時に買った飲み物を手渡すと、少女はおずおずと受け取る。白い肌が青ざめ、さらに白くなっているさまがとても痛々しい。だが、必死に自分を落ち着けようとしている。見たところ、まだあどけなさを残しており、オラージュよりも年下だろう、とぺトラは推測する。
受け取った飲み物を一口飲んだ少女は、深呼吸を繰り返すとぺトラに頭を下げた。まだ怯えは残っていそうだが、だんだんと立ち直ってきたらしい。強い少女だ。
「……はい、大丈夫です。ちょっと、混乱していて」
「よかった。その飲み物は差し上げます。ちょっと人を探しているので、すぐに行かなくてはいけなくて。ごめんなさい」
「いえ! いいんです! ありがとうございました!」
「無理はしないでくださいね」
ようやく笑顔を見せてくれた少女に笑い返しつつ、ぺトラは少女の瞳が青色をしていることに気づいた。オラージュと、彼女と一緒の色だ。それがあったのだろうか、親近感を覚えたぺトラはオラージュのことを少女に聞いてみることにした。
「あの、ひとつ聞いてもいいですか?」
「私に答えられることなら。なんですか?」
「全体の印象が青色の、きみより少し年上くらいの女の子を探していて……。どこかで見かけませんでしたか?」
その言葉に、少女の顔色がさっと変わる。影を潜め始めていた怯えがまた表れ、ぺトラは慌てて少女の背中をさすった。
「何かまずいことを言った!? ごめんね」
「いえ、いえ……違うんです。確か、この道をまっすぐ……行きました」
「ありがとう。きみの怯えは尋常じゃないけれど……」
「私にもよく、わからないんです」
それほど時間は経っていないので、すぐに見つかると思います、と告げた少女の表情には、まだ怯えが残っている。この少女を残していくのは気が引けたが、オラージュのことも気になる。きっと大丈夫だ、と言い聞かせてもう一度お礼を言い、後ろ髪を引かれる思いだったが、ぺトラはその場を離れたのだった。
少女が教えてくれたとおり、オラージュはそれほど遠くに行っておらず、すぐに見つけることができた。ぺトラのげんなりし表情もなんのその、オラージュはとても楽しそうにしている。いつにもまして、機嫌がいい。
「なんでそんなに楽しそうなの……、僕がどれだけさがしたか察してるでしょ」
「ああ、察しているとも。ふふ、実はね、とても楽しいことがあったのさ」
「楽しいこと……?」
「知り合いを見かけたから、声をかけに行ったんだよ。とても元気そうでね、だから嬉しかったのさ」
「知り合い?」
「そう、知り合いだ。ふふ、元気そうでよかった」
今にも踊りだしそうなオラージュを見ながら、ぺトラの脳裏に少女のことが浮かぶ。オラージュとは対照的に、ひどく怯えていた。
ほんの少しの違和感を覚えて、思わずオラージュを見つめてしまう。視線に気付いたオラージュはきょとんとして、どうしたんだい? と首をかしげている。いつもの彼女だ。
「ううん、なんでもないよ。きみが楽しそうで良かった。でも、勝手な行動はしないでくれよ……」
そう言いながらもぺトラは、オラージュは変わることはなくて、振り回されながらも、そんなオラージュのことが、自分は好きなんだろうな、とのんきに考えるのだった。
