日常交流
随分と長いこと歩いてきた。ただただ必死で、あの国に背を向けてひたすらに歩みを進めてきた。もう追っ手は来ないだろう、そこまで歩みを進めても更に先へ。どれほど歩いたかなんて覚えていないし、ここが何処かなんてのも分からない。ただ傍の子供と2人でここまでやってきた。なのに。
ゆさゆさと体を揺さぶられる。青い目が私の顔を覗き込んでくる。少し眠っていたようだった。頭がぼーっとして気持ちが悪い。そういえば私は...
そうだ。12月の寒さにやられて恥ずかしながら熱を出してしまったのだった。ベルダにコートは渡してしまっている。今更返せなど言えるはずもないし、ベルダからコートを取り上げて仕舞えば彼女が今度は風邪をひく。それだけはあってはならない。
「ぁぁ。すまない。今立つから。」
そう言って立とうとすると、ベルダは必死に私を止めた。何故だい?まだ遠くを目指さないと。そうぼんやりと思っていたら、彼女は必死に私の右足を指差し始めた。そちらに目をやるとまぁ酷い状態の私の右足が目に入った。
そういえば長すぎる旅路に部品が消耗してしまい、つい数日前に動かなくなってしまったのだったか。頭がうまく働かず、そんなことも忘れてしまっていた。
このままじゃいけないと、一番近かった街の広場に腰を下ろしたのだったっけ。あたりをふと見回すと、少し馴染みのある感じの風景だった。ここがあの国でない事は確かなんだが、文化レベルというか建物の感じなどが非常に似ていて、どことなく不安な気持ちになった。それと同時に早くこの場から立ち去らないとという焦りにも似た気持ちが込み上がってきた。
「早く、行こう。」
隣にいるはずのベルダに声をかけた。が、そこに彼女は居なかった。肩には彼女に渡したはずのコートがかけられて居た。
大変だ。早く誰か助けてくれる人を探さないと。
大切な人が苦しんで動けない状態を、褐色の少女、ベルダはどうにか解決しようと周囲の人々に助けを求めていた。体が先に動いてしまって忘れていたが、自分は声が出ないしましてや異国の言葉を全く理解できない。道行く人の服の裾を引っ張ってみても奇妙な目で見られるだけで、関心を持ってもらえない。どうしようどうしようと、あたりをキョロキョロと見回していると、大きな影がベルダの前に立ちはだかった。
そこには恐ろしく大きな男が立っていたのだった。
日々の警備の仕事を終えて、ギルドに帰る途中だった。いつも通る広場で、見たことのない少女が道行く人々の服の裾を引っ張って、何かを必死に説明しようとしているのを発見した。迷子だろうか、そう思って近づくと、めちゃくちゃにびっくりされた。自分が強面で大きな事は理解しているが、そこまで露骨にびっくりされちゃあ少し悲しい。
「どうしたんだ?」
目線を合わせようと屈みながら声をかける。するとその少女は巨大な男、ルーベラの腕に左手を置き、右の手で広場の一角を指差した。その指に導かれるようにして視線をやると、そこにはぐったりとした男がいた。
「おいおい大丈夫か!」
少女の手を引いてその男の元へと駆け寄る。近くまで来て寄ると息が浅く、顔が青白いことが確認できた。加えてこの季節の人間にしては薄着すぎる。医療には全く明るくないが酷い風邪だろうという事は素人目にも分かった。
「馬鹿野郎。こんな薄着だとそりゃあ風邪もひくだろうが。お嬢ちゃん心配させて...」
ルーベラは自分が身につけていたマフラーを男の首に巻いてやろうとして手を近づけた。その瞬間男の目がゆっくりとこちらを見つめてきた。疑り深い目だった。
「...私と、その子から離れたまえ...。何者だ貴方、は...」
「?すまねえ、お前さんの言葉が分からん。」
異国の者らしく、ルーベラが聞き取れたのは「誰」その言葉だけだった。
「俺はルーベラっていう。この近くのギルドを受け持ってるもんだ。見た目はまあ、ゴツくて怖がられがちだが怪しいもんではないよ。」
男はよろよろと立ち上がってこちらを見つめてきた。それと同時に何か金属片が転がる音がする。足元を見やると、男は義足装着者だったようで、その義足のパーツがボロボロと外れていっていた。それでもなおこちらを見定めるような疑り深い目をこちらにやってくる。
「事情は知らんが、ここに居ても良くはならねえだろう。いいから来な。」
そう言って男の目を覗き込む。しかし次の瞬間には男は力つき、ルーベラの腕の中に倒れこんだのだった。完全に気を失ったようだった。
先ほどの少女の様子を見てみると、えらく焦った様子でアワアワとしている。
「心配するなよ嬢ちゃん。ほら、俺についてきな。あ、そこの落ちてる足のパーツ、拾ってからな。パーツ無かったらこの兄ちゃんの足も直せねえしな。」
そう言いながら男を担ぎ上げ、パーツを指差す。少女は理解したのか、大きくうなずきパーツをかき集め、それからルーベラの後を追って走り出した。
「ひどい熱ですが、まあ暖かくしてしばらく寝ていれば良くなりますよ。それとこの薬を飲めば...」
ルーベラはギルドの医務室に男をかつぎ込み、医務室の主である男、ジュライに診察を任せた。的確かつ迅速な処置の後、彼は何やらヤバい匂いのする薬を調合していたが、飲むのは自分ではないのでもうそこは突っ込まないことにした。
「そうか。いきなり運び込んでしまってすまなかったな、ジュライ。後は任せてもいいか?」
「ええ、ルーベラさん。この子もここで預かっていれば良いですか?」
ニコリと青い目の少女に微笑みかけながら、ジュライは尋ねる。
「あぁ、しばらく頼むよ。」
「フフフ彼面白い足していますね、ちょこっと分解して...」
「本人の了承得てからにしろよな!」
腕は確かだが、ちょっと行きすぎるところのある男を牽制しつつ、ルーベラは医務室を後にしようとした。すると青い目の少女が彼の裾を引っ張る。
「うん?どうかしたかい?」
振り返ると、彼女は深々と礼をした。
「大したことはしてないからよ、側にいてやんな。」
そう言ってルーベラは彼女の頭をポンと撫でて、今度こそ医務室を後にした。
((この後回復したフォーは、ギルドのヤベェ医者と話したり、ヤベェ薬飲まされたり、天青くんにギルド内を案内してもらうんやけど、そこで腐った床を踏み抜くぞ。))
ゆさゆさと体を揺さぶられる。青い目が私の顔を覗き込んでくる。少し眠っていたようだった。頭がぼーっとして気持ちが悪い。そういえば私は...
そうだ。12月の寒さにやられて恥ずかしながら熱を出してしまったのだった。ベルダにコートは渡してしまっている。今更返せなど言えるはずもないし、ベルダからコートを取り上げて仕舞えば彼女が今度は風邪をひく。それだけはあってはならない。
「ぁぁ。すまない。今立つから。」
そう言って立とうとすると、ベルダは必死に私を止めた。何故だい?まだ遠くを目指さないと。そうぼんやりと思っていたら、彼女は必死に私の右足を指差し始めた。そちらに目をやるとまぁ酷い状態の私の右足が目に入った。
そういえば長すぎる旅路に部品が消耗してしまい、つい数日前に動かなくなってしまったのだったか。頭がうまく働かず、そんなことも忘れてしまっていた。
このままじゃいけないと、一番近かった街の広場に腰を下ろしたのだったっけ。あたりをふと見回すと、少し馴染みのある感じの風景だった。ここがあの国でない事は確かなんだが、文化レベルというか建物の感じなどが非常に似ていて、どことなく不安な気持ちになった。それと同時に早くこの場から立ち去らないとという焦りにも似た気持ちが込み上がってきた。
「早く、行こう。」
隣にいるはずのベルダに声をかけた。が、そこに彼女は居なかった。肩には彼女に渡したはずのコートがかけられて居た。
大変だ。早く誰か助けてくれる人を探さないと。
大切な人が苦しんで動けない状態を、褐色の少女、ベルダはどうにか解決しようと周囲の人々に助けを求めていた。体が先に動いてしまって忘れていたが、自分は声が出ないしましてや異国の言葉を全く理解できない。道行く人の服の裾を引っ張ってみても奇妙な目で見られるだけで、関心を持ってもらえない。どうしようどうしようと、あたりをキョロキョロと見回していると、大きな影がベルダの前に立ちはだかった。
そこには恐ろしく大きな男が立っていたのだった。
日々の警備の仕事を終えて、ギルドに帰る途中だった。いつも通る広場で、見たことのない少女が道行く人々の服の裾を引っ張って、何かを必死に説明しようとしているのを発見した。迷子だろうか、そう思って近づくと、めちゃくちゃにびっくりされた。自分が強面で大きな事は理解しているが、そこまで露骨にびっくりされちゃあ少し悲しい。
「どうしたんだ?」
目線を合わせようと屈みながら声をかける。するとその少女は巨大な男、ルーベラの腕に左手を置き、右の手で広場の一角を指差した。その指に導かれるようにして視線をやると、そこにはぐったりとした男がいた。
「おいおい大丈夫か!」
少女の手を引いてその男の元へと駆け寄る。近くまで来て寄ると息が浅く、顔が青白いことが確認できた。加えてこの季節の人間にしては薄着すぎる。医療には全く明るくないが酷い風邪だろうという事は素人目にも分かった。
「馬鹿野郎。こんな薄着だとそりゃあ風邪もひくだろうが。お嬢ちゃん心配させて...」
ルーベラは自分が身につけていたマフラーを男の首に巻いてやろうとして手を近づけた。その瞬間男の目がゆっくりとこちらを見つめてきた。疑り深い目だった。
「...私と、その子から離れたまえ...。何者だ貴方、は...」
「?すまねえ、お前さんの言葉が分からん。」
異国の者らしく、ルーベラが聞き取れたのは「誰」その言葉だけだった。
「俺はルーベラっていう。この近くのギルドを受け持ってるもんだ。見た目はまあ、ゴツくて怖がられがちだが怪しいもんではないよ。」
男はよろよろと立ち上がってこちらを見つめてきた。それと同時に何か金属片が転がる音がする。足元を見やると、男は義足装着者だったようで、その義足のパーツがボロボロと外れていっていた。それでもなおこちらを見定めるような疑り深い目をこちらにやってくる。
「事情は知らんが、ここに居ても良くはならねえだろう。いいから来な。」
そう言って男の目を覗き込む。しかし次の瞬間には男は力つき、ルーベラの腕の中に倒れこんだのだった。完全に気を失ったようだった。
先ほどの少女の様子を見てみると、えらく焦った様子でアワアワとしている。
「心配するなよ嬢ちゃん。ほら、俺についてきな。あ、そこの落ちてる足のパーツ、拾ってからな。パーツ無かったらこの兄ちゃんの足も直せねえしな。」
そう言いながら男を担ぎ上げ、パーツを指差す。少女は理解したのか、大きくうなずきパーツをかき集め、それからルーベラの後を追って走り出した。
「ひどい熱ですが、まあ暖かくしてしばらく寝ていれば良くなりますよ。それとこの薬を飲めば...」
ルーベラはギルドの医務室に男をかつぎ込み、医務室の主である男、ジュライに診察を任せた。的確かつ迅速な処置の後、彼は何やらヤバい匂いのする薬を調合していたが、飲むのは自分ではないのでもうそこは突っ込まないことにした。
「そうか。いきなり運び込んでしまってすまなかったな、ジュライ。後は任せてもいいか?」
「ええ、ルーベラさん。この子もここで預かっていれば良いですか?」
ニコリと青い目の少女に微笑みかけながら、ジュライは尋ねる。
「あぁ、しばらく頼むよ。」
「フフフ彼面白い足していますね、ちょこっと分解して...」
「本人の了承得てからにしろよな!」
腕は確かだが、ちょっと行きすぎるところのある男を牽制しつつ、ルーベラは医務室を後にしようとした。すると青い目の少女が彼の裾を引っ張る。
「うん?どうかしたかい?」
振り返ると、彼女は深々と礼をした。
「大したことはしてないからよ、側にいてやんな。」
そう言ってルーベラは彼女の頭をポンと撫でて、今度こそ医務室を後にした。
((この後回復したフォーは、ギルドのヤベェ医者と話したり、ヤベェ薬飲まされたり、天青くんにギルド内を案内してもらうんやけど、そこで腐った床を踏み抜くぞ。))
