日常交流
上から来られる方は全ての者の上におられる。地から出る者は地に属し、地に属する者として話す。天から来られる方は全ての者の上におられる。
この方は見たこと、聞いたことを証されるが、誰しもその証を受け入れなさい。その証を受け入れる者は神が真実な方である事を確認したのである。
神がお遣わしになった方は、神の言葉を語られる。神が霊を限りなくお与えになるからである。
御父は御子を愛しており、全てをその手にお与えになった。御子を信じる者は永遠の命を得る。しかし、御子に聞き従わない者は命を預かる事はなく、却って神の怒りがその者の上に留まる。
【ヨハネによる福音書 第3章】
一つ、浴室の天井から落ちた水滴が浴槽の水の上に同心円の波紋を生み出した。僅かにさざなむ水面に浮かんでいた影が消えて声が一つ生まれる。小さくか細い切ない声だ。自分の背筋が粟立つほどに甘い声が、俺の名前を呼んでいた。
「シャヘ……ル……うんっ……」
「……本当に何度こうされても慣れないようだな、リリスは」
「だってそんなところ……シャヘル以外は触れな……あっ……」
我慢しても漏れ出てしまう声を押えようとしたのだろうか。口を塞ぐように覆っている彼女の手を片手で外し下ろして、もう片方の手を使い自身の指の腹で、柔らかに膨らむ彼女の胸の先を彩っている突起を擦り、弾き、僅かに抓った。
更に甘い声が彼女の口から零れたことを確認しながら、白く細い彼女の首筋に舌を這わせて、胸にある手を腹部へ、そしてその下へとゆっくりと滑らせながら下ろしていく。ピクリ、と腕に中で行き場のない彼女の身体が跳ねた。
「あっ……シャヘ……ルそこ、は……」
彼女の頬が上気する。赤く染まった彼女の耳を甘く噛み、耳の内側に舌先を出し入れするのと同時に指で秘所を暴き、先程触れた突起よりも感じるであろう突起を抓る。どこまでも甘く、聞く者を、俺を魅了する声が漏れた。浴槽に張られている湯とは違う、それよりも粘度が高い水が指先に絡んだ。また一つ、天井から落ちた雫が水面に波紋を描く。
「あっ……あまり、いじっちゃ……」
「駄目、か?こんなにも湿らせておいて?……悪い子だ……」
「あああっ……!」
秘所の中とその上にある突起とを順番に指でいじり、遊ぶ。徐々に指の滑りが良くなっていくのを確認しながら入れる指の数を増やした。1本、2本、そして3本と。彼女の中でバラバラに動かし、入り口の壁を爪で傷付けないように静かに擦る。粘土の高い蜜が自分の指に絡んでいく。
「しゃへ……る……?」
「……このままこの場所でお前を可愛がるのもいいが……そうするとお前は気を失うだろう?のぼせて、な」
生理的なものなのだろう。眦に涙を溜め青い瞳を潤ませながら俺を見上げている彼女を浴槽から掬うように抱き上げ、零れた涙の跡に口付けた。……そろそろ限界だろう。一度浴室でいじめ続けた結果、すっかりのぼせさせてしまった事があったからな……
「なに場所を変えるだけだ。お前もこのままで許してもらえるとは思っていまい?……おいで、リリス」
お前も思ってはいないだろう?このまま解放されるとは。なあ、リリス……?
白いシーツの海に彼女の身体が沈んでいく。身体についていた水滴は軽く拭ってやったとはいえ、まだ髪は乾いていない。お互いに。水分をたっぷり含んだ髪から滴り落ちた水滴が白い肢体の上で、ランプの微かな灯りを反射し煌めいていた。宝石の玉のように。星のように僅かに光を放っている。
深いキスを交えた。初めてあちらでリリスに会った時にしたように。あの時とは違い血の味も酒の味もしないが、あの時よりも強い甘みを感じる。自分の頭が痴れるほどに。血も酒もない。交えるものはお互いの唾液だけだというのに。
彼女の口の中を犯すように暴き舌を絡め、自身の唾液を彼女に飲ませた。自身でも彼女の唾液を飲み込んで。……酷く、甘い。
「あああっ……あまり、みないで……」
「何故?こんなにも綺麗に咲いているというのに?……綺麗だ、リリス。乱れている、お前は」
彼女の足を広げ、持ち上げた。先程浴槽の中では見えなかった桃色の花が自身の眼下で広がっている。淫らで妖艶な肉の花が、ひくつきながら。
その花に指ではなく舌先で触れれば、花からいとも容易く蜜が溢れた。十分過ぎるぐらいに風呂の中で慣らし解したつもりだったが……まだ濡れて蜜を出すか……
「シャヘル……ああっ……シャヘル……!」
甘い声で縋るように俺へと腕を伸ばす彼女を捕まえて細い指に自身の武骨な指を絡めた。互いに揃いの銀の輪がはまった指を。自身へ甘い苦痛を与えている男に助けを乞うその姿が酷く愚かで……堪らなく愛おしい。愛おしくて、仕方がない。
「ああ……ここにいる。お前の前に。お前のそばに、リリス」
今度こそお前のそばに俺はいる。その為にあの場所からここへと来た。お前を見つめるために旅をし、お前を見つけた。今度こそ本当の妻にする為に。
彼女の秘所へ膨らんだ自身を宛がい、身体を進め互いの身体を密着させた。お互いの心音が聞こえてしまうほど近くまで。身体を浮かし打ち付け律動し、何度目になるか分からない口付けを交えて。上でも、下でも繋がって。
ああ……俺はこんなにもお前を愛している。だからこうしてお前を淫らに乱して滅茶苦茶にしてやるたくなる。
自身が欲を吐き出すその少し前に事切れるように意識を飛ばした愛おしい女の身体を胸に抱いていた。欲を一滴残らず中へと注いだその後に。俺の欲を受け止めてくれた……狂気を沈めてくれるただ一人の存在を。
夜の底へ二人で沈む。あの時とそれは変わっていない。だが、あの時とは明確に違う夜の底に。渇く夜ではなく満ちる夜に。滿汐の夜に。
「シャヘ……ル……」
「……起きたのか。まだ眠っていていい。朝まで時間がある」
「シャヘル……あのね……私、前もあなたとこうした事があったような……そんな気がするの……あなたと出会うずっと前に……あなたと……こうして……」
青い光が差し込んでいた。夜と朝とを隔てる青い狭間の光が。
長い睫毛を震わせて瞳を僅かに開いた彼女の頬を撫ぜ口付けを落とす。おやすみと囁くその代わりに。
そう……お前は何も知らなくていい。震えて眠るといい。俺の腕の中で。
「お前は……俺のものだ、リリス」
これまでも、これからも、未来永劫。
≪シャヘル・ナザレ≫
