日常交流

「おじいちゃん、今日もあの子の所に行ってもいい?」

最近はこんなやりとりをするようになっていた。

暖かい暖炉の前で本を広げておじいちゃんの魔法書を眺めて過ごしてる間も、あの子の顔が脳裏に浮かんで離れない。

おじいちゃんは私の気持ちを深く問うことはせず、私の頭をぽんと軽く撫でてこう答えた。

「あのお屋敷は少し複雑な事情があるから、決してお屋敷の人に迷惑はかけないと約束するなら、構わないよ。」と。

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大きな大きなお屋敷を鉄格子越しに眺める。
もしかしたらあの子に会えるかも知れないと淡い期待を抱きながら時折こうして足を運ぶ。

見るだけならいいかな……って。

平民の子の私があの子と口をきくのは本当は好ましい事じゃないんだと知ってるけれど……

それでもまた会いたいと思ったの。

あれからあの子に会えたことは無い。でもこうしてお花を置いたらあの子に伝わるかなって思いながら鉄格子の隙間からそっとお花を置いてきた。

そんなことを繰り返していたある日、あの鉄格子の門のところへ足を運んでみたら、門の向こう側にあの子が立っている姿が見えた。

「やっぱりお前だったのか。」

と、そう呟いて私の姿を見つけて微笑んでくれた。

「あ……あの…私……」

うまくお話ができない。あんなに会いたいと思ってたあの子が目の前にいるのに。何を話せばいいのか解らなくなってしまった。

お話したいことが沢山ありすぎて手にした花を渡すことさえも思い付かないままその場に立ち尽くしていた。
透き通った青水晶の瞳が私の顔をじっと見つめたまま私の言葉を待っている。
言わなきゃ……お話したくてここに来たのは私だもの。

大きく息を吸い込んで、心を落ち着かせて、一番伝えたい言葉を口にした。

「セデルにずっと会いたかったの。
お話したかったの……ずっと……。」

それ以外の言葉はうまく言えなかった。

頬が段々熱くなって口の中が段々渇いてきてふるふると身体が震えてきて…その場にいられなくなって踵を返して走り去った。

何か言ってた気がする。でもそのときの私にはセデルの声はもう聞こえてなかった。


何故走り去ったりしたんだろう。

せっかくあの子が…セデルが待ってくれていたのに……。

もしかしたら嫌われてしまったかも……。

そう思ったら胸の奥が不安な気持ちでいっぱいになって足が止まった。

嫌だ……嫌われたくない。セデルに嫌われるのは嫌。

今からでも戻れば…会えるかな。
ごめんねって言えるかな……。

屋敷の方へと向かってもう一度歩きだす。

もういないかもしれない。
私が戻ってくるなんてきっと思ってない。
でももしかしたら…まだいるかもしれない。

そう思いながら徐々に速度をあげて息をきらしながら鉄格子の門を目指してまっすぐに走った。

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「戻って来たのか。もう家に帰ったのかと思った。」

「待ってたの…?ずっとここで…」

「ああ。ここに花を届けるやつの顔を見てやろうと思って見張ってたんだ。」

そう言って笑って見せたけど、セデルは…一体いつからここで待っていたのだろう。

私がここに来るよりも前に…この冷たい風が吹く空の下で…ずっと一人で待ってくれていたのだろうか…?

鉄格子の門の隙間からそっと手を伸ばしてセデルの頬に触れてみればひやりと冷たい感触が伝わってきた。


きっとセデルはここに来てたのは私だって気づいてた。
ずっと待っててくれた…今もこうして…私のこと待っててくれた。


「さっきはごめんね……。待っててくれたのに……逃げたりしてごめんね。」


ずっと握っていた花を門の隙間から差し出して今度は落ち着いて言葉を口にする。


「私、セデルとお友達になりたいの。
お話するだけでもいいから…時々ここに来てもいい?」


冷たい晩秋の風がひとつ吹き抜けて手にしたコスモスの花がゆらりと揺れた。

私ね…あの日からずっとセデルは絵本に出てくる騎士さまみたいだって思ってるの。

キラキラと輝く綺麗な銀色の髪を靡かせて、透き通った青い水晶のような目を持っていて……とってもとっても綺麗なの…。


だからこうして会いに来てもいいですか……?

絵本の騎士さまに会いに来てもいいですか……?
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