日常交流

I am
私の話をするとしよう。

私は小さい頃から家を出る機会が少なかった。出してくれなかった、と言った方が正しいか。家で一日過ごすことは楽しくないと思われがちだが、実際はそうでもない。庭で弓を学んだり、お茶を楽しんだり、箱庭の中でそれなりに生活は充実していた。
ただ、私の世界は狭すぎたのだ。出窓から見える景色は幼い私には届かなく、背伸びやジャンプをしても見えないものだった。成長するにつれ伸びる身長は、いつしか何もしなくてもそれを見るに足りるものとなる。
広い。一言で表すのであれば、それが妥当だろう。私の家の何倍も広く、先が見えない、そんな世界。視界に映らない先にもまだそれが続いているとは思えないほどに、そこは広く、遠かった。

彼女は言った。外は危険な場所だ、と。
私は言った。だから私は外へ出られないのか、と。
彼女は言った。私があなたを守る力があればいつかきっと、と。

その子は私の妹だとじいやは話した。私と同じ髪色を持ち、しかしながらそのに腕は見たことのないものだった。私とはまるで違う。
その時、私は初めて種族を知った。種族、というものはわかっていた。じいやはコウモリであったから、陽の明るいうちは行動ができない人だったから。
だけど種族は多く存在した。いや、種族だけではない……人間は多く存在する。窓から眺めたあの景色、ぽつりぽつりと動くそれらは、人間のもの。ああ、私はどうして何も知らないままここで過ごしているのだろう。己が嫌いになり、この家が嫌いになった。
だけど彼女は……妹は言ってくれた。私を守ることができる力があれば、いつかきっと外へ、と。
妹は私の騎士となり、私の側にいてくれた。家の繋がりで友達もできた。私は何一つ不自由することなく生活し、またひとつ、またひとつと成長した。

さて、問題を出そう。はたして私は『外』へ出たのだろうか?



ーーー



知りたいと思った。
目の前の男はそう告げた。私は目を細め、睨んだ。快く思うものでもあるまい、私のことを知りたいと言うのだから。しかも服を買ってくれた。警戒しない訳がない。
「……線を引くのは私を知った後に、か。馬鹿馬鹿しい。だってそうだろう?散々私に言っておきながら、物などで私を釣ろうとする。今のお前は、私という犬に餌を与えているようなものだ」
そう吐き捨てて、ひとつ息を吐いた。何故だろう、何故私は素直になれないのだろう。信じられないのか、成り行きで話すことになったこの男が?どうなんだ?私は……私の思ったことをちゃんと口に出しているか?
……否、口に出さずとも行動はしている。私が今立っている場所は建物の中ではない。そうだろう?
窓のカーテンを閉めきったことを思い出した。いつか見た芋と景色を思い出した。私が、私が本当に望んだものは何だったのか。
「だが……お前は私を悪い奴には見えないと言った」
「ああ。言った」
「その根拠はわからないが……私もお前を、悪い奴だとは思わない。不思議なものだが、な」
「……それって、つまり」
だから、話をするとしよう。お前にだけ、特別に。私には『何もない』ということを。




「ー……つまらんだろう?私という人間は。偉そうな口を叩きながら、この程度しか話すことがない」
一言一言に毒を吐くかのように、話した。さぞ残念だと思っただろう、それでも構わない。こうして連れてこられたにも関わらず、ここで立つ私は右も左もわからない『変な奴』なのだから。
「私の知らないことは多くある。それに対してお前がどう思おうが、私の知ったことではない。それがお前の言う線引きだろうから」
風が私の髪を揺らした。だけど目の前の男が不器用に巻いた首のそれが、私の暖を守ってくれた。こいつのことは嫌いだ、だけど憎めない、悪い奴ではない……はじめは気づかなかったけれど、こいつなりに私に気を遣ってくれている。その気持ちに応えないままでいると、私は私のことがもっと嫌いになりそうだった。
「だが、知りたい。お前が私のことを知りたいと言うのであれば、私もお前を知りたい。お前だけじゃない、私はこの外の世界を知りたい。この首に巻いたものの温かさだって、お前がくれたものだ。私は……」
こんなにも温かいものがあるなんて、知らなかったから。
「……ルマンド」
「え?」
「ルマンド・オヌール。いつかお前は自らを名乗っただろう?なに、私も名乗る決心がついた……それだけだ」

さて、問題を出そう。はたして私は『外』へ出れたのだろうか?
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