日常交流

「兄上。では、行って参ります」
「ああ、気をつけるんだよ」

兄上に見送られ、私はロシュフォール邸を発った。

これから、私は王都へ向かうところだ。コミンテルン卿にお会いし、赤軍へ本格的に入隊するためである。


私の領は、大変荒れていた。前領主である父上が、領民から高額の税を徴収し、私腹を肥やしていたからである。そのために、領民は衣食住最低限の…いや、それ以下であろう満足に暮らせぬ生活を送っていたのだ。そのおかげで、子である私と兄上は豊かな暮らしを送れていたのだが、民の犠牲の上で成り立っていた生活だったと思うと大変心が痛い。
兄上も同じことを感じていらしたのだろう。領主になると領の復興に務められた。領主になられた後父上が亡くなると、なおのこと領のために尽力された。そのご尽力があって、領は少しずつだが豊かになりつつある。

そして、私にも何かできることはないかと考えた。
聞けば、我がロシュフォール領だけではなく、この国全体が荒れているという。そして、そんな国を憂い正さんとしているという“赤軍”の存在を知った。そこへ入れば、荒れている国を穏やかにするために尽力を尽くせるだろう。そう考え、赤軍へ入隊しようと決めたのだ。
もちろんこのことは兄上にご相談したし、ラシュが決めたことならいいと賛成してくださった。だから先ほどああしてお見送りもしてくれたのだ。本当に、ありがたい。

…しかしだが、兄上は領主になられてから段々とお顔に影が差してきているというか…以前よりどこかやつれてらっしゃるように見える。父上が亡くなられたからなおのこと、領主として務めねばと気を張られているのかもしれない。ご無理をなさっていないといいが…そもそもちゃんと寝ているのだろうか…いろいろ心配だが、しかし私はやるべきと決めたことをやるのみ。兄上もそうしているように。



数日ほどかけ、ようやく王都にたどり着いた。
ここが、王都か…国の中心の町というだけあって人が多く、大きな町だなというのがわかる。ロシュフォール領の一番大きな町でも、この規模には敵わないだろう。

「本当に、大きな町だな…住居へ向かいがてらに見て回るとするか」

こんなに大きな町は初めてなので、どんな場所なのだろうと期待が膨らむ。王都で生活するための住居へ向かいつつ、町を見て回ることにした。



……が、その30分後。

「ひ、人酔いした……」

あまりの人の多さに酔ってしまったのだ。人混みに酔ったこともだが、王都に着くまでに長旅をしてきたということもあり、疲れが溜まっていたようである。私はたまたま近くにあったベンチに腰をかけ、しばし休憩することにした。
そして、数分ほど休憩していた時だった。

「どうかしましたか?お嬢さん」

と、声をかけられた。見上げると、艶やかな緑髪をなびかせた優しい目をした男性の姿。座っている私の目線に合わせてくださっているのか、少し屈んだ姿勢になっている。

「いえ、少し休憩をしていただけです。しかし、もう大丈夫になりました。お声かけいただきありがとうございます」

私はベンチから立ち上がり、深々とお辞儀した。

「…少し顔色が優れませんね。よろしければ、貴女の目的地までご一緒しましょうか?」
「い、いえ!お会いしたばかりなのにそれはなんだか悪いです!」

思わず焦った言い方になってしまった。初めて会ったばかりの者なのにそこまで気遣ってくれるとは思っていなかったのだ。ご厚意はとても嬉しいのだが、しかしお会いしたばかりの方に甘えるわけにはいかない。
コホン、と咳払いをし、私は言葉続けた。

「お気遣いありがとうございました。お気持ちだけありがたく受け取らせていただきますね」
「ふふ。そうですか、それではどうかお気をつけて。またご縁があったらお会いしましょう、お嬢さん?」
「はい。またいずれお会いしましょう。では、失礼します」

緑髪の男性に踵を返し、住居の方向へ歩みを進めた。

……そういえば、あの方は私を“お嬢さん”と呼んでいたような…?普段は少年だと見られがちなのに、あの方は私を女だと気づいてくださっていたのか…?それもさっき初めてお会いしたばかりだというのに…なんだか気持ちがほっこりした。人酔いも長旅疲れも飛んでいった気分だ。

『ご縁があったらお会いしましょう』

別れ際にあの方が言っていた言葉がふと再生される。
…なぜだろう。本当にまた会えるような予感がしているのだ。もしまた会えるとしたらいつだろう…出会ったばかりの人なのに、なぜかそんなことを考えている自分がいた。
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