日常交流
ベッドの傍らの机で揺らめく蝋燭の灯火。
その隣には優しく微笑むお母様。
いつも夢物語を聞かせてくださった私のお母様。
なかなか寝付けなかった私にお母様はいつもお話を聞かせてくださったのです。
「お母様、私が寝るまで側にいてくださいね…?」
そう言ってお母様の手をぎゅっ…と握りしめる。
するとお母様は優しく微笑んで「はいはい」と返事をしながら私の頭を撫でてくださるのです。
暗いお部屋が怖かった。
一人で眠ることができなかった幼い頃の私。
昼間とは違ってしん…と静まり返ったお部屋が怖かった。
暗闇に包まれた自分の部屋が別の世界に見えるようで怖かった。
お母様が側にいれば大丈夫。
お母様は私の手を優しく握りしめてにっこりと優しい微笑みを向けてくださるから怖いものがどこかへ消えてしまうように見えたから…
「お母様?今日もあのお話を聞かせてくださいますか?」
「あら、暗いのは怖いんじゃなかった?」
「暗いのは怖いですけど…でもあのお話は別なんです。」
「ふふ…そうなの?不思議ね?」
お母様が聞かせてくださるお話のなかで特に好きだったお話。
それは暗闇の国の王様が春の国のお姫様を暗闇の世界へ拐ってしまうお話で…
でも私は不思議とこのお話を怖いとは思わなかったのです。
それどころか私にはとても素敵なお話に映って見えて…
お母様が「怖くはないの?」と問えば私は「はい、怖くないです。」と答えた。
お母様が「どうして?」と問いかけてくると「王様が本当はとても優しい人だったからです。」と私は答えた。
するとお母様は優しく微笑み私の頭を撫でて「あなたはいつか暗闇ともお友達になれるわ」と、そう仰ったのです。
「闇は恐ろしいばかりのものではないのよ。」とそう言いながら。
「…あ…貴方は……どなたですか……?」
「お迎えにあがりましたよ…お嬢様っと…。」
「お迎え……?いいえ…存じません…貴方のような方を私は……」
「俺達は傭兵よ。あんたの父親に金で雇われた…ね。」
「…お父様が…?」
「そうそう、大事な大事な娘を助けてくれって頼まれたのさ。
じゃ、大人しく一緒に来てもらおうか?」
そう言うと目の前の男は私の方へ手を伸ばす。
その姿に私は身の危険を感じ取って思わず後ろへと下がってしまった。
何故…?この方はお父様の使いだと…そう言っているのに…
怖い…あの大きな右手が怖い…
震える身体を抑え込むように両腕を掴み、宙に浮いてるような両足にぐっと力を込めてもう一度前を見据え、精一杯声をあげて私は叫ぶ。
「近寄らないで…!!」
だって…おかしいじゃないですか…私を迎えに来たとそう仰るなら…
あの空に舞う黒い影は何ですか…?
お父様は何故邪竜など放ったのでしょうか…?
あれは禍々しいもの…
災いを運ぶ邪悪な存在です…
私を迎えに来ただけと言うならばそのようなものを使わなくても良かったはずです…
ならば思い当たる答えは一つしかありません…
お父様は…お父様は私を連れ戻すと言いながら『戦争を起こそうとしている』…と。
「お父様の元へは戻れません…私は…お父様のお考えが解りません…」
震える声で絞り出すようにそう答えると、男はやれやれと言いながら後頭部をひと掻き。
「じゃ、やっぱ強引に連れていくしかねぇか。」
その言葉を耳にした瞬間、私の背筋が凍りついた。
いけない…ここにいてはいけない…逃げなきゃ…
咄嗟に視界に入った花瓶を男の足元へと投げ屋敷の奥の方へと駆け出した。
後ろの方で声がする。
「逃がすな」「急げ」「闇の主がくる前に」と…
「闇のあるじ…?」
それはもしかして…あの方の事でしょうか…
宵闇の化身のような…穏やかで優しい方…
あの傭兵達はベリル様を恐れている…
何故…?
「ベリル様…」
もう一度お会いしたい…このまま帰るわけには行かない…。
『……ベリル』
『……えっ?』
『……俺の本来の名前だ。普段は偽名を名乗っている。生家に迷惑を掛けるわけにもいかないのでな。名は家を出る時にそこに置いて来た。が―……お前には偽りの方ではなく本名の方を知っていて貰いたい』
私は貴方にまだ私の本当の名前を伝えていない…
私も貴方に本当の名を知ってほしい…
『俺はお前の事を以前から知っていた。お前は俺を知らなかっただろうが。……ある意味で俺はお前が知る以上にお前の事を知っている。だからお前を攫って来た。……あの”家”から』
貴方はいつから私を知っていたのでしょう…?
私はもっと貴方を知りたい…。
貴方は何を知っているのですか…お父様がしようとしていることは一体何なのですか…?
頭のなかがぐるぐるしていてうまく考えが纏まらない…ですがこれだけは解ります…
あの方は…ベリル様は傭兵達が思うような恐ろしい闇の主では無いということ…
宵闇の化身のように私に安らぎを与えてくださるこの世にただ一人のお方だと言うことを…
そう…まるでお母様が語り聞かせてくださった…闇の国の王様のような…
傭兵達に捕まってしまったらきっともうベリル様には会えない…
それだけは嫌です…。
教えて下さい…私はどうしたらいいのですか…?
もう一度貴方に会うにはどうしたらいいのですか…?
その時、ギィ…と音を立てて扉が開き、先程の男の仲間が部屋へと入ってきた。
一瞬戸惑いを見せた隙に男を強く突き飛ばし通路へ飛び出した。
逃げなきゃ…少しでも長く…
夢中になって逃げた先に騒ぎを聞き付けた傭兵達が私の前に姿を現した。
踵を反して逃げようとすると、後ろには先程の男が…
「んじゃ、おとなしく一緒にお家へ帰ろうか?お嬢様…っと…!」
男がそう言った次の瞬間、私は強い衝撃を受け徐々に意識が遠退き目の前が真っ暗になった。
ベリル様…ごめんなさい…
その隣には優しく微笑むお母様。
いつも夢物語を聞かせてくださった私のお母様。
なかなか寝付けなかった私にお母様はいつもお話を聞かせてくださったのです。
「お母様、私が寝るまで側にいてくださいね…?」
そう言ってお母様の手をぎゅっ…と握りしめる。
するとお母様は優しく微笑んで「はいはい」と返事をしながら私の頭を撫でてくださるのです。
暗いお部屋が怖かった。
一人で眠ることができなかった幼い頃の私。
昼間とは違ってしん…と静まり返ったお部屋が怖かった。
暗闇に包まれた自分の部屋が別の世界に見えるようで怖かった。
お母様が側にいれば大丈夫。
お母様は私の手を優しく握りしめてにっこりと優しい微笑みを向けてくださるから怖いものがどこかへ消えてしまうように見えたから…
「お母様?今日もあのお話を聞かせてくださいますか?」
「あら、暗いのは怖いんじゃなかった?」
「暗いのは怖いですけど…でもあのお話は別なんです。」
「ふふ…そうなの?不思議ね?」
お母様が聞かせてくださるお話のなかで特に好きだったお話。
それは暗闇の国の王様が春の国のお姫様を暗闇の世界へ拐ってしまうお話で…
でも私は不思議とこのお話を怖いとは思わなかったのです。
それどころか私にはとても素敵なお話に映って見えて…
お母様が「怖くはないの?」と問えば私は「はい、怖くないです。」と答えた。
お母様が「どうして?」と問いかけてくると「王様が本当はとても優しい人だったからです。」と私は答えた。
するとお母様は優しく微笑み私の頭を撫でて「あなたはいつか暗闇ともお友達になれるわ」と、そう仰ったのです。
「闇は恐ろしいばかりのものではないのよ。」とそう言いながら。
「…あ…貴方は……どなたですか……?」
「お迎えにあがりましたよ…お嬢様っと…。」
「お迎え……?いいえ…存じません…貴方のような方を私は……」
「俺達は傭兵よ。あんたの父親に金で雇われた…ね。」
「…お父様が…?」
「そうそう、大事な大事な娘を助けてくれって頼まれたのさ。
じゃ、大人しく一緒に来てもらおうか?」
そう言うと目の前の男は私の方へ手を伸ばす。
その姿に私は身の危険を感じ取って思わず後ろへと下がってしまった。
何故…?この方はお父様の使いだと…そう言っているのに…
怖い…あの大きな右手が怖い…
震える身体を抑え込むように両腕を掴み、宙に浮いてるような両足にぐっと力を込めてもう一度前を見据え、精一杯声をあげて私は叫ぶ。
「近寄らないで…!!」
だって…おかしいじゃないですか…私を迎えに来たとそう仰るなら…
あの空に舞う黒い影は何ですか…?
お父様は何故邪竜など放ったのでしょうか…?
あれは禍々しいもの…
災いを運ぶ邪悪な存在です…
私を迎えに来ただけと言うならばそのようなものを使わなくても良かったはずです…
ならば思い当たる答えは一つしかありません…
お父様は…お父様は私を連れ戻すと言いながら『戦争を起こそうとしている』…と。
「お父様の元へは戻れません…私は…お父様のお考えが解りません…」
震える声で絞り出すようにそう答えると、男はやれやれと言いながら後頭部をひと掻き。
「じゃ、やっぱ強引に連れていくしかねぇか。」
その言葉を耳にした瞬間、私の背筋が凍りついた。
いけない…ここにいてはいけない…逃げなきゃ…
咄嗟に視界に入った花瓶を男の足元へと投げ屋敷の奥の方へと駆け出した。
後ろの方で声がする。
「逃がすな」「急げ」「闇の主がくる前に」と…
「闇のあるじ…?」
それはもしかして…あの方の事でしょうか…
宵闇の化身のような…穏やかで優しい方…
あの傭兵達はベリル様を恐れている…
何故…?
「ベリル様…」
もう一度お会いしたい…このまま帰るわけには行かない…。
『……ベリル』
『……えっ?』
『……俺の本来の名前だ。普段は偽名を名乗っている。生家に迷惑を掛けるわけにもいかないのでな。名は家を出る時にそこに置いて来た。が―……お前には偽りの方ではなく本名の方を知っていて貰いたい』
私は貴方にまだ私の本当の名前を伝えていない…
私も貴方に本当の名を知ってほしい…
『俺はお前の事を以前から知っていた。お前は俺を知らなかっただろうが。……ある意味で俺はお前が知る以上にお前の事を知っている。だからお前を攫って来た。……あの”家”から』
貴方はいつから私を知っていたのでしょう…?
私はもっと貴方を知りたい…。
貴方は何を知っているのですか…お父様がしようとしていることは一体何なのですか…?
頭のなかがぐるぐるしていてうまく考えが纏まらない…ですがこれだけは解ります…
あの方は…ベリル様は傭兵達が思うような恐ろしい闇の主では無いということ…
宵闇の化身のように私に安らぎを与えてくださるこの世にただ一人のお方だと言うことを…
そう…まるでお母様が語り聞かせてくださった…闇の国の王様のような…
傭兵達に捕まってしまったらきっともうベリル様には会えない…
それだけは嫌です…。
教えて下さい…私はどうしたらいいのですか…?
もう一度貴方に会うにはどうしたらいいのですか…?
その時、ギィ…と音を立てて扉が開き、先程の男の仲間が部屋へと入ってきた。
一瞬戸惑いを見せた隙に男を強く突き飛ばし通路へ飛び出した。
逃げなきゃ…少しでも長く…
夢中になって逃げた先に騒ぎを聞き付けた傭兵達が私の前に姿を現した。
踵を反して逃げようとすると、後ろには先程の男が…
「んじゃ、おとなしく一緒にお家へ帰ろうか?お嬢様…っと…!」
男がそう言った次の瞬間、私は強い衝撃を受け徐々に意識が遠退き目の前が真っ暗になった。
ベリル様…ごめんなさい…
