日常交流
「ほら白竜!ちゃんと手元見て切るんだよ!」
「はい…!」
慣れない手つきで包丁を握り、まな板に乗せられた野菜に向かって力を込めてそれを振り下ろすと、小気味の良い音と共に野菜は真っ二つに別れた。
しかし良く見てみると、野菜の下に敷かれたまな板も一緒に真っ二つに別れている。
「まあ、なんというか、最初に比べたら随分と良くなったよ。
始めたばっかりの頃はテーブルも一緒に真っ二つだったんだ。
まさかそんな華奢な身体でうちの野郎どもに負けず劣らず力が強いなんて思わなかったからねぇ…ホント、びっくりしちまったよ。」
「あのときは本当にすみませんでした…
リザさんのお手伝いをさせて欲しいって言ったのに、逆に迷惑かけてしまいました。」
リザさんにそう言われて思い起こしてみると、確かに私がギルドに来た頃は失敗の連続で、壁に穴が開かない日は無かった。
食事を運んで欲しいと言われればテーブルを破壊し、花瓶に花を飾って欲しいと言われれば指先ひとつで花瓶を割り、ちょっと扉を開けてくれと頼まれれば扉をまるごと外してしまったり…
一番酷かったのは、つまづいてそのまま転んでしまって…部屋の壁を破壊して、隣の部屋で休憩していたフェリオスタさんにまで迷惑をかけたときかな…。
とにかく力の加減ができなくて…。
このままでは良くないと言われて始まったのが、料理の練習だった。
「力加減を覚えるなら料理が一番だよ!」
そう言われて始まった料理の練習だけど、実を言うとまだまともに野菜を切れた試しがない。
先程のようにまな板も一緒に切ってしまうのが今の私の精一杯。
でもリザさんは私をキツく叱ったりせず、「上手くなってるよ!」「もっと自信を持ちな!」って言いながら私を励ましてくれる。
一時はギルドから出ていこうかなって考えた私だったけど、リザさんに励まされる度にもっと頑張らなきゃって思うようになって…。
頑張って力の加減を覚えようと努力はしているけれど、このままではギルドの方が先に壊れてしまって、リザさんやルーベラさんにもっと迷惑をかけるんじゃないかと不安だった。
ある日、いつものように広場で躍りを踊った後の事。
私の躍りを見ていたお客さんの一人が、とあるお店の噂話をしているのを耳にした。
この街からそれほど離れていない村に、不思議な店があるのだと…。
とても美味しいパン屋だったそうなのだが、行く先先で魔物に襲われて困っていた旅人に、御守りを一つサービスしてくれたそうで、それからこの街に着くまで一度も魔物に出会うことが無かったのだと。
私はそんな不思議な店があるなら、もしかしたらこの力を押さえられるアイテムが売っているのではないだろうかと考えて、その店に行ってみる事にした。
††††††††††††††††
「おい、どこに行くんだ?」
東の門に足を運んだ私を呼び止めたのは、もう見慣れた筈のあの人だった。
「あんたが東門に来るなんて、珍しい事もあったもんだな。」
そう言われて思わず視線を落とす。
だが、ここはきちんと説明しなくてはいけないと思った私は事の経緯を彼に話した。
すると彼は「成る程ね…」と一言呟くと、左手で頭を軽く掻きつつ言葉を続けた。
「確かにあんた、この間はフェリオスタの部屋の壁ぶち抜いてたもんな。
そりゃ気にしない方が無理ってもんだ。
…けどな、この先レーベンフルスまで結構距離があるし、魔物だって出る。
あんたみたいなひ弱…
かどうかはわからねぇが……
俺が言いたいのは、女一人で行くようなとこじゃねぇって事だ。
世の中には、ドラゴンハンターなんてやつも居たりするからな。」
「ドラゴンハンター?」
聞き慣れない言葉に思わず言葉を返すと、彼は吐き捨てるように私の問いに答えた。
「俺達竜族を専門に狩る闇商人がいるんだよ。
竜の角、鱗、翼…そういうのを剥ぎ取って裏の世界で売り付ける。
俺らにとっては迷惑な輩さ。
特にあんたみたいな変わった羽根を持ってる竜族なんかはいい値で売れるだろうよ。」
そこまで言われて私は血の気が引いた。
そんな恐ろしい話を今まで一度も聞いたことがなかったから…
それでもどうしてもその不思議な店があるという村に行ってみたかった私は、無理を承知で彼にこう言葉を返した。
「じゃあ…天青さんも…一緒に来てくれませんか?」
「だから大人しくリザさんの所に……って…んん?
……あんた、今なんて言った?」
「私と一緒にお買い物に来て欲しいんです。
えっと……駄目ですか?
知らない人と行くより、貴方と一緒だったら私…安心できるんですけど…」
「……つまり、行くってとこは変わらねぇって事だな…。」
そう言うと彼は私に背を向け、その場を離れようと歩を進める。
立ち去ろうとする彼の姿をそのまま見送ろうとした私だったが、彼は突然足を止め、こちらに振り返ることなく低い声でポツリと呟いた。
「…明日にしとけ。」
「えっ…?」
「俺は明日非番だからな。
久しぶりの休みだしたまには惰眠を貪ろうかと思ってたが…仕方ねぇからついてってやる。
あんたの事だから、俺が言っても一人で行くだろうからな。
もしそれで何かあったら後味悪いしな。」
相変わらずのぶっきらぼうな口調で言葉を返す彼に、私は思わずクスリと笑みを溢し、一言「はい!」と返事を返した。
「はい…!」
慣れない手つきで包丁を握り、まな板に乗せられた野菜に向かって力を込めてそれを振り下ろすと、小気味の良い音と共に野菜は真っ二つに別れた。
しかし良く見てみると、野菜の下に敷かれたまな板も一緒に真っ二つに別れている。
「まあ、なんというか、最初に比べたら随分と良くなったよ。
始めたばっかりの頃はテーブルも一緒に真っ二つだったんだ。
まさかそんな華奢な身体でうちの野郎どもに負けず劣らず力が強いなんて思わなかったからねぇ…ホント、びっくりしちまったよ。」
「あのときは本当にすみませんでした…
リザさんのお手伝いをさせて欲しいって言ったのに、逆に迷惑かけてしまいました。」
リザさんにそう言われて思い起こしてみると、確かに私がギルドに来た頃は失敗の連続で、壁に穴が開かない日は無かった。
食事を運んで欲しいと言われればテーブルを破壊し、花瓶に花を飾って欲しいと言われれば指先ひとつで花瓶を割り、ちょっと扉を開けてくれと頼まれれば扉をまるごと外してしまったり…
一番酷かったのは、つまづいてそのまま転んでしまって…部屋の壁を破壊して、隣の部屋で休憩していたフェリオスタさんにまで迷惑をかけたときかな…。
とにかく力の加減ができなくて…。
このままでは良くないと言われて始まったのが、料理の練習だった。
「力加減を覚えるなら料理が一番だよ!」
そう言われて始まった料理の練習だけど、実を言うとまだまともに野菜を切れた試しがない。
先程のようにまな板も一緒に切ってしまうのが今の私の精一杯。
でもリザさんは私をキツく叱ったりせず、「上手くなってるよ!」「もっと自信を持ちな!」って言いながら私を励ましてくれる。
一時はギルドから出ていこうかなって考えた私だったけど、リザさんに励まされる度にもっと頑張らなきゃって思うようになって…。
頑張って力の加減を覚えようと努力はしているけれど、このままではギルドの方が先に壊れてしまって、リザさんやルーベラさんにもっと迷惑をかけるんじゃないかと不安だった。
ある日、いつものように広場で躍りを踊った後の事。
私の躍りを見ていたお客さんの一人が、とあるお店の噂話をしているのを耳にした。
この街からそれほど離れていない村に、不思議な店があるのだと…。
とても美味しいパン屋だったそうなのだが、行く先先で魔物に襲われて困っていた旅人に、御守りを一つサービスしてくれたそうで、それからこの街に着くまで一度も魔物に出会うことが無かったのだと。
私はそんな不思議な店があるなら、もしかしたらこの力を押さえられるアイテムが売っているのではないだろうかと考えて、その店に行ってみる事にした。
††††††††††††††††
「おい、どこに行くんだ?」
東の門に足を運んだ私を呼び止めたのは、もう見慣れた筈のあの人だった。
「あんたが東門に来るなんて、珍しい事もあったもんだな。」
そう言われて思わず視線を落とす。
だが、ここはきちんと説明しなくてはいけないと思った私は事の経緯を彼に話した。
すると彼は「成る程ね…」と一言呟くと、左手で頭を軽く掻きつつ言葉を続けた。
「確かにあんた、この間はフェリオスタの部屋の壁ぶち抜いてたもんな。
そりゃ気にしない方が無理ってもんだ。
…けどな、この先レーベンフルスまで結構距離があるし、魔物だって出る。
あんたみたいなひ弱…
かどうかはわからねぇが……
俺が言いたいのは、女一人で行くようなとこじゃねぇって事だ。
世の中には、ドラゴンハンターなんてやつも居たりするからな。」
「ドラゴンハンター?」
聞き慣れない言葉に思わず言葉を返すと、彼は吐き捨てるように私の問いに答えた。
「俺達竜族を専門に狩る闇商人がいるんだよ。
竜の角、鱗、翼…そういうのを剥ぎ取って裏の世界で売り付ける。
俺らにとっては迷惑な輩さ。
特にあんたみたいな変わった羽根を持ってる竜族なんかはいい値で売れるだろうよ。」
そこまで言われて私は血の気が引いた。
そんな恐ろしい話を今まで一度も聞いたことがなかったから…
それでもどうしてもその不思議な店があるという村に行ってみたかった私は、無理を承知で彼にこう言葉を返した。
「じゃあ…天青さんも…一緒に来てくれませんか?」
「だから大人しくリザさんの所に……って…んん?
……あんた、今なんて言った?」
「私と一緒にお買い物に来て欲しいんです。
えっと……駄目ですか?
知らない人と行くより、貴方と一緒だったら私…安心できるんですけど…」
「……つまり、行くってとこは変わらねぇって事だな…。」
そう言うと彼は私に背を向け、その場を離れようと歩を進める。
立ち去ろうとする彼の姿をそのまま見送ろうとした私だったが、彼は突然足を止め、こちらに振り返ることなく低い声でポツリと呟いた。
「…明日にしとけ。」
「えっ…?」
「俺は明日非番だからな。
久しぶりの休みだしたまには惰眠を貪ろうかと思ってたが…仕方ねぇからついてってやる。
あんたの事だから、俺が言っても一人で行くだろうからな。
もしそれで何かあったら後味悪いしな。」
相変わらずのぶっきらぼうな口調で言葉を返す彼に、私は思わずクスリと笑みを溢し、一言「はい!」と返事を返した。
