日常交流


鏡の前で髪を鋤く。

メイドの細指に金の髪。

さらり さらり 解かれる黄金。

その感触がなんとも心地よく、思わず瞼を落とす。





それから先の事は覚えていない。







赤い赤い血。

ポタリ ポタリと滴る赤い血。


手にはナイフ。


私はなにをしていた?



目の前には血にまみれた獣の姿。


これは狼?私が狼を殺したのか…?



「これはどうした事だ…?私は何故森にいる…?この獣を何故殺した…?」


そう呟くと同時に身体が震える。

屋敷にいたあの時から今に至るまでの記憶が全く思い出せない。



「何故…?」




まるで自分が自分で無くなったかのような得体の知れない恐怖が沸き上がり、私はナイフを捨てて両腕を抱き抱えた。

そして初めて気づいた。

屋敷に居たときに着ていたドレスではなく、深紅の軍服を身に纏っていたという事に。


震えが止まらない。




目の前のこの獣が、もし人だったら…?



私はいずれ何者かの支配を受けて自分を失うのか?


自分の知らない間に誰かを殺して罪を重ねるようになるのか…!?


もしそうなったら……。



「……また失ってしまう……。」



自分の愛する者をこの手で殺してしまう……。


それが何より私は怖い。



「誰か…誰か…助けて……。



このままでは私は…私でなくなってしまう……。


…………エールリッヒ…。」




頬を伝う涙が地に落ちる。

震える身体を抱えたまま私は再び意識を失った。



最後に口にしたのは幼い頃から想いを寄せる彼の人の名だった。




『……獣

穢らわしい存在

私から全てを奪った憎い獣…

いずれこの世の全ての獣を紅く……紅く染め上げてあげる

……フフフ……
アハハ……!』
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