日常交流
もうじきもうじき日が暮れる
遊ぶ子どもらお家へ帰れ
母が待ってる子どもらを
スープをこさえて待っている
父が怖いと泣く子ども
泣くのはおよし
父はお山に行ったきり、狼の腹から還ってこない
母が怖いと子ども
泣くのはおよし
母は水汲み川へ行き、魚の腹から還ってこない
還る道の無い子ども
可哀想なのでこの迷い道を家としよう
/『異教の邦で聞いた唄』
ああ、苦いな
舌がひりひりと痺れる。
彼女の言葉は苦い。
きっとそんな風に思うのは僕だけなのだろう。彼女の言葉は祈りだからだ。祈りは甘い。僕にはその甘さが苦すぎる。僕はもう祈りに捨てられたのだから。
苦いものは嫌いだ。なぜならそれは毒だから。
良薬は口に苦し
薬は苦い。当然だ。薬の成分の本質は生体防御、植物達が環境から身を守るために生み出した鎧なのだから。
「風化、という言葉をご存じですか」
ひりつく舌を乾ききった口から何とか剥がしてそれだけ言った。
「風化という現象があるのは知ってはいますよ。それをさせない為に少なくとも私はいます」
真っ直ぐ見返してくる金の瞳に揺らぎがない。きっとそう言うと思った。決して僕とは合わないが、それは彼女の美点だ。翼でもある。翼がある人が此処にいてはいけない。もっと広い世界を飛び回れば良い。彼女の師は碌でもない人物だが、導く力はある。僕にはない。
彼女はこの時間を不毛ではないと言っていたが、やはり不毛であると思う。同じ時間を使って多くのことができる。それこそ、風化し行くものをその手で見つけることだって。
「それは傲慢さと言い換えることができます。風化は摂理です。貴方のしていることはその摂理に抗うことだ。エゴとしか言いようがない。化石が過去の姿を崩し、砂になることがどうしていけないんですか。誰からも忘れ去られた墓が、骸を抱いたまま苔に覆われ朽ちていくことを責めることができますか」
「いけない、とは言っていませんよ。ただ私は、そんな寂しい在り方で何故それでも生を選べたのか、それを聞きたい。良いか悪いかで評価しようなんて思っていません」
選ばなくても、意味を見出さなくても生きる道を歩くことはできる。生き物はそういうものだ。
「昴さん、これだけは申し上げておきます。僕は別に留まろうとは思っていないし、生きることを積極的に選んだわけでもない。しかしながら時を打つのは死神の仕事です。生まれて育ち然るべき時に塵となる。その時までは生きているだけです」
貴方は此処にいてはいけない。そんな祈りを込めて言葉を紡いだ。
「お引き取りください。てんぷら、御馳走様でした」
遊ぶ子どもらお家へ帰れ
母が待ってる子どもらを
スープをこさえて待っている
父が怖いと泣く子ども
泣くのはおよし
父はお山に行ったきり、狼の腹から還ってこない
母が怖いと子ども
泣くのはおよし
母は水汲み川へ行き、魚の腹から還ってこない
還る道の無い子ども
可哀想なのでこの迷い道を家としよう
/『異教の邦で聞いた唄』
ああ、苦いな
舌がひりひりと痺れる。
彼女の言葉は苦い。
きっとそんな風に思うのは僕だけなのだろう。彼女の言葉は祈りだからだ。祈りは甘い。僕にはその甘さが苦すぎる。僕はもう祈りに捨てられたのだから。
苦いものは嫌いだ。なぜならそれは毒だから。
良薬は口に苦し
薬は苦い。当然だ。薬の成分の本質は生体防御、植物達が環境から身を守るために生み出した鎧なのだから。
「風化、という言葉をご存じですか」
ひりつく舌を乾ききった口から何とか剥がしてそれだけ言った。
「風化という現象があるのは知ってはいますよ。それをさせない為に少なくとも私はいます」
真っ直ぐ見返してくる金の瞳に揺らぎがない。きっとそう言うと思った。決して僕とは合わないが、それは彼女の美点だ。翼でもある。翼がある人が此処にいてはいけない。もっと広い世界を飛び回れば良い。彼女の師は碌でもない人物だが、導く力はある。僕にはない。
彼女はこの時間を不毛ではないと言っていたが、やはり不毛であると思う。同じ時間を使って多くのことができる。それこそ、風化し行くものをその手で見つけることだって。
「それは傲慢さと言い換えることができます。風化は摂理です。貴方のしていることはその摂理に抗うことだ。エゴとしか言いようがない。化石が過去の姿を崩し、砂になることがどうしていけないんですか。誰からも忘れ去られた墓が、骸を抱いたまま苔に覆われ朽ちていくことを責めることができますか」
「いけない、とは言っていませんよ。ただ私は、そんな寂しい在り方で何故それでも生を選べたのか、それを聞きたい。良いか悪いかで評価しようなんて思っていません」
選ばなくても、意味を見出さなくても生きる道を歩くことはできる。生き物はそういうものだ。
「昴さん、これだけは申し上げておきます。僕は別に留まろうとは思っていないし、生きることを積極的に選んだわけでもない。しかしながら時を打つのは死神の仕事です。生まれて育ち然るべき時に塵となる。その時までは生きているだけです」
貴方は此処にいてはいけない。そんな祈りを込めて言葉を紡いだ。
「お引き取りください。てんぷら、御馳走様でした」
