日常交流

私には小さな頃から仲の良い女の子の友達が二人いた。
白くて美しい髪と長い耳を持つ兎の亜人の姉妹…クロトとユースティティス。


「クロト!ユースお姉ちゃん!遊びにきたよー!」


私はよく赤レンガの家にちょくちょく足を運んでいた。

クロトとユースティティスの二人は両親がすでにこの世におらず、二人だけで暮らしていた。

そしてクロトは子供の頃から身体が弱く、外に出ることが出来ない子だった。

だから私は彼女を楽しませようと花を摘んできたり、祖父の本棚から珍しい本を探しては二人の元へ足を運ぶのが日課になった。



「今日はね、山で野苺を見つけたんだよ!ほら!」

そう言って二人の前にハンカチで包んだ野苺を差し出すと、クロトは目を輝かせながらそれを見つめていた。


「わあ!これなに?食べられるの?」

「これは野苺よクロト。私もずっと食べてなかったけど、甘くて美味しいのよ!」

そう言ってユースが野苺を一つ摘まんで口に放り込む。
幸せそうに頬を緩める彼女の表情を見つめ、クロトも続いて野苺を口に運んだ。


「~~!ほんとだ…!甘くて美味しい…!」


二人の表情を見ていた私も思わず頬が緩む。

とても喜んで貰えたのが嬉しくて、私はハンカチに包んだ野苺を二人に手渡した。


「これ二人にあげる!」


「いいの?」


「うん、これは家の裏に実ってた野苺だから、私はまた採りに行けるから大丈夫!」


そう答えると二人は嬉しそうに野苺を受け取ってくれた。


私は二人の笑顔が好きだった。

両親がおらず、二人だけで暮らしている彼女たちの姿に自分の境遇を重ねているということもあったのだろう…
特に外で一緒に遊べないクロトの力になりたかったのだ。




「あ…あのね?クロトとユースお姉ちゃんはお泊まりってしたことある?」


唐突に切り出した私に二人は思考が追い付いていないのか、首を傾げながら「ないけど、どうして?」と答えた。


「あのね、二人にはいつもお世話になってるから、おじいちゃんが家にお泊まりに来ないかって。」


「お泊まり?楽しそう!」


「本当に行ってもいいの?」


私の提案に二人は白い耳をピョコピョコと動かし、瞳を輝かせながら口々に答えた。

どうやら良い返事をもらえそうだと私も笑顔を浮かべながら「いいよ!」と答える。

その言葉にクロトはとても嬉しそうに飛び跳ね、身体に障るからとユースに叱られた。
それでも興奮が抑えられないようで、クロトは目を輝かせながら私に問いかけてきた。



「ねえ!いつお泊まりに行けばいいの?」


「えーと…お家をお片付けしてからだから、明後日来て欲しいって言ってたよ。」


「明後日ね!絶対いく!ね?お姉ちゃん!」


「そうね、うちの野菜も持っていくわ!お泊まりさせてもらうだけじゃ悪いもの。」


「じゃあ私、頑張ってお家をお片付けして待ってるね!」


そう言ってその日は二人と別れた。


私は明後日の事が楽しみで仕方なかった。きっとその時は鼻歌も歌ってただろう。そのくらい浮かれていたのは確かだ。

だから大きな黒い犬の尻尾を踏んでたなんて全く気づかなかった。


突然後ろから吠えられて驚いて振り返ると、そこにはこちらに向かって牙を剥く黒犬の姿があった。


「…!?」


状況が理解出来ない私はただ黒犬の唸り声に恐怖を覚えその場に立ち尽くした。

黒犬はじりじりと距離を詰め、姿勢を低くして今にも飛びかかりそうだった。


その時、黒犬の足元に一つのとても固そうな木の実が飛んできた。


飛びかかろうとしていた黒犬はそれに驚き身を引く、すると間髪入れずもう一つ木の実が飛んできた。

それが当たることはなかったが、どこからか飛んでくる木の実に驚いた黒犬は踵を返して去っていった。



「おい、お前!」


突然降りかかってきた声に驚いてビクリと身体が跳ねる。キョロキョロと周囲を見渡すが、声の主らしき人物はどこにもいない。


「どこを見ているんだ、こっちだ。」


再び聞こえた声のする方へ視線を向ける。
そこにいたのは銀色の髪と青い瞳が印象的な男の子だった。
どうやら彼は木に実っていた木の実を投げていたらしく、まだ数個の木の実を抱えたままこちらを見ていた。


その姿を目にした私は、彼が犬を追い払ってくれたということを理解し、お礼の言葉を口にしようとしたのだが…


「あの…ありが「お前はバカなのか?あんな大きな犬を見ていなかったとは…不注意にもほどがあるだろ。」


言い終わる前にそう言われて、私は彼の言葉に思わず頬を膨らませ「バカじゃないもん!!」とむきになりながらそう一言彼に向かって叫び、再び家に向かって駆け出した。




幸福だった気持ちがどこかへ飛んでいってしまったようで、その日はずっとむくれていたという事を私は今でもはっきりと覚えている。
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