日常交流

今年もこの季節がやってきたなと、街の賑やかな雰囲気を見ると思わされる。キラキラと光る街、行き交う人々は肌寒さを知らずといった表情で、皆笑いながら幸せな時間を楽しんでいるようだった。



ギルドでもクリスマスは盛大にお祝いする事になっている。団員の中には宗教を重んじる者も少なくない。そういった人々のためにもギルドは毎年クリスマスに大きなパーティを開催する。(が、本音を言うと皆酒が飲めて上手い飯をたらふく食べられるラッキーといったところだ。)少なくともルーベラがこのギルドにやってきた頃から、この行事は存在していた。クリスマスイブの夜に豪華な食事(ギルドのいつものメニューに比べれば!)を楽しみ、その後成人組はお酒をひたすらに飲む。酒に飲まれてギルドのラウンジが半壊するのはご愛嬌だ。(リザからすればご愛嬌では済まないとのことだった。そうだよな、そりゃあそうだ。)

未成年組は成人組の騒がしすぎる酒の席を子守唄に、プレゼントに期待を寄せながら早いうちから床につく。(多分)
正直ルーベラが子供の頃はうるさすぎて眠れなかったので、恐らく今の子達も眠れていないんだろうなぁとは思っている。
深夜は酔っ払った大人がプレゼントを子供たちの枕元へ...というわけには毎回いかず。大概見当違いのところにプレゼントが置かれているので、子供たちは毎朝プレゼントを探す羽目になるとかならないとか。ここ数年プレゼント担当にはなっていないので、どうなってるのかはよく知らないが、洗濯係のチビが一回ルーベラに「ねぇ、僕の友達の家ではプレゼントを探さないんだって。うちのギルドおかしいんじゃないかな。」と尋ねてきたので、申し訳なさしかない。



ルーベラはこれまでのクリスマスの事をぼんやりと考えながら、クリスマスで賑わう広場の警備にあたっていた。もうあと数時間もすれば仕事が終わり、ギルドに戻る事になる。今頃リザを含むギルド職員達(主に室内で働く組)は、大量の料理の調理に追われているところだろう。皆が心待ちにするクリスマスの日に何か良からぬことが起きるかもとは思いたくないものだが、警戒するに越したことはない。
ふと広場の一角を見やると、物乞いの男が道行く人に声をかけていた。どうやら教会でも受け入れてもらえなかったのだろう。しかし道行く人が彼に何かをすることはなく、そそくさとその場を立ち去っていくのみだった。自分や身内のことは考えられるが、赤の他人にまでは気が回らないのが都会に生きる普通の人間だろう。

そんなことを考えていたら、男はこちらに向かってきた。男はボロボロのコートを纏った40代ぐらいの男で、こけた頬が印象的だった。
「慈悲を...」
そう言ってこちらの手を握ってきた。
「俺は神でもなんでもないただの人間だから、慈悲を与えられるような者ではないんだ。済まないな。」
そう言うと男は予測していた答えだといった風にその場を立ち去ろうとした。
「だがもし、もし俺と一緒にこの広場をそうだな...あと2時間ほど警備にあたってくれたら、俺はお礼をしなければいけない。」
「なんだって?」
男は振り返った。
「1人で広場を見張っているのは存外暇なもんでな。どうだい、少し俺に付き合ってはくれないか?」
右手を男に差し出す。
「...」
男は不安げな目をこちらに向けながら、渋々と俺の手を握った。




「へぇ、結構遠いところ出身なんだな。」
「そうなんだよ。ここに来たら何なりと仕事があって、金が稼げると思ってな。勇み足でやって来たのは良いんだけど結局このざまさ。ついには帰るための金も失ってこの街をぶらつき慈悲を乞う日々も1ヶ月ほど過ぎたかな。実家にいればクリスマスも普通に楽しめたろうになぁ。」
男は自嘲気味に笑いながら、訛りの効いた言葉で心の内を打ち明けた。
「そうだったのか。そりゃあ災難だったな...」
「だろう?しかもここんとこ人の冷たさを見せつけられるばかりで、やになっちまう。ホント。」
深いため息。
「ここは人が多いからな。田舎と違ってあまり赤の他人には気を遣わないものだ。俺も最初はどうしたものかと思ったよ。」
「へえ、あんたも田舎の方出身かい。奇遇だね。見たとこ歳も近いようだけど、あんたはこの街で成功したような感じだな。何をしてるんだ?」
「成功だなんてそんなもんじゃないよ。貴族様からは程遠い生活だがまぁ、満足はしているかな。ギルドまとめてんだ。小綺麗な生活よりはよっぽど性に合う。」
「へえ!ギルドをね。ガタイがいいから戦いの何かでもやってるんだろうなぁとは思ってたけど。立派なものだなぁ。」
男は心底感心したような顔をしていたが、すぐに落ち込んだような表情になった。
「同じぐらいの歳の男が頑張ってるっていうのに俺ってやつはよ。」
「そんなことないだろう。身の振りでどうにだって転ぶはずさ。」



こんな調子でだらだらと小話をしていたら、辺りはすっかり暗くなり5時の鐘がなった。
「と、仕事も終わりだ。ありがとうよ、付き合ってくれてよ。」
よっこらしょと腰をあげる。話に熱中したあまりに、いつのまにか座っていたようだ。仕事になってないが、何事もなく終わったからにはまぁ大丈夫だろう。「じゃあ約束の礼をしなきゃな。付いて来てくれるか?えっと...」
名前も聞かずに話こけていたとは呆れた話だ。
「ダレクスだ。で、あんたは...」
「ルーベラだ。行こう。」
そうしてルーベラは出会って2時間ほどの男を連れて、ギルドへと向かっていった。




ギルドの中はいつも以上に慌ただしかった。キッチンどころかラウンジ全てが戦場のようで、食器を運ぶ者、食べ物を運ぶ者、飲み物を運ぶ者、ディナーを今か今かと待ちわびる者で溢れかえっていた。
「あんたらね!座っていたら全部出て来るなんて思ったら大間違いなんだからさっさとこっち来て手伝いなさいよ!」
強気な姉御肌の少女が、椅子に座り両手にフォークとナイフを持っている男衆を怒鳴りつける。
そんな様子をいつもなら穏やかに眺めているリザだったが、今日ばかりはそうはいかない。自身もあと少しで焼きあがるケーキの生地のチェックとパンの盛り付けとその他諸々に追われていた。
「リザさん!これはどうしたらいいですか⁇」
ふと後ろから声をかけられ、振り返るととても重そうな肉の塊が乗った皿を抱えた白竜がそこに居た。
「白竜ちゃん!それは1番奥の机の真ん中あたりに置いておいて!」
「はい!じゃあ、行ってきます!」
「白竜ちゃんそれ重くないーー?大丈夫ーー?」
「大丈夫でーーーす!」
遠くから声が聞こえてきた。彼女の怪力はよく知っているので大丈夫だとは思っていたが、やはり少し心配で気がつけば声をかけていた。
「リザさん大丈夫です?代わりますよ?」
後ろからハスキーボイスが聞こえてきた。
振り返るとそこには顔なじみのキッチン担当の少女がいた。
「大丈夫よーこれぐらい!ありがとうね!さ、ジェンナちゃんは向こうの方を手伝ってきたげて!」
「はーい。」
クリスマス前後は一年で1番忙しいといっても過言ではないため、リザの体調を気遣う声もよく聞く。忙しいのは周りも一緒なのに、気を遣わせてかえって申し訳ないなと感じつつも、やはり自分のことを考えてもらえるのは嬉しい事だった。
「これ最後のお皿ーー!」
誰かが大きな声で叫んでいる。ようやく全て出し終えたようだった。時計を見ると5時半。ラウンジを見やると警備組はほとんど戻ってきていたが、ルーベラの姿が見えなかった。

決して広いとは言えないラウンジに所狭しと並べられた机と机と椅子、椅子、椅子。かなり暑苦しい様子だが、これがギルドのクリスマスイブだ。
「リザさーん!ルーベラさんまだみたいなんすけど、どうします?」
遠くの席から声が聞こえる。
「私が決められることじゃないけど、きっともう直ぐ帰ってくるからあと少しだけ待ってみましょ!」
えーーー!早く食べたいよーー!という子供の声に混じって
酒呑みてえよーー!
という野太い声が聞こえてくるのはさておき、そんなことを言っているうちにルーベラは帰ってきた。
「おーおーすまないな!遅れてしまって!ちょいと知り合いに会ってな。ダレクスっていうんだが、今年のクリスマスはどうやら1人らしいんで、客として招きたいんだがいいよな?」
そう言ってオンボロ切れを着た男をラウンジに引き入れた。
「多い方が楽しいもんな!こっちの席空いてるっすよー!」
少し離れたところから天青が手をブンブンと振っている。
「おー天青!じゃあそっちに行ってもらうなー!」
そう言ってダレクスの方を見ると、彼は信じられないものを見るような顔をして突っ立っていた。
「礼になるかは知らんが、良かったらたくさん食べて飲んで行ってくれ。あんたが故郷に帰れる金が作れるまではここで働いてくれてもいいし、まあそれは後で考えといてくれや。あまり待遇は良くねえかもしれんが、まあ美味いメシだけは保証できる。」
そう言ってダレクスの肩をバンと叩き、天青の居るテーブルへと促す。
「あの手ェ振ってる男の名前は天青っていうんだ。あいつもなかなか不憫なところがある男だが、とにかく豪快で良い奴だよ。色々話してやってくれ。」
ダレクスはいきなりすぎて状況が飲み込めていない風だったが、人混みを掻き分けながらいそいそとテーブルの方へと向かっていった。
「さて、と。」
ダレクスを見送り、愛する人の赤毛を探す。
「ルーベラ!」
見るとキッチンに近い席で手を振るリザが居た。
「みんな貴方のこと待ってたのよ!さあこれ持って!」
ルーベラが席に着くやいなや、リザからジョッキを渡され、立つように促された。
「おうさ。乾杯しないと始まらないな。」
そうしてニカッと笑い、立ち上がる。そして賑やかなラウンジ全体に響き渡る声で
「乾杯!!!!!!!」
と叫ぶと、ボロのラウンジが今にも崩れそうなほど大きな声の乾杯という声が返ってくるのだった。


クリスマスはまだ始まったばかりだ。

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