日常交流

Do not disappear



「ねぇ、サンソン。サンソン……」
「そんなつらそうな目を向けても駄目です。ほら、残さず食べましょう」
「……サンソンは優しいけど、こういう時はちょっとキライかも」
セティのことを思ってくれている。それはセティでもなんとなくわかるんだけど、やっぱり……お野菜は、苦手だなぁ。

セティのおうちは、いつもふたりぼっち。セティと、サンソン。サンソンはいつの間にか家にいて、セティと一緒にいてくれる人。
ご飯を食べるときも一緒だし、寝るときも一緒。サンソンったら寂しがりやさんだから、セティが一緒ににいてあげないと、泣いちゃうんだよ。可愛いでしょ?だから腹いせに、セティのご飯にお野菜を入れてくるの。
「サンソン、サンソン。ご飯の後は……」
「そうですね、頑張って食べたら美味しいケーキを造りましょうか」
「やったぁ」
「お野菜を食べたら、ですよ?」
にっこりと笑うサンソンに、セティもたじたじ。うーん、どうにかお野菜を消す方法を考えなきゃ。昔、お母様と一緒に見た手品をセティも身につけたらいいのかな。サンソンに、胃の中にイリュージョンしましょうってつっこまれそうだなぁ。
「生野菜のままではつらいと思いまして、試しにひとつ、こんなものを買ってみました」
「……なに?これ。どれっしんぐ?」
首を傾けるセティに、サンソンは「はい」と短く言葉を返す。かけるものみたいだけど、かけたところで味が変わるわけないもん。セティは信じないもん。
「では、お口を開けて」
「あのね、サンソン。今お口とお口が引っ付いて開かないの」
「ふふ。ケーキを食べるお口が塞がってしまっては作る意味もなくなってしまいますね」
「そ、それは……やだぁ」
じゃあ、食べましょうか。そう言ってセティの前に差し出されたキャベツ。しばらく睨みあったけど、サンソンは一向にそれをさげてくれる気配がない。もうっ、しぶといんだから!
「あーん」
「……あーん」
口の中に広がる、お野菜の味。だけど……なんだろう、いつも無理して食べている味じゃない。これって、何の味だっけ?
首を傾げるセティと、満足そうなサンソン。ごくん、とあっさり飲み込むことができて、セティもとても驚いた。野菜がこんなに美味しく食べられるなんて、思ってもいなかった。
「美味しかったですか、セティお嬢様?」
「……美味しく、ないもん」
なのになんだか負けた気持ちになって、つい強がってしまう。きっとサンソンにはお見通しなんだろうけど、美味しいとは絶対に口にしたくないし、今回はたまたま味があまりしないキャベツだったからいけたってことにするもん。ニンジンは、駄目。ピーマンも、駄目。どれっしんぐの手には簡単に乗らないんだから!
「そうですか。ではもう一口」
「えー!食べたもん!ちゃんとお野菜食べたでしょ!」
「残さず食べましょう。ね?」
「さ、サンソンの鬼……鬼だ……!」
ケーキまでの道のりは長そう。とほほ。





「美味しいなー」
「それはよかったです」
口いっぱいにパンケーキを頬張っていると、蜂蜜と一緒に蕩けてしまいそうになる。サンソンはなんでも作れるから、すごいなぁ。セティも挑戦してみたいんだけど、怪我をするから駄目って固く言われてるからできないもん。今度サンソンがいないときに、こっそりやろうかな。
「サンソン、サンソン。あのね、セティはサンソンのことが大好きだよ」
「……突然、どうしました?」
きょとん、とセティのことを見るサンソンに、サンソンでもわかりやすい説明をするためにセティは口を開く。
「サンソンは料理もできて、洗濯物もして、夜はお話を読んでくれる。だからセティは生きてるんだ」
またひとつ、パンケーキを口に放りこむ甘い味がじんわりと広がっていくのを感じながら、セティは言葉を続けた。
「……アメリアを思い出すの。サンソンといると」
セティと同じ、金色の髪。弱々しくて華奢、だけど立派なその背中を見上げてきた。尊敬、なんだと思う。頼まれた家事は全部一人でやって、"お母様"の命令をそつなくこなしていた。セティはいつもそれを見ているだけだった。
「この家は、今はサンソンとセティしかいないけど……サンソンが来る前はもっと賑やかだったんだよ。お父様がいて、アメリアがいて、メイドさん達がいて……んーと、"お母様"が来てから」
「お嬢様」
「……アメリアがいなくなってから、寂しかったんだ。だけど、今はサンソンがいるから、平気」
セティは知ってるの。サンソンはとっても優しい人だってこと。いつもセティのことを見てくれていること。お野菜を突きつけるサンソンはちょこっとキライだけど、それでもセティはサンソンが大好き。
「これからもセティの側にいてね、サンソン」
サンソンはアメリアによく似てる。だから、アメリアみたいにどこかへ行ってしまいそうな気がしたから。
大好きな人がいなくなるのは……もう、嫌なの。




(セティ・クロイツ)
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