日常交流

……嫌……もう嫌……。


私の為に誰かが死ぬのは……。



誰も助けてくれない……深い深い闇の中で私は一人……。



ああ……なにかしら?


何か温かいものが手に触れて……。



ハッ…!



ふと視線を落とせば、私の手には一振りのナイフが握られ、両手は紅い血で染まっていた。


目の前には大きな山猫の亡骸。



私が殺した…?



また私は私の知らない私によって命を殺めてしまったのか…?



「あ……あぁ……」


恐怖に震え、その場に立ち尽くす。

手にしたナイフがするりと抜けて、地面に突き刺さる。




「……私……私は……どうして……。」



「いかがなさいましたか?ミルファス様。」



不意にかけられた声に振り返ると、そこに立っていたのは屋敷のメイド。



「…お前は…どうしてここに…?」



そう問いかければ彼女は私の側へと歩み寄り、私の右手に触れながらこう言った。


「何も恐れることはありませんミルファス様。

もうすぐ貴女の願いが叶うのです。」


「私の願い…?」


「ええ……。」


私がこの目の前に立つ不思議なメイドに問いかけると、彼女は怪しい笑みを浮かべつつこう言葉を口にした。


「力も、理想も、そしてあなたが最も欲しいと願う愛も。
それら全てが貴女様のものになるのです。
どうですか?とても素晴らしい事でしょう…?

今この世は乱世。力こそ全てなのです。」



「一体…何を言っている…?
お前は何者なんだ…?」


「何も不安に思う必要はありません…ミルファス様。

全てを委ねるのです。
この刃を手に、憎い憎い獣共を殺して仕舞いましょう?

ねえ?ミルファス様。」


ドクン…!!


その瞬間私の心臓が強く跳ねた。


憎い獣…?


ああ……そうだ……私から全て奪った穢らわしい獣共を全てこの世から……。


獣は私の大切なものを奪う穢らわしい存在……。


狡く、醜く、そして残酷で……


あの女のように……私の全てをいつかまた奪いに来る……

そう……。

そうだ……そうなる前に……私は……私は……。


メイドに手渡された細剣を手に私の意識は蝕まれていく。






『……フフフ。
そう、お前の言うとおり……。
全て委ねれば苦痛など感じない。
行こうか、エリカ。』



「はい、ミルファス様。」







深い深い闇の中。


私の意識はゆっくり ゆっくりと沈む。


沈む意識の中、遠くで呼ぶ声が聞こえる。


重い瞼をゆっくりと開けば、そこに見えたのは遠い過去の幻。


金の髪と黒い髪の若い男が、竜の卵を抱き抱えて私に向かって微笑む。


私はまだ幼い子供で、竜の卵を見るのは初めてだった。


「ミルファスお嬢さん、竜の卵を見るのは初めてだろ?

ほら、触ってみな、温かいだろ。」



そう言われて思わず手を伸ばす。



もう少しで卵に触れるだろうというその時、私の意識は再び途絶えた……。
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